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綻びるは、街。

古着のセーターをかぶった。
17時の町内放送が背中に響いていた。
遠くにカラスが寂しく鳴いていた。
夕陽に光る山々はやっぱり静かだった。
途中で挫折したあの本をもう一度読んでみたくなった。

国道を小さく車が走っていた。
安いブーツに糸が綻びていた。
山の向こうに続く電線を指でなぞっていると、なぜか無性に、妻が淹れるいつものミルクティーを飲みたくなった。

ふと耳元で声がした。
己の高慢が囁いた。
これまで律し築いてきた謙虚を、それは、いとも簡単にすり抜けた。
そいつは「お前も大人になったな。」と囁いた。
たかが田舎のあぜ道の真ん中を、無意識のうち、偉そうに歩いていた自分を心から恥じらった。

いつの間にかあたりは薄暗くなっていた。
東の山に夜がはじまっていた。
不出来なわたしは汚いカラスになり、あの山まで飛んでいった。
わたしの下にはただ、平野が広がっていた。
それはそれは美しい景色だった。
橙に染まる佐賀の景色を見るのはこの冬で最後だった。

ふと我に返った。
町内放送は鳴り止んでいた。
安いブーツに糸が綻びていた。
遠くにカラスが寂しく鳴いていた。
夕陽に光る山々はやっぱり静かだった。

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