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真面目バージョンでお願いします 『ポニイテイル』★08★

(は? 草とか!)

(あとでグーでなぐろう!)

「で、すごいんですよ」

「なになに」

「オレら3人とも、みんな7月7日生まれだったんです!」

「おお! スリーセブンだ」

「これって超すごい確率じゃないですか?」

(チッ、教室ではそんなに驚いてなかったくせに!)

(外では大人しくて、家で元気なタイプだ)

(でもすごくない? 3人とも同じ誕生日って)

「いや、そんなにすごくないよ」

「え?」

(え?)

(あい?)

「40人のクラスなら、3人ぞろいは確率的にはわりと高いはず。たしか7パーセントくらいじゃなかったっけ。おお、ここでもセブンがそろった! 今日、ナンバーズ買った方がいいかもな」

「え? 7パーセント? 365日もあるのに?」

「数学クイズで昔やったよ。クラスに同じ誕生日が一組いる確率はほぼ90パーセントだから、3人そろうのはそんなもんじゃないか」

「2人は90パーセントなんですか?!」

(どんな計算式だろう?)

(何の話かぜんぜんわからん)

「あ、それでマッキー、悪ぃ! 今日はヤボ用があって行かなくちゃいけねんだ。明日ならヒマしてるから、昼休みも放課後も大丈夫だけど」

あどと風は、慌てて首を引っ込める。

「ヤボ用……って、どういう意味ですか?」

「馬が生まれた」

「うまがうまれた?」

「オヤジギャグとかいうなよ。知り合いに馬主がいるんだけどね、その人のところに馬が生まれたんだ。期待の赤ちゃんって言ってもピンとこないね、小学生じゃ。お祝に行かなくちゃいけない」

「わかりました。あ、これ、本当にありがとうございました」

(なんか、マカムラッチ、言葉づかいがメッチャていねいだね)

(体デカイくせに、意外と手下キャラだね)

「じゃあな。また明日、必ず来いよ」

「あ、でも、あの……すみません、一つだけ、質問していいですか」

「ん?」

ブラさんは真ん丸なつぶらな瞳を大きく見開いた。

「ブラさん前に……世界中を旅してたって言ってませんでした?」

「おう、宇宙以外はぜんぶの国に行ったぜ」

(1秒でバレるウソ!)

「その中で、ラクダを食べる国ありました?」

「ラクダ? ラクダか……まあ、ラクダを食べる国は確かにある。っていうか、ここだけの話、じつはオレ、喰ったことある」

「食べたことあるんですか!」

(ええ!)

(キモッ!)

「おう。でもみんな怖がるからナイショな。とくに女子には。前にヘビ喰ったって言ったら泣かれたし。これ以上怖がられたらヘビに、いや、クビになっちまう。なに、マッキーはラクダ食べたいの? それなら上野にいい店が」

「いや、ええとラクダは友だちで……」

「友だち?」

「いや、あの、ちょっとハズい質問なんですけど……なんか、12歳限定らしいんですけど、12歳の誕生日に宝さがしをすると、良いものが見つかるって話、聞いたことあります? ウワサだと、世界中にそういう話があるらしいんですけど」

「良いものって、たとえば?」

「ええとなんだろ……うーん、ええと、魔法の……」

「魔法の?」

「フライパンとか」

(あは! ちゃんと信じてんじゃん!)

(バカにしてたくせにね!)

「本当ですかね? オレ今日、12歳だし、もし本当なら、今日これから暗くなる前に探さなくちゃ。それと……」

(暗くなる前に探さなくちゃ、だって!)

(ぷぷぷ。かわいいな、マカムラッチ!)

ブラさんがパチパチンッと指の骨を鳴らした。

「オレはその質問に……何て言うのかな、真面目バージョンで答えた方がいい? それともフザケバージョン?」

「忙しいのにすみません」

真神村流輝はもう一度謝った。

「真面目バージョンでお願いします」

近いのか遠いのかわからない距離で、ホーホホッホホ、という鳥の声がした。

3人の少年少女は耳を澄ませた。

「前にした、隕石ハンタの話、覚えてる?」


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ポニイのテイル★8★

以前、仲良くさせてもらっていた原田宗典さんの『キャッチボール大会』に、原田さんの妹のマハさんが来ていた。当時、マハさんはまだマハさんになりたてで、私が「おめでとうございます!」と受賞へのお祝いを伝えると、「うん、頑張って書いた!」みたいな感じで笑顔だった。そして私に(私の記憶が間違いじゃなければ)こんなエピソードを教えてくれた。

「いつから書き始めたか忘れないように、1月1日から書いたんだよ」

この言葉がとても印象的で、物語を書き始めるのはぴったりとした、忘れられない日がいいな、と思うようになっていた。

でも、そういう『ぴったりとした日』を何回も逃してしまって、結局、このnoteでの連載を始めたのは、東京に大雪が降って、授業が休みになってしまった普通の月曜日だった。あれから1週間。その間に塾の子たちは、合計6人、大学受験と高校受験を経験して成長した。自分は教室前の雪をかいたり、この白いnoteに文字を書いたりして、小さいけれど、進展を感じる日々だった。

テキストに添えるのは、写真じゃなくてイラストをイメージしていたんだけど、時間と能力を考えあわせて、写真を撮ることにしました。今回の写真は、私の妻のパートナーである、手芸作家のちーさんからもらった『フライパン』です。前回も書いたセリフですが、こんなタイミングで役立つとは!

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