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【インタビュー】ラッパー / トラックメイカー・坂本雪郎が考えるスポークンワードの魅力~

SNSを日常的に触れるようになって喜ばしいことのひとつとして琴線に触れて思わず反芻したくなったり、鮮烈な印象を受けて頭から離れなくなる音楽たちとの出会いの機会が格段に増えたことが挙げられます。

ある日、Twitterのタイムラインに流れてきたYoutubeリンクを開いたところ聞こえてきたのは現代音楽とマスロックを掛け合わせたような特徴的なトラックと、そのうえで圧倒的な言葉数をにじみ出る熱量を抑え込みながら語り掛けるポエトリーリーディングでした。

(リンク先はリリックMVだったので)ラップするその姿を目で見ているわけではないのですがスマホから流れる音を通して浮かび上がってきたのは、相手に自分を映しながら問いを投げかけ続けるGOMESSや新宿駅で通り過ぎる人々を相手に自分を表現し続ける不可思議/wonderboyの姿そのもの。

一気に心を掴まれて調べてみるとアーティスト名は坂本雪郎。彼を知った当時はYoutubeを中心に楽曲公開を行っていたのみでしたが、22年2月に各種ストリーミングサービスへの楽曲配信がスタートすることになりました。

今回はその配信リリースを記念して新進気鋭のスポークンワード・ラッパーでありトラックメイカーでもある坂本雪郎 / Gedatureさんにインタビューをし、これまでの活動やスポークンワードの魅力、影響を受けたアーティスト(芸術家)や彼を取り巻く仲間たちに至るまでたっぷりと語って頂きました。

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坂本雪郎 / Gedature

― インタビューを受けてくださりありがとうございます。はじめましての方もいらっしゃるかと思いますのでまずは自己紹介をお願いできますか。

坂本:
坂本雪郎です。現在21歳で東京出身、HIPHOPアーティスト兼・Gedature名義でビートメイカー/編曲家をやっています。

ー 早速ですが音楽活動を始めたきっかけを教えてください。

坂本:
音楽活動を始める前からSF小説を書いていました。ですが、書けば書くほど『これを表現したい!』という直観的な構想を形にするまでのプロセスが多く、ようやく完成したとしても形式的な整合性に当初のイメージや理想がかなり削られてしまっているという壁にぶつかってしまったんです。

そんな時に2000年前後のHIP HOPに出会い、"言葉を言い尽くさない"という意味では間接的、それでいて聴く人の感性に対して直接的に訴えかけるという二面性を持っていることに気が付き、それが魅力的だと感じました。
なによりこの表現技法なら、小説よりも血の通った有機的な作品を作れるのではないかと感じたわけです。

ー 雪郎さんにとって表現活動において最も重視する点が直感や頭の中にあるイメージをいかにそのままの形で具体化するということなのでしょうか?
例えば、時間をかけて何度も見返し、当初とは全く違う形のアウトプットにしていくミュージシャンもいらっしゃいます。

坂本:
僕の場合、『こうした方がいいのでは?』と何度も考えを巡らせて言葉を尽くす程にどんどん説明不足になってしまうんです。

頭の中にある当初のイメージと全く違う作品になる、というのは実は受け手側、すなわちリスナーがしてくれたりします。そもそも僕の中では結構クダラナイ事を考えていて衝動的に作った曲がリスナーによって意外な解釈で美化されたりすることもあるわけです。そうすると自分の中でも作品の見え方が変わってきます。だからまずは自分の頭の中にある初期衝動に近いイメージをそのまま表現することに意識をおいている感覚はありますね。

ー なるほど。雪郎さんが軸足を置いているのはHIP HOPの中でも”ポエトリーリーディング”という位置づけになるかと思います。ここ数年、国内でもTrapを筆頭にHIP HOPの盛り上がりが続いていますが、頭の中のイメージを具現化するためにポエトリーリーディングはどう作用しますか?

坂本:
たとえば英語って日本語ほど母音と子音を区別しないんですよね。だからこそ海外のTrap等はリズムやビートへのアプローチが日本語ラップとは変わってきます。日本語(ラップ)の良さは子音と母音をハッキリ区別することによる響きの切れ味にあると思います。特にブーンバップの上で踏まれる奇数韻などからそれを感じています。

僕はスポークン・ワードこそが日本語ラップの王道だと考えていて、トラックではなくラップが音楽性の要となり、かつトラックの音と整合することでリリックの描写に説得力が増しているような楽曲に惹かれてきました。

ー すなわち、子音と母音をはっきり刻む日本語だからこそ言葉を詰め込みながらストーリー性を持たせることができ、かつ抑揚をつけて語り上げるポエトリーリーディング・・・スポークンワード自体がトラック的な要素も持ちえ、聴きごたえがある音楽になっていくという理解なのでしょうか。

坂本:
そうですね。言語表現をメロディに頼らず音楽的にする為にスポークンワードにはトラックや楽器隊をどう解釈し、アプローチするかが鍵になります。自由度が高いだけに、言葉のトーンや刻み方を少し変えただけで全く聞こえ方が変わってくるんですよね。

近年「ポエトリーラップ」と呼ばれている作品たちは”ラップの基礎よりも歌詞の内容が重視される”と思われがちですが、実はかなり音楽的な感性を要されていると思います。

ー ありがとうございます。今のお話を伺って”坂本雪郎”名義での活動に加えてGedature名義でトラックメイキングも行っている理由の一端が垣間見えたような気がしました。ただし、2月28日に配信リリースされた「消滅前夜」ではトラックだけでなくラップもGedatureで担当されています。“坂本雪郎”と“Gedature”はそれぞれどういう立ち位置なのでしょうか?

坂本:
"Gedature"は元々はサンプラー等の機材を用いてビートライブ/音源制作をする際に付けた名前なんです。ラップは基本的に日本語を用いますが、音は言語に比べると世界共通なので、入口を増やすために海外風の名前でも付けるか、と。その時たまたま読んでいた本で目に入った"解脱"という言葉、好きな花の名前"ダチュラ"、"文学"という意味の英語''literature''を組み合わせて考えました。

僕、基本的に自分の作品から作者の人間性や生活感を排除したいと思ってるんですよ。作品は自分という人間から独立し、独り歩きして価値を身につけていって欲しいと思っているので。

"坂本雪郎"という名前は高校時代に付けた名前で本名ではないのですが、日常生活の中で呼ばれることが少なくないため本名よりも名乗る事が多いかもしれません。なのでGedatureで活動する時はより概念じみた存在として制作したいと思っています。

あ!もちろん坂本雪郎という人格を捨てる訳ではなく、あくまで坂本雪郎としての活動の中で得てきた感性や人間関係は大事にしつつ、それらを背負った上でこれからも使い分けていきたいという意味です。『人間性を排除したい』と口では言っても『作品で嘘は書けないんだなぁ』と最近の制作で痛感させられているので。

ー 既に対外的に発表している楽曲で作品で嘘は付けないと思ったものはありますか?もしあればそれはどんな部分でしょうか。

坂本:
だいぶ前にnel(藤本九六介)さんと作った「鬼」という作品は、文脈やストーリー性(歌詞の時間軸)を排除し、ただ普段漠然と考えたこと達のツギハギを曲にしたものなんですよね。

”生まれた時の悲しみを忘れられなくて 騙されたフリしても本当は傷ついてた”とか、何を思って書いたのかは忘れましたが今聴き返しても『あ、分かる』と思わされます。

ー 次にリリックについて伺わせてください。雪郎さんが書くリリックには全体として厭世観が漂いながらもその先に希望や期待が見え隠れしている印象を受けます。リリックにおいて影響を受けている人はいますか。

坂本:
ああ、それ、よく言っていただけるんですよね。自分の楽曲からポジティブな側面が感じられるというご感想は意外なのでビックリしています(笑)元々小説家を目指していた時は1日1冊はジャンル問わず小説を読んでいたのですが、作家・西尾維新先生のレトリックはかなり印象的でしたね。

手段ではなく目的としての文章、というのでしょうか。

3行で済むような説明に、言葉遊びや詩情で修飾して数ページを費やしたり。それでいて西尾維新先生は”リズム感”がいいんですよ。先程も触れましたが日本語ならではの子気味良さというか。

あと、難解な語句を沢山知っている、という意味とは別の”語彙力”があるなぁと。『これを説明/表現する為にその語句を使うのか』と感嘆させられました。

またリリックに関しては、韻を畳み掛けるように踏み、かつその韻が文脈や音楽的な要素において不可欠となるような、ICE BAHNをはじめとする硬派なHIP HOPに影響を受けているとおもいます。

ー 少し角度を変えた質問になりますが、雪郎さんの周りにはトラックメイカーのコタニシブキさんやSSWのnomoeさん、HIP HOPのインディーレーベル・Our Story's Musicを主宰するWriter Shawisさんをはじめ同世代の仲間たちの連帯、コミュニティがあり、面白いことが起こりそうなワクワク感があります。そういった縁は積極的に作りに行っているものなのでしょうか?それとも自然発生的に生まれているものですか?

坂本:
あぁ、昔から人間関係には本当に恵まれたと思います。本人達には直接言う機会はなかなかありませんが感謝してもしきれないくらいです。

今、質問されて気が付いたのですが、あまり積極的に人間関係は作りにいかないほうですね。というのも音楽において、”友達になりたいから”という理由では基本的にアプローチしたことなくて・・・。

ただ・・・そこまでのことは滅多にないのですがたまたまその人の音楽を聴いてあまりにも感銘を受けたとき、希望が見えて救われたとき、なぜか『直接感謝を伝えなくてはいけない!』と思うんですよね。そうしたら案外向こうも自分の作品を気に入ってくれてたり、お礼以上の会話が生まれたりして・・・。そこからは「友達の友達」方式で自然にコミュニティができることが多いです。

ー 最後に今後の抱負があれば教えて下さい。

坂本:
抱負・・・無いと言えば無いですね。語弊を産むかもしれませんが何も考えずに制作しているので。

というのも、今となっては作品に込めるメッセージや思想等は無意識に滲み出るものだけで充分だと思っているからです。強いて言うなら、自分はどれだけ格好悪くても弱くても無価値でも、たとえ死んでいても、自分の作品には自分から独立した価値を手に入れていって欲しいです。

アートは、自分よりは長生きすると信じているので。

そういった血の通った有機的な作品を作る為にも、ただただ、より格好いい物を作りたいという意思・目的に尽きます。

ー 本日はありがとうございました!

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