見出し画像

『惑星巡り』参加作品裏話(試し読みあり)

11月11日に発行された、デザイナーのRumさん主催のコラボ作品集『惑星巡り』に参加させていただきました。

デザフェスvol.58のために企画した、創作活動の界隈を超えたメンバーでの作品集「惑星巡り」  
太陽系のそれぞれの惑星をテーマにイラストレーターと小説家、歌人がタッグを組んだ作品を計9点収録しています。

RumさんのBOOTH説明欄より転載

私は火星の小説を担当させていただきました!
火星を舞台にした、スチームパンクSF風の恋愛小説です。藍沢にしては珍しい感じの、少し挑戦的な舞台設定になりました。


【あらすじ】
人類が火星に移住して1世紀ほどが経ち、その空は蒸気機関が排出する煙で灰色に覆われていた。高嶺の花な美少女である幼馴染・フォシンに想いを寄せる主人公・ポボスは、彼女に誘われて、火星にはない海の色を探すために地球を観測しに古い時計台へ行くことになる。


本編については、上記リンクよりRumさんの通販からご本でぜひお読みいただけたらと思います。兎彦さんが担当されたイラストに合わせて書いた作品なので、そちらと合わせてお楽しみいただけたら嬉しいです。

さて、こちらの記事では、ネタバレしない程度に制作の裏話を語ろうと思います。

まず、作品制作に取り掛かる前に、主催のRumさんと一緒にキーワード出しをして、方向性を決めていきました。

・表面は酸化鉄を多く含む岩や鉄に覆われているため赤い
・火星にも四季があり冬にはかなりの大きさの氷が発生する、氷の湖が観測されている
・極地方にドライアイスでできた極冠がみられる
・およそ 35 億から 40 億年前には液体の水が海のように大量にあった
・占星術的なアプローチ…情熱・闘争心・意欲・行動力・力強さ
・中国では人心を惑わす星、災いを表すとして恐れられていた

火星にまつわる上記の情報や兎彦さんのイラストの作風を加味して、ヒロインは「ミステリアスで小悪魔的な女の子」に決まりました。

また、テーマカラーの赤が酸化鉄の赤であることや火星移住計画などが実際に構想されていることから、スチームパンクSF風に仕上げていくことになりました。
そして、小説の内容としては、火星が地球の隣の惑星であることから、近いのに触れられない関係性の男の子目線の切なめラブストーリーに決まりました。

ここまで決まってからは、スチームパンク好きの友人に参考になりそうなものを教えてもらったりアドバイスをもらいながら、小説の設定を詰めていきました。

ヒロインの設定については、兎彦さんのラフ案を拝見して、齟齬がないように人物像を作り上げていきました。

ヒロイン フォシン・プラネータ
モチーフ:火星
・腰まで届く長い栗毛色のハーフツイン
・仕草が淑やか。育ちが良さそう。マドンナ的。
・冷ややかな瞳(赤い瞳でありつつも熱っぽさがない)
・行動力があり、自立している
フォシンという名は中国での火星の呼称から取りました。学園のマドンナ的存在の美少女であり、ミステリアスでクールな印象もありつつも、どこか放って置けない愛嬌もある魅惑的な女の子です。

主人公については、ヒロインと対照的な設定にしました。

主人公 ポボス・サテッレス
モチーフ:フォボスとデイモス。歪、小惑星っぽさがある星々
・モブっぽさ。目立つ方ではない。
・青い瞳
・灰色の髪
・ヒロインとは幼馴染。小さい頃はよく遊んでいたが、ミドルスクールから急激にモテ始めた彼女と疎遠になる。
・天体に興味がある
ポボスという名はフォボスから取り、衛星をモチーフにキャラクターを設定しました。幼馴染のフォシンには憧れじみた恋情を持っています。

舞台は、産業革命以後の文明(蒸気機関)のまま火星移住に到達した人類というイフ設定を決めて、友人に相談しながらそれらしいモチーフを書き出して物語に取り込んでいきました。この過程が一番大変でした……。スチームパンクとは?というレベルのところから始まり、Pinterestで参考画像を探しまくり、スチームパンクの世界観の作品を探し、物語に組み込んでいきました。時計塔から地球を見に行く、というストーリーが生まれたのはこの辺りです。

執筆して件の友人に読んでもらって、意見を聞いて直して、ようやく短編が完成しました。
自分にとってかなり大きな挑戦になって、ひとつの転換点とも言える作品が仕上げられたと思います。ご興味のある方はぜひ、本編もよろしくお願いします。


【試し読み】冒頭1200字程度(本編全4549字)

 フォシン・プラネータは星を纏っている。彼女の持つ煌めきは僕の瞳のなかでちかちかと光り、衛星を惹きつける引力のように、けっして離してはくれない。

 かつて地球に住んでいた頃の人類がこの星を称したように、フォシンが『人を惹きつけ惑わせる存在』になったのは、ミドルスクールに上がり、周囲が色めき出した頃だった。
 昔の言葉で言えば、高嶺の花、とでも言うのだろうか。その誰もが目を奪われる端麗な容姿と、妖艶にも思える淑やかな仕草、謎めいた雰囲気も相まって、彼女の人気は留まるところを知らず、いつしか学年をも越えるほどになっていた。
 必然、ただの幼馴染でしかない僕が彼女と話す機会など皆無に等しくなり、もう二度と手に届かない存在になった、はずだった。

 それが、何故か今、僕は彼女に連れられて、煙突だらけの工場地帯を歩いていた。赤く錆びついたパイプだらけのごちゃついた街には機械音がひっきりなしに響いていて、煤の舞う空にはうるさくプロペラ音を鳴らす飛行機が飛び交っている。その荒廃した風景の中で、隣を歩く彼女だけが美しく、この街にとっては異質な存在だった。

 読書家のポボスなら、知っているかもしれないけれど、と前置きして、フォシンは話し始めた。
「地球の空って、青かったんだって」
 彼女は僕の隣を歩きながら、何気なくそう投げかけた後、そのまま空を見上げた。
 ポボス、というのは僕の名だ。正直、あまり気に入っている名前ではないけれど、彼女の鈴の音のような澄んだ声で呼ばれると、悪くないように思えるのだから不思議だ。
「そうらしいって、本ではよく読むけど、全然、想像できないよね」
 読んだ昔の図鑑によれば、火星の空は本来橙色をしているそうだが、この星のすべての動力源である蒸気機関の煙のせいで、綺麗な空を見ることはない。いつだってこの辺りは煤けた灰色の空だ。
 火星移住が始まる頃には地球の空も灰色に覆われていたそうだから、青空を知っているのなんて、少なくとも百年、いや、それよりもっとずっと前の人間くらいだろうか。
「青いのは空だけじゃなくて、地球には青い、ウミ? もあって、宇宙から見ても、青いんだよね?
 それでね。見てみたいなって思ったの。青い星」
 彼女は軽やかにステップを踏んで僕の前に進み、そう言って振り向いた。
「だからって、こんな灰まみれの場所じゃ、地球どころか衛星さえ見えないよ」
 僕は空を一瞥する。何処に行っても灰と煤に塗れたこの街だけれど、特にこの工場地帯などはそれが酷く、上空どころか空気もくすんでいるほど。
 星は空気の澄んだ場所が観測に向いているらしいが、明らかにここは正反対だ。
「うん。でも、良い場所を見つけたの。来てくれる、よね?」
 フォシンは妖しげに目を細め、手招きをする。
 無茶な提案だとわかっている。フォシンの言う『良い場所』が何処かもわからないし、昔から彼女は、突拍子もない行動に出ることがままある。でも、それなら、余計に放っておくことなんてできない。
 結局、僕は抗うことなんてできずに、ただ彼女の後を追うのだった。

(続きは『惑星巡り』にてお楽しみください)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?