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#100 脳の外在化

「弱い」は「強い」

 生物としてのヒトが、”人間”として”社会”を形成するようになったのは、”弱い”生物であるがゆえに、食べ物の豊かなジャングルから追われたためだと考えられています。「豊かな環境」は、そこに生きる生物に「何らかの新しい対応・適応」を要求しません。生き残れる生物は、結果的には「厳しい環境」でも生活できるので、全体としては”強い”生物になったと言えると思います。

「ソフトウェア」と「ハードウェア」

 食べ物が少ない、一人では大きな獲物を捕まえたり子育てができない、などなど、ヒトには欠点がたくさんあります。そのために、言葉や記号など目に見えないモノいわゆる”ソフトウェア”と、火や”針など目に見えるモノである”ハードウェア”の両方を使いこなすことで現在に至っていると思います。

「分化」と「外在化」

 人間社会は、職業を分担して「分化」するとともに、科学を発展させ従来生物が持っていた能力を道具や機械を用いて代替する「外在化」を進めてきました。

 「分化」の例としては、「蟻(あり)」の集団を見ればわかるように、分業することはより個体ごとに適応が進み、集団としての全体の効率と能力が高まります。人間で言えば、開拓農民の人たちは全て自分たちだけで対応したと思いますが、現代人の多くは、自分の食料や住居を自分だけで”不自由なく”生きられる人はどれほどいるでしょうか?(とても少ないと思います。)

 「外在化」の例としては、最初に思い浮かぶのは「走る」「飛ぶ」などです。トラやチーターに追われて、逃げおおせる人はきっといないでしょう。例えば、”走る能力”は自転車・自動車・鉄道などの「乗り物」を用いて、他の生物と同等・それ以上を達成しています。

「記憶」の外在化

 人間以外の生物が、群れ(社会)の”知識”を共有するときには、声(鳴き声)・身振り(ダンス)・ニオイ(分泌物)などなどを使っていると思います。人間は、これらの方法以外に、石に刻む・色を塗る、文字を使い記録するなどなど、規模と時間の広がりが大きい「記憶」の方法とモノ(媒体)を使っています。コンピュータを、以前は”電子計算機”と呼んでいましたが、最近では”人工知能”と呼ぶ機会が増えてきました。”知能”は多くのデータ(記憶)をもとに行っているので、コンピュータも”電脳”であり、「走る」「飛ぶ」と同様・それ以上に外部化が進んでいます。

「コンピュータ」で人間は退化?

 「自動車」ができて、人間は「退化」したでしょうか?人間の持っている機能は、確かに低下したと思います。その分、短時間で移動ができたり、たくさんのモノを運んだりと、時間と体力に”余裕”ができます。しかし、一方で、環境破壊などの問題が新たに発生するという課題はありますが。

 「コンピュータのご利益(りやく)」は様々なところで、感じます。自動車の「カーナビゲーション(カーナビ)」も、GPSと地図データベースと探索という、まさに”人工知能”の成果の一つと言えます。カーナビを使う前には、自分の頭の中に、道路マップが記憶されていました。たどり着くまで、時間をかけた下準備と、ハラハラドキドキ、到着したときの満足感、これら一体で道路マップが”自分の脳”に記憶されていました。カーナビを使い始めてからは、何度同じ道を走っても、自分で覚えようという気がないので”カーナビの中の脳”からの指示に従って、ハンドルとアクセルを操作する”手下(てした)”となり果てています。個人的には、これは「退化」と言えると思っています。

「退化」の「対価」?

 一見すると「退化」しているように思えることも、実はその「対価」として多くの価値を得ていると思います。例えば、知らない土地に行くときに、道に迷うことがなくなりました。待ち合わせに遅れて、その後の人生が変わる!なんて緊張感、今はかなり減ったと思います。東京の鉄道の乗り換え、どの車両から乗れば一番歩く距離が短くなるかがわかる時代が来るとは、昔は考えられませんでした。

 ”カーナビ”のように、自分で選択(迷う・選ぶこと)が減った分、自分が主体的に行動していると思えなくなり、コンピュータの”手下”と思えかねません。手にした”余裕”を何にドウ使うかという、新しい選択が生まれています。まさに,一人一人の”腕の見せ所”です。

 新型コロナ感染症の対応で、今社会が揺れています。大昔「豊かな環境」であるジャングルから弱い存在のヒトが群れをなして人間社会を築き「弱さを強さ」に変えたように、コロナによる新しい生活様式への対応が強い人間を作りつつあります。「分化」と「外在化」をこれからも、適宜使いながら人間社会は続くと思います。

 さぁ、”ヒト”ではなく、”人間”としてふるまいましょう。

(写真: 部屋のホワイトボードに貼ってある、強さと優しさを感じる”お気に入り”の伝統美術たち)

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