相手と自分を認めた上でする、本当の対話
「準備した言葉を話し終えてからが、本当の対話なんだけどね〜」
そんなことを言いながら、彼は“凪ちゃんに話したいことリスト”があることを教えてくれた。
批評家であり作家である東浩紀さんが、8時間のトークイベントをする理由として『用意した話題の先に本当の対話がある』とお話しされていたらしい。
チラッとしか見えなかったそのリストは、スマートフォンの画面いっぱいに連なっていて、私は「そんなの作ってるの〜?」と笑いながら、嬉しさでこっそり涙目になった。
彼はごく自然に、過ごす時間の中で、リストの内容を話してくれた。
最近嬉しかったこと、好きな写真家のこと。
女性が書いた歌詞だと思って調べたら、男性が書いていて驚いたこと。
友人のこと、死にたいと思う時のこと。
彼の話と話の間に、私も、年末年始の出来事を話した。
年末は、例に倣って断捨離をした。
大抵、速やかに処分対象になるのは、「人と会う為に買った即席の服」。
処分を迷うのは「カラー診断や骨格診断で合うとされているから買ったけど、気に入っていない服」。
どちらも『他人軸で買った服』だと再認識する度に情けなくて、大きくなるゴミ袋の横で、心を縮ませていた。
分かっているのに繰り返す『他人軸』は、そろそろやめようと、今回は自分と対話して選択するように意識した。
色や素材は好きか、自分の肌に合っているか、安心できるか。
その服を着て好きな人と会いたいか。
好きな人と暮らす家へ持って行きたいか。
すると、面白いくらい自然に流れるように、捨てられることに気がついた。
まるで背負い投げを気持ちよく鮮やかに決めるかのように、勢いがついてしまったので、途中で止めたほどだった。
『他人軸』を飽き飽きするほど味わった私だからこそ、純度の高い『自分軸』を育てられる気がする。
寒い季節の間に、もう1度くらい断捨離をして、お部屋の中をお気に入りのものだけで満たしたい。
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例年通り、1月1日は母方の祖父母の家で、親戚と集まった。
人見知りで、当たり障りのない会話が苦手な私は、年に1度の親戚の集まりが大の苦手で、毎年黙々と美味しいお節を食べ、その時々で思ったことを口にせず飲み込んでいた。
そんな私が、なぜか今年は、自然に話したいことを話せていた。
祖父にも祖母にも元気で長生きして欲しいこと。
叔父の会社の取り組みが素敵で面白いと思っていたこと。
言いたいことを言おうとすると、頭の中を複雑にさせ、言葉に詰まる私が、言葉を飲み込まず、落ち着いて、話したいと思ったタイミングで話せるようになっていたことに驚いた。
それと同時に、祖父や叔父の言葉が、なめらかに私の中に入ってくることにも驚いた。
祖父は、私が成長し続けていることを褒めてくれた。
そして、私たち子どもが自由に生きていられるのは、父が色々な思いをして育ててくれたからだと、それに感謝していると話してくれた。
叔父は、私の音楽活動を応援していることを教えてくれた。
そして、私の感性が培われたのは、父と母の感性が素晴らしいからだと思っていることを話してくれた。
話したいことを自然に話せたことも、生まれた時から毎年必ず顔を合わせる人だからこそ分かる話をしてもらえたことも、嬉しかった。
私を通して、私の大切な人が認められていることも、嬉しかった。
彼は、断捨離の話は笑いながら、親戚の集まりの話はゆっくりと聞いてくれた。
私は、相手や私を認めた上で対話をできるようになれたのは、彼と過ごす時間がきっかけだと伝えた。
“凪ちゃんに話したいことリスト”の全てと、私の話しを終えた別れ際、私が「考え事したいから、このあとひとりでカフェに行こうと思ってる」と言うと、彼は付き合ってくれて、そこから3時間以上、色々な話をした。
夢のこと、自分を縛り付けている思考のこと。
暮らしのこと、檻の中でしていた恋愛のこと。
お互いにいつかは話そうと思っていたこと。
リストの内容に通ずるものがあったり、新しく見つける感覚があったり、豊かな時間だった。
『用意した話題の先に本当の対話がある』は、きっと、ほんとうなのだと思う。
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