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No.86~90

No.86 (たぶん)どこにでもある話

「あつい」「あ、焦がした」「あつい」「まあいいか。焼きそばは、焦がすくらいがおいしいし」「あつい」「よーし、できた」「あつい」「皿、皿」「あつい」「うるさい」「あつい」「本当、鬱陶しい。死体のくせに」

No.87 悪い子、悪い子

 青信号。青信号。「なんで言うことを聞かないの?どうしようもない子ね」赤信号。赤信号。「なんでわざわざ私に訊くの?」赤信号。「自分で考えなさいよ。もう大人なんだから」赤信号?青信号?赤青赤赤青akk

No.88 吹き零れるほどの、

 所構わず噴き出している。のが、愛情。間欠泉と異なり、四六時中、睡眠時間も関係ない。でも、容量にさほど個人差はない。激しければ激しいほど、涸れるのも早い。そして、二度と復活しない。そういうものらしい。

No.89 portrait

 僕には、名前がありません。性別がありません。思想がありません。そもそも、姿形がありません。剥奪されたのではありません。「した」のです。僕自ら。誰も僕を見ません。誰にも見られたくない僕は、幸せです。

No.90 紅差し指

 指を絡めずには、いられなかった。金木犀が、ふと香って。突然、何かを奪われたような心持ちがした。辺りに人気はない。隣には誰もいない。それなのに。薬指はなぜか、誰かのそれと絡めたような形をしていた。

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