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藍沢紗夜
2023年8月16日 16:12
「雨ってじめじめしてて、頭も痛くなるし苦手なんだよね」 サツキは薄紫のパンプスの爪先で水溜りに映る景色を弄りながら、何気なくそう呟いた。 高校時代の親友だったフミに誘われて、紫陽花の名所に向かっているのだが、やはり六月の中旬、梅雨前線が列島に掛かっている真っ最中。雨でないほうが珍しいとはいえ、久しぶりに会える友人との散歩を邪魔されているようで、サツキはなんだか落ち込んでいた。「え、そうなの?
2023年5月23日 20:44
それは、アリアが都にやって来て間もないある日のことだった。その日はレッスンも休みだったので、気晴らしにアリアはまだ見慣れぬ街を一人散策していた。 白壁の輝く街に見入りつつ、人混みの中を掻き分けながら大通りを進み、人を避けて路地裏の方に入ると、そこには小さな喫茶店があった。伝統的な建築を思わせる優美な内装が窓から覗き、何処からともなくバターの食欲をそそる香りが漂ってくる。アリアは上がってきた涎をご