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『できない子を笑わない』フットボールペアレンツ002

藍澤誠/Jの先生です。

できない子を笑わない――というルールを世の中の人に守って欲しいというわけではありません。笑われたことに対する反発で選手が伸びるということもあるでしょうから。

出典が明確でないので話5分の2くらいで聞いて欲しいのですが、あの中田英寿選手がベルマーレ平塚時代、チームメートの大先輩である都並敏史選手とキックの練習をしているときのこと。ベテランの都並選手はルーキーの中田選手の左足のキックがあまりに弱いので、「おまえの左足しょぼいな」的な感じで笑ったそうです。

すると中田選手はその場ではムッとした感じだったそうですが、次に一緒に練習した時にはもう左足が前よりずっと良くなっていて、その後はご存じの通り、あり得ない強さのシュートを左足でバンバン蹴ることができるようになったとか。GKの川口選手も、中田選手のシュートが誰よりも一番ヤバかった、と述懐していましたし。

世界のナカータならあり得そうな気もするし、愉快な都並さんの話を盛った冗談のような気もしますが……私はというと、都並さんとは違い、ハルキがサッカーをやり出した当初から「できないことを笑わない」ということを心掛けていました。

きっかけはデイビッド・オルティーズです。

ハルキが幼稚園に通っていた2012年。当時親子でメジャーリーグにハマっていて、二人で来る日も来る日も野球ばっかりしていました。BSでやっているMLBの中継もよく見ていて、その日はボストンレッドソックスの試合がやっていました。

ハルキはボストンの帽子をかぶって、エルズベリーだとかペドロイアだとかのマネをしながら応援していたのですが、ハルキの好きな選手の一人に、オルティーズという選手がいました。体がくまさんのように大きくて、DHでバコバコホームランを打つパワーヒッターです。そんなオルティーズがボテボテの内野ゴロを打って、一塁に向かってドタドタと走っている姿を見たときのこと。私は思わず

「あは! オルティーズ、遅っ!」

って笑いました。
すると、ハルキは――

「わらわないで! パパはオルティーズよりはやくはしれるの?!」

泣きながら激怒したのです。

同じようなことが公園でも起きました。

いつもは親子二人で野球をしていたのですが、そのときは公園に他にも小さな子たちが何人もいて、いっしょに野球をやりたいと言ってきました。

昭和の頃は野球やっている少年ばかりで、公園ではすぐに知らない子たちを交えて試合ができたのですが、少子化の時代、昔のようにわちゃわちゃ遊ぶ機会はとてもレアです。

いいよ!

いつもふたりで野球をやっていると、走塁とかキャッチャーができないのですが、たくさんいればいろいろ遊べる! ハルキははた目にもわかるくらい喜んでプレーしていましたし、やたらコントロールの悪いピッチャーが世の中にはいるということまで面白いみたいで、ずっとご機嫌でした。

ところが……

一人の野球をやったことのないであろう男の子が、後から参加してきました。彼がバッターになったときのことです。その子はなんとバットのどっちが持つところなのかわからず、バットを逆さまにもって構えたのです。

それを見て友だちは爆笑してました。その子はギャグでやったわけではなく、なんで笑われているのかわからない様子でした。すると園児のハルキがいきなり怒りました。

「わからないんだからしょうがないじゃん!」

泣き出して楽しかった野球は強制終了。
みんなと別れて、とぼとぼと家に帰ることになりました。

「さいしょはわからないんだから。わらわないでよ……」

ハルキは自分が笑われたわけではないのに、しばらく怒っていました。
そんなこともあって私は

「できない人を笑わない。ハルキだけでなくそのチームメートのことも、スポーツ選手も笑わない」

というマイ・ルールを親として自分に課すことにして、10年後の今に至っています。

そんな正義感の強い園児ハルキも、小学校にあがると世間でよくあるように、何度か笑われる機会がありました。

スイミングを始めたときのことです。プールから泣いて帰ってきたので理由を聞くと何も言わない。妻にたずねると「若い女の先生から、なんか泳ぎ方がおじいちゃんみたいだねって笑われたらしい」とのこと。

ううう、それはけっこう傷つくかも。

私なんか反骨精神で「は? 見てろよ、お前よりうまく泳いでみせるぜ!」って中田英寿系の努力をするタイプですが、ハルキにはそんな思考回路はなく、ふつうにプール通いが嫌いになりかけました。そのコーチがすぐにいなくなったおかげで、その後も続けていましたが、私は今でも「おじいちゃん」発言にちょっと傷ついています。まあ、若い先生だったみたいなので、ドンマイな部分もありますよね。ハルキの言葉をそのまま使うと、最初はわからないんだからね。

また小学校2年生の頃のこと。東京で行われたレアルマドリードのキャンプで、ゴールキーパーの子がハルキを言葉でからかったらしく、ハルキは猛然と向かって、その子に馬乗りになってケンカし始めるという……。ふだんは全然ケンカなんかしなくて、温厚そのものなのですが。ジダンのようにワールドカップ決勝でキレないか心配ですね。

そんなハルキも高校生になって、サッカー仲間に「あおられる」ことを揚力にして新たなスキルを身につけたりできるようになりました。海外に行くならトラッシュトークに慣れないとすら思います。というか、トラッシュトークがわかるようにスペイン語やらなくちゃ。ん? 相手の罵詈雑言を理解できるように学ぶっていうのは変な気もするぞ(笑)。

私はというと初期に自分に課した「できない子を笑わない」というルールが内面化しすぎて、ついつい、今でも過剰なくらい「人を笑わない」ことを心掛けてしまいます。

笑わないようにした方がいいのか、笑われてもそれをエネルギーにするようにした方がいいのか、その両方なのか、ほどほどがいいのかはよくわかりませんが、少なくともサッカー選手やベースボールプレイヤーを「バカにしない」という意識のおかげで、私自身については、その後オルティーズより速く走れるようにトレーニングしたし、水泳は苦手だったのですがハルキとそこそこ練習して、私もおおじいちゃんっぽい泳ぎではなくなったので良かったと思っています。

ていうか、トレーニングをしているすごいおじいちゃんをプールで何人も見たから、おじいちゃんっぽいって誉め言葉にすら思えるんですけどね。

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