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ATATAが「2021」にこめた希望

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未だ収まる兆候すらないCOVID-19感染拡大によって既存の価値観や生活、仕事といったあらゆる物事に大きな変化が訪れた2020年。ライブやフェスへの出演という、音楽活動における重要な要が出来なくなってしまったミュージシャンたちにとっては非常に厳しい1年が続いていることは間違いない。

バンド結成10年目の初日にあたる2020年11月7日に、恵比寿LIQUIDROOMでバンド史上最大キャパのワンマンを予定していたATATAも公演中止という苦渋の判断を取らざるを得なくなった。

結成当時からメンバーそれぞれが家庭と(音楽とは別の)仕事を持っていたため、"家庭""仕事""音楽"3つのバランスを調整しながら時にスタジオや時にリモートを駆使しながらの音源作成、土日・祝日(そして有給休暇を使いながら)を中心にしてできる限り最大限のライブ活動を行ってきたATATA。

そんな彼らが自身で”賭け”と表現するくらいの過去最大キャパの会場を押さえ、これまでの活動の集大成、かつ次の10年をスタートするための重要な起点として約1年をかけてARMY(ファンの総称)と共に温めてきたのがこのライブ。誰が悪いわけでもない状況に苛まれるなかで中止を決断するまでには想像もつかないくらいの苦悩があったに違いない。

ただし、これまでを振り返ってみるとどんな状況であってもタダでは転ばずARMYにサプライズを与え続けてくれたのが僕らが愛してやまないATATAの10年間であったとも言える。

今回もそんな期待を裏切らず、10周年記念ライブ開催(予定)当日の11月7日に新曲「2021」をサプライズリリースでARMYに届けてくれた。

『ATATAの活動の発想って逆説的なんですよ。まず自分達が出来ないことから考えるんです。(中略)マイナスから考え始めたら結果全部プラスに転がったんですよ。』

かつてインタビューを行った際にATATAの根本にある活動理念を上記のように語ってくれたVo.奈部川氏。

COVID-19感染予防の観点から現時点でライブハウスに人が集まり身体をぶつけあって大声で歌うライブができないなら、再びそのような状況でライブができるその日を楽しみに待っていてもらうために必要な楽曲を届けて、今と未来をつないでいこうという意図が「2021」にはあるのではないだろうか。

再生ボタンを押してから約4分30秒、僕たちはATATAの10年間の歩みを音と歌詞と映像で振り返りつつ未来にむけた希望を感じることができる。

Dr.大倉氏(デンカ)とBa.金田氏(マーシー)が紡ぐ安定感あるビートのうえで鳥居氏と池谷氏のツインギターがザクザクとイントロを鳴らしつつ途中から気持ちいいテンポのリズムギターとテクニカルなメロディーラインを弾くリードギターに分かれていく点は活動初期からATATAをATATAたらしめる展開そのもの。

2サビ後のブリッジ部分で飛び込んでくるKey.岩田氏(鰯)のキーボードフレーズと音の目立ちかたは2016年にリリースされたEP「JOY」あたりの雰囲気を醸し出す。

そしてその後に訪れるQUEENを彷彿とさせるロックオペラ風な展開。長年のファンですらびっくりしつつ思わずニヤリとしてしまうこの展開は果たしてこれからの彼らの音楽性につながっていくものなのか、それともこの曲ならではのお楽しみ的(?)展開なのか。いずれにせよその後のシンガロングポイントと合わせてライブ時に盛り上がること間違いなしだろう。

次に歌詞について。ATATAの歌詞はこれまでどちらかと言えば抽象的な表現をされているものが多かった。もちろんそれぞれには作詞を担当するVo.奈部川氏の中にある体験や感覚に裏打ちされた明確なテーマはあるけれど、最終的には聴き手側が各々の解釈で自分を投影できるように表現されていた。

一方「2021」はこれまでのどの楽曲よりも具体的な表現で伝えたいメッセージを打ち出している。それは今、音楽を愛する誰しもがライブに対して同じ想いを持っているという共有性、そして『ライブハウスでまた会おう!』という明確なスローガンを伝えたかったゆえではないだろうか。

"変わり果てた街から君の街を思い出している
 いつか見てた風景 また積み上げてる Once again
 雨模様だとしても 違う空に向かう
 術なくも 傘はある 花を携えて
 Time goes by この場所で
 The time has come また始める"

最後にMVにも触れておきたい。

活動初期から自分たちを"新代田FEVER系"と称するくらいライブハウス・新代田FEVERと強いつながりと絆を持ってきたATATA。MVの中ではFEVERを中心に、京王井の頭線の新代田駅(※1)、LIKE A FOOL RECORDS(※2)、扉が閉まったままのERA(※3)、美味しいコーヒーが魅力のRR(※4)と彼らの10年間と深く関係してきた場所たちの今の姿が映し出される。

そして後半。それまで観客のいなかったFEVERの姿から大勢の観客が溢れるフロアや2020年9月にFEVER内にオープンしたばかりのフライドチキンショップ・POOTLEの映像が流れ、最後に大きく「2021」のロゴが映し出されることでやがてやってくる未来への希望を感じさせてくれるのだ。

* * * * *

冒頭にも書いたとおり、2020年11月末にあってもCOVID-19の感染は収まるどころか拡大傾向を見せ、相変わらず音楽業界、特にライブ産業は厳しい状況から抜け出せていない。

ただ、こういう時だからこそ再びライブハウスで会って音を全身に浴びるという希望を捨てず、音楽を愛する人ひとりひとりが支えられる限りの気持ちと支援を持ち寄ってその時を待ちたい。

ATATAの10周年イヤーは始まったばかり。来年の11月6日までにはみんなでFEVERに集まって、ぐっちゃぐちゃのフロアでテキーラ飲みながら「2021」合唱したいですね。

※1)言わずと知れたFEVERの最寄駅。改札を出て右奥を見ればそこは音楽好きの天国・新代田FEVER。
※2)FEVERから徒歩約5分。EMOシーンに造詣の深いcinema staffの辻さんが経営するレコードショップ。併設する居酒屋・えるえふるで一杯ひっかけながらレコードをディグるのがおすすめ。
※3)活動初期からATATAのライブで使用されている下北沢にあるライブハウス。2020年、地下1階にBAR「shochuERA」もオープン。早く行きたい。
※4)FEVERの店長・西村氏がオーナーを務めるカフェ。コーヒーも美味しいけどこれからの季節はラムチャイで体の芯から暖まりたい。

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