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16-1.会員制?の飲み屋さん①


あれ以来僕は好奇心を抑えきれず、バイトの休みの前日にKさんに連絡しました。Kさんは「ちょうどいいね。俺も暇だから夕方くらいに〇〇駅においで」と言ってくれました。僕は『Kさんに会えば僕の何かが変わるんじゃないか』と思っていました。


僕はKさんの身の上話はほとんど聞いていませんでしたが、この人には不思議な魅力がありました。何も知らないやつを騙してやろうとか貶めてやろうなんて感じはまったくなくて、ただ僕を純粋に可愛がってくれてるようでした。そして、僕が知らないことをたくさん知ってて、『早くちゃんとした大人、ちゃんとした男になりたい』と思っていた僕には、Kさんは大人の男としての魅力の塊のような人に見えていました。


電車を2つ乗り換えて言われた通りの〇〇駅に到着すると、そこに広がっていたのはオフィス街でした。僕は再び電話をかけました。Kさんのナビゲーション通りにオフィス街のビルの中を歩いて行くと、たどり着いた先はやはりオフィスビルでした。その建物の地下一階、それを知らない人はまず行くことがないようなところに、きっと仕事終わりのサラリーマンだけが知ってるオアシスのような居酒屋がありました。

Kさんはニコッと笑って「よく来たね!ここに座って」というと、隣の椅子を引いて僕を迎えてくれました。僕とKさんはビールで乾杯をすると、前のオフ会のことやSくんとの出会いのこと、Kさんの仕事のことなんかを話したり聞いたりました。僕が飲み始めて2時間くらい経った頃、Kさんは僕の顔を見てこう言いました。

Kさん「で、たいは女の子と男の子どっちが好きなの?

僕は『この人になら…』と思い、僕の今までのことを話しました。お付き合いをしたのも、セックスをしたのも女の子とだけだということ。でも、昔『ホモは気持ち悪い』と言われてモヤモヤしたこと、男の子のちんちんを見たときにドキドキしたことも…。

Kさんはニコニコしながら僕の話を聞き終えると、「やっぱりね。じゃあ、そろそろたいのモヤモヤを解消しに行こうか」と言うと席を立ちました。それから居酒屋の大将に「ごちそうさま」と言うと、表の通りに行ってタクシーをひろいました。向かった先は前に来たあのネオン街でした。僕はKさんが言った『やっぱり』の意味が分かりませんでした。


僕がKさんに連れられて向かった先は、『会員制』と書かれた飲み屋さんが集まるビルの中にありました。木製のドアの隙間からは歌声や喋り声が聞こえてましたが、その時ちょっと違和感を感じました。Kさんがその扉を開けると『カランカラン』とぶら下げられているベルが鳴り、それと同時に聞こえたのは「いらっしゃいませぇ〜」という男とも女とも言えない声でした。

Kさんに促されて入った店の中は少し薄暗くて、カウンターにお客さんが5人くらいいました。そのカウンターの向こうには"女の人が着るようなドレス"を着た"オジサン"が2人いました。オジサン達は普通女の子でもしないような濃いお化粧をしていて、どこか可愛いらしいような、ちょっと面白いような、不思議な感じでした。

その頃はまだテレビにオネエタレントというジャンルの人はそんなにいなくて、僕が知ってるのは美川憲一さんと志茂田景樹さんくらいでした(2人ともオネエじゃないけど)。僕は初めて見たお姉さんのような格好のオジサン達にとても衝撃を受けて、ずっと目を逸らせずにいました。奥から1人だけ男の格好をしてヒゲを生やしたオジサンが出てきて、おしぼりを渡しながら

Jさん「Kさんお久しぶり〜!お兄さんははじめましてですね〜Jです、よろしくね!ところでKさんが彼氏連れてくるなんて初めてじゃない〜?」

オジサンなのに女の人のような口調でJさんは言いました。『彼氏…?』僕はよく分かりませんでした。

Kさん「Jちゃん、この子は彼氏じゃないしこんな店に来たことないから、最初からそんなこと言っても分からないよ(笑)」

Jさん「あらぁ、そうなの?お兄さんお名前は?」

たい「たいって言います」

Jさん「たいくんね!可愛い顔してるわ〜あなたみたいな子がこんなところに来たらモテモテよ!Kさんの彼氏じゃないならワタシがいただいちゃおうかしらっ?」

Kさん「まぁ、デートくらいしてみてもいいんじゃない?たいは多分ゲイじゃないけど、ちょっと男に興味があるみたいだから(笑)」

Jさん「あらそうなの!?じゃあ後でメール教えてね〜」

僕はビックリの連続で何から喋っていいのか分かりませんでした。その前に一つだけ聞いてみました。

たい「あの…ゲイってなんですか?

Jさん「そうね、そんなこと知らないわよね!ワタシ達みたいなオカマとか、同じように男好きの男のことも含めてゲイって言うのよ。たいくんは男に興味があるの?」

たい「まだよく分かりません…」

Kさん「すぐに分からなくてもいいんだよ。せっかくだから気になることがあるなら聞いてみたら?Jちゃんが教えてくれるよ(笑)」


僕は昔友達に言われた『ホモ』とKさん達が言う『ゲイ』の違いもよく分からないまま、飲みなれない味のお酒を飲んで、好奇心なのか緊張なのか分からないけど早く動く気持ちを抑えていました。それと…小さい頃に歳上のお姉さんたち思ってたのと同じように、『なんで僕みたいな男が可愛いんだろう?』という懐かしい気持ちが少し戻ってきました。

僕はお気持ちだけでも十分嬉しいのです。読んでくださってありがとうございます🥰