No.61～65

No.61　幽

　こんにちは。……こんばんは？　ごめんね。暗いのか明るいのか、わからなくて。ううん、君の姿は見えるよ。というより、君の姿しか見えない。僕と君の間には境界があってね。君のそばにいることも、ままならないんだ。

No.62　老いた子

　大人？　僕は大人じゃないよ。老人？　そうだね、年齢で言えば。でもね。老人ではあっても、大人ではないんだよ。大人は、充分に発達した人間のことなんだろう？　八十余年生きてきたけど、僕は何も成しえなかったよ。

No.63　えーべーせーでー

　はい、はい。「にんむかんりょう」しました。あの、きいてもいいですか？　はい、はい。「てみじかに」。この子、まだ子どもでした。ころしてよかったんですか？　はい、はい。「よけいなこと」でした。ごめんなさい。

No.64　祈りにカトラリー

　このパン、何？ライ麦よ。らいむぎ……。そんな顔しないの。だって、苦い。この前「おいしいの、わかった！」って言ってたのに。……。どうしたの？　そうだった、がんばる（『あなたの子ども』らしくなれるように）。

No.65　××食堂

　お待たせいたしました、カツレツ定食です。あなたの血となり肉となりますように。……これで、あなたはもういけません。あなたに出来るのは、生きることです。……ええ。今度は、あなたが天寿を全うしたときに。