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自分を磨くこと、鏡になること
このエッセイは2022年3月4日開催『月の正夢』で発売されたエッセイ集に掲載されています。
年の初め、君が代のような人と、初詣に行った。神社と富士山が見える海辺の町で、それぞれが用意した話題を思い思いに話した帰り道、話し足りずに入ったカフェで、用意した話題の先にある対話をした。
その中で、作家として生き続ける人になりたいと思った。
先日、自分と対話をしながら絵を描く女性と、四時間ほどかけてお互いのことを共有した。
その中で、同じ時代を生きる作家たちが表現を形にする為に、一緒に考え動く人になりたいと思った。
この『なりたい』と思う感覚や理由を、抱きしめやすい形に可視化して残しておいたら、人や場所や物との縁を迎える器になると思ったので、ここに置いておこうと思う。
![](https://assets.st-note.com/img/1679303948158-arMuemJREK.jpg?width=800)
先に書いた絵を描く女性に「凪ちゃんは、変化する自分がどんな形をしていると思う?それは、どんな素材?」と聞かれた。
私は「十代後半から二十三歳くらいにかけて、自分の輪郭が見え始めた。最初はサイコロみたいに正六面体だったけど、それが正八面体になって、どんどん面が増えて、今はほとんど球体みたいな感じ。素材は金属。叩くと形が変わって、ゴールドで、時間の経過と共にくすむ感じ。」と答えた。
その後も対話を続けながら、私が頭の中で真鍮の球体をイメージしていると、彼女も「真鍮じゃない?」と言ってくれて、目に見えない触れられない自分の形が、腑に落ちた。
彼女は「真鍮は、五十年お手入れをし続けた時が、一番美しくなるらしいよ。お手入れして、七十歳くらいになった時、凪ちゃんはどんな女性になるんだろう。凪ちゃんは、ずっと魅力的な女性で在り続けるよ。これは、お世辞じゃなくて。」と言ってくれた。
彼女の形についても、私はいくつか質問して、彼女は真剣に答えてくれた。
いつか彼女が目に見える形にしてくれると思うので、ここでは秘密にしておく。
作家として生き続ける為にも、同じ時代を生きる作家たちと一緒に考え動く為にも、私は私を、真鍮を磨くように、磨き続けたい。
最近、私が親密になった人や過ごす時間が長くなった人は、大体三ヶ月くらいで、変わってしまうことに気が付いた。
大きな仕事を任されるようになったり、地上波の番組に呼ばれるようになったり、魅力的な転職を叶えたり。自分に合った土地へ引っ越したり、友人との関係が良い方向へ進んだり。
物理的にも精神的にも、深くじっくり、同じ時間と空間の中で一緒に居たいのに、走り出してしまう彼らを見て、私はずっとさみしかった。
特に、恋人が走り出した時に、なんとも言えない気持ちになっていた。
会いたいのに、時間が足りなくなって会えない。私だって走りたいのに、彼と全く同じようには走れない。
さみしくて、嫉妬のような気持ちもあった。
でも、これで良いのだと、やっと思えるようになった。
彼らは、彼らの素敵さを惜しみなく込めた私の言葉を受け取って、走りだしたのだと思う。
彼らの目に、彼らが美しく映るように、私が鏡となっていたのだと思う。
自意識を膨らませすぎだと、言われるかもしれない。
けれど、こう思うことで、さみしさをさみしさで終わらすのではなく、彼らが走って起こした風を浴びて、私の輪郭を私が自覚できるようになった。
傷つき傷つけ合う人間関係からやっとの思いで抜け出した十九歳の頃は「私が素敵な人になれば、もっと素敵な人に出会える」と自分を鼓舞していた。
でも、今の私は「お互いが変わり続けながら、素敵さを増しながら、一緒に過ごし続けられる関係性を、きっと私たちなら持てるはず。」と、親密になれた人や多くの時間を共有する人へ伝えられる。
それぞれが違う場所を走りながらも、同じ家へ
帰ってこられる。そんな関係性を持つことの安心感で、更にもっと走りたい場所へ走り出せる。
刹那的ではない持続的な、線のような関係性の持ち方を、ようやく見つけられた気がする。
私には好きなエンターテイメントが沢山ある。
音楽、絵画、小説や雑誌などの本、エッセイ、映画やドラマやアニメ、デザイン、サッカー観戦。
日々触れるエンターテイメントから、藍谷凪として曲を作ったり言葉を残したりすると、元になったものにも触れて感想をくださる方が多くいる。
その感想は、私にはない視点で語られていて、こんなにも美しく豊かな感性を持った人にライブや作品を好きでいてもらえて嬉しい、と常々思っている。
そこから一歩踏み込んで、私の感性を信じてもらえているから、私の言葉に説得力を感じてもらえているから、作品や作品の元になったものにまで触れるきっかけになれている、と考えて前向きな責任感を持てるようになりたい。
そして、藍谷凪として出会った皆さんと、お互いの感性を信頼し合って、次の豊かさへ繋げたい。
私の半径の中だけでも、エンターテイメント同士の境目が薄くなり、それらが日々の営みに馴染んだら、嬉しいと思っている。
自分を磨き、鏡になり、風を浴び、次の豊かさへ繋げる。
これらが、私が二十代後半でしたいこと。
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