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【小説】「BISTRO MUSIC」#2


前回までのBISTRO MUSIC

青緑出版の朝凪は「アイアンタウン」と呼ばれる錆びれた地域に土地を所有している譜田を取材する。取材を始めていくと、その土地にはかつて「BISTRO MUSIC」という音楽ライブができるビストロがあったことがわかる。

前回までの主要な登場人物

青緑出版 朝凪
青緑出版に努めている。アイアンタウンという変わった地域があると聞きつけて取材にきた。

BISTRO MUSICオーナー 譜田 
アイアンタウン一番広大な土地を持っている。その土地にはかつてBISTRO MUSICというビストロがあり、譜田はそのオーナーであった。

BISTRO MUSICホール サツキ
BISTRO MUSICのホールとしてアルバイトをしている女子高生。

BISTRO MUSICの常連 普門
BISTRO MUSICの常連。音楽談義になるとつい熱くなる。

SPORTS REAL ESTATE

メモ帳に手を走らせながら言った。
「素敵な場所ですね」
「ああ、でもスポーツ向上委員会が発足されてからは経営は厳しくなっていったよ。
「スポーツ向上委員会…?」
「正しくは有限会社SPORTS REAL ESTATE(スポーツリアルエステイト)。 SRE事件ってあったでしょう。」

「SRE事件はニュースで少し見たことがあります。まさか…」
「アイアンタウンはSRE事件によって生まれた被害地域なんだ。」

*****************

「おはようございます。オーナー。」
「どうした?サツキ。わすれものか?」

今日は休業日なので、驚きながら聞くとサツキは不穏な空気を纏いながら言い始めた。

「はい。エプロンに財布忘れてしまって。」
「そりゃあ困ったな。」
「まあ。でもそれだけじゃなくて。」
「どうした?」
「これ、見てください。お父さんの書斎で見つけたんですけど。」

サツキはテーブルに一枚のチラシを置いた。
そのチラシには
”この街の健康促進のための行動を起こしませんか?ースポーツ向上委員会ー”と書いてあった。
「なんだ?これ。自治会の活動か?」
「違います。多分うちの父さんの会社が何か絡んでいるみたい。」

サツキの父親は不動産屋で働いている。

「お父さんが?いやいやお父さん不動産の営業でしょう?スポーツと何にも関係ないじゃないか。」
「そう、関係ないの。だけど、最近のお父さんよく休日出勤行くんだけどそれが”スポーツ関連の施設の営業に行くんだよ”って言ってるの。」
「たまたまじゃないか?」
「そうかな。でもこんな偶然あるかな。店には来てない?このチラシ」
「いや、今朝ポストを確認したが入ってなかったな」

サツキは閃いた様子で
「だったらこのチラシは父さんが自分で持ってきたということになる。なぜもっていたのか、調査してみよう。」

「何を言ってるんだよ。娘に疑われるほど辛いものはないぞ?」
「私だっていやだよ。でも最近の父さんはずっと機嫌が悪いし、あんなに好きだった音楽さえ聴いてないの。レコードなんてほこりまみれなのよ。」

サツキの両親も音楽好きで、父親はレコードをコレクションしていると言っていた。

「そこまで言うなら、探ってみるか。」

僕とサツキはまずスポーツ向上委員会とは何なのかを知る為にネットを駆使したり近所に住んでいる常連さんに聞いてみることにしてみた。

「もしもし普門さん?」
「なんだいオーナー。今日は休みだろ?」
「店は休みなんだが、少し聞きたいことがあってな。普門さん、スポーツ向上委員会って知ってるか?」
「は?なんだその胡散臭い向上委員会という名前は?」
「やっぱり知らないよなあ。サツキの父さんが書斎に置いていったらしいんだわ、なんだか怪しいって。娘の勘かね。」
「なるほどな。ちょっと仕事仲間にも聞いてみる。」
「ありがとう。また店にも来てな」
「もちろん。」

普門さんは市役所に20年以上勤めているから人脈も幅広い。一方でサツキは店のパソコンで調べたり、学校の友人に手当たり次第に電話していた。

「オーナー、これ見て。」

そこにはスポーツ委員会のWEBサイトと思われるものが表示されていた。

「これ、絶対にスポーツ委員会ってわかるようなサイトじゃないけれどチラシの文言と一致するよね。」
「確かに。この街の健康促進のための行動を起こしませんか?と書いてあるな。…下の方には”教育”と”地域創生”をSPOTSの力で実現…か」
「お父さんの働いてる会社名、SPOTS REAL ESTATEなの。しかも、さっきユミ、えっと生徒会長やってる親友に何か先生から言われてないか聞いたら
”来週からスポーツ推進週間をしますので朝礼で説明をお願いします”ってカンペ渡されたらしいの」

「教育委員会まで…。これは只事じゃないかもしれないな。」

10分後、普門さんから電話が来た。
「オーナー、ちょっと今から店行ってもいいか。広報課と観光課の後輩も連れていく。」

間もなく普門さん達は店に来て、さっそく会議が始まった。
「こちらが広報課の柴戸と観光課の由来木。」
「柴戸さん、由来木さん、よろしくお願いします。」
柴戸さんと由来木さんは緊張した面持ちでお辞儀を返してきてくれた。

「では、まず柴戸さんから話を聞きましょうか。」
「はい、よろしくお願いします。柴戸です。実は先月から頻繁に広報課に訪問される企業様がおりまして。その方から新しく配布したいとチラシのサンプルをいただいていたのですが、それがスポーツ向上委員会と記載されていたんです。」

サツキは前のめりになりながら、チラシを差し出した。
「こちらと同じですか。」
「ああ、全く同じだ。これはどこでもらったのかな?」
「私の自宅です。父親の書斎にありました。」
「なんと…。もしよければお名前伺っても良いかな。」
「巻田です。」
「…!広報課にいらっしゃったのも巻田さんでした。」

僕は、ショックを隠せないサツキをなだめるのに必死だった。
「サツキ。お父さんは犯罪を犯しているわけではない。まだ全貌がわからな
いのに落ち込む必要はないぞ。大丈夫だ。」
「はい….。」
すると普門さんは首を傾げ
「だとすると、市役所の営業時間は平日のみだから土日に巻田さんが仕事へ行く理由がわからないな。」
「そうですね。」

すると、観光課の由来木さんが話し始めた。
「ここからは僕が話します。この市の観光課にはイベントチームが存在してその中でも屋内イベントと屋外イベントで担当が異なります。どちらも多忙なため定期的に情報共有するためのミーティングがあるのですが、そこでとある問題が浮上しまして。」
「問題…。」
「はい。イベント会場が確保できないないのです。しかも、その理由がとある1つの企業がほとんどの会場を貸切っているのです。」
「まさか、SPORTS REAL ESTATEじゃないだろうな。」
「わかりません。会場側も顧客の情報を外部に知らせることはできませんので。ただ、ミーティング後予約が取れなかった会場の催事ポスターをできるだけ集めてみたところ共通点がありました。」
「共通点…?」
「主催が教育委員会か市議会なのです。」

普門さんは詳細は聞いていなかったらしく驚いた様子だった。
「なんで1つの企業が借りているのに主催は教育委員会とか市議会の名を連ねているんだろう。」
「あくまで私の推測ですが、企業が会場を手配し教育委員会や市議会の活動の手助けをしているのではないかと。」

サツキは納得した様子で
「だからうちの学校も急にスポーツ推進週間をはじめるのね。」

僕は不思議だった。なぜ、1企業がそんなお堅い組織と繋がっているのか。そしてなぜスポーツなのか。
その後実際に足を運ぶしかないという結論になり数日後にあるイベントへ参加することにした。

#3へ続く


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