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『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』【ライターの本棚】

読み終わっても尚、なんだか胸が熱い。

書くことって、ライターってこいうことだよね!
わたしはなぜこの本を今まで読まなかったんだろう!
早く出会いたかった!

読んでる間、ずっとそう思っていた。
それが古賀史健さんの『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』


分厚い!なのにすらすら読める構成

この本を手にした時、まずはその分厚さに驚いた。
すぐ読めるかなぁと不安にもなったが、読み始めると構成もタイトルの通り取材、執筆、推敲に分かれており、とても読みやすかった。

著者のライターのスクールの教科書になるような本が作りたいという思いがしっかり反映されていてわかりやすく、そしてこれからのライター人生において何度も何度も読み直したいと思う本だ。

この分厚さから、覚悟して読まないと・・・という気持ちにはなるが、取材、執筆、推敲をまとめてくれている本はなかなか他にない。それに「私はライターだから推敲の部分は関係ない」とか「ライターだけど取材ライターじゃないから関係ない」などと思わずに、書く仕事に携わる人は初心者でも経験者でもとにかく読んでほしい。
そして読み始めたら、覚悟して読まないといけないと思って遠ざけていたことを必ず後悔する。そのくらい随所に金言のような言葉がちりばめられている。

長年ライターとして活躍されている著者の経験やスキルをひけらかすものではまったくなく、テクニックを伝えるというよりは、ライターとは?取材とは?編集とは?推敲とは?という、それぞれの根本的な存在意義を教えてくれる。

そして最初と最初に書かれているこの言葉は特に印象的だ。

取材者にとっての原稿とは、取材を助け、取材に協力してくれた全ての人や物ごとに対する「返事」なのだ

『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』古賀史健

本当にその通りだと思う。取材相手に興味を持つことはもちろん、どれだけ考えたか、調べたか、それが全て原稿に反映される。取材、原稿の向こう側に、読み手だけでなく関わってくれた全ての人がいることは忘れないでいたいし、取材相手に謙虚でいたい。今後の自分のライター人生で迷った時、壁にぶつかった時の指針になってくれる考え方だと思う。

その他に取材、執筆、推敲それぞれのカテゴリで印象に残った内容を紹介したい。

取材は「訊く」じゃなくて「読む」からスタート

取材をどうやって進めればいいか。ちゃんと質問ができるか。会話がスムーズに進むか。そんなことを考えて取材前はいつもいつも緊張する。
でも取材は「取材をする時」に始まっているのでなく、普段の日常生活から始まっている。そんなふうに思わされた記述があった。それは下記2点。

  • 日常のすべてを取材者の姿勢で臨む

  • 書かれたことじゃなく、書かれなかったこと考える

普段の生活で人から話を聞くこともあるし、インタビュー記事を読むこともある。そういう時いかに「取材者の目」を持っていられるか。それがどれだけ大切なことかをこの本から教えられた。
確かに、人と話をしているときに「取材だったらどんなこと聞きたいか」と考えたり、誰かのイタンビュー記事を読んで「他にどんな話が出たんだろう。なぜこの内容を原稿に選んだろう」と考えること。もうそれだけで「取材者としての日常」は始まっている。

普段から「取材者の目」を持つことにより、日常が違った世界に見える。そうすうれば、きっと取材前に感じる不安も半減できるはず。
すぐに実践できることなので、始めてみようと思う。

取材とは調べることであり、考えること

取材相手について、事前リサーチするのは取材する立場として大切なことは十分にわかる。でも「知ってる」と「分かってる」は違う。それを実感させられたのが

  • 取材とは調べることであり、考えること

という記述。少し調べて知ったような気になるときがあるけど、本当に分かってると言えるまでリサーチできているのか。そこはしっかり自分と向き合いたいし、取材相手のことを考えれば考えるほどに「もっと知りたい」「こういう経験はあるのか?」など思いは膨らんでいくはず。
調べること、考えること、この2点はしっかり頭に入れておきたい。

執筆するライターは翻訳家でもある

ライターは翻訳家。それだけ聞くと、どういう意味なのか伝わらないかもしれないが、本書を読むとよくわかる。

取材内容を全て原稿に落とし込めるわけじゃない。相槌やことばの間、身振り手振りは読者に伝えることができない。また話し言葉をそのまま原稿に書いて記事にすることも難しい。耳で聞いたことをそのまま書けば原稿が出来上がるわけでもない。どうしたらその記事で一番伝えたかったことを伝えられるか。取材相手の本当の思いをどうしたら原稿に残せるだろうか。そんなことを考えながら執筆は進む。でも手が止まる時がある。
書き進めていくためには

  • 何を捨て、何を残し、どう伝えるかの構成を学び鍛える必要がある。

取捨選択と構成。それこそ原稿で一番難しいところであり、原稿の完成度が変わってくるところ。取捨選択し、構成を考える行為自体が、話をしてくれた人の思い、言葉を、ライターが自分なりに考え翻訳しているんだ。と気付かされた。

どうしても書きながら手が止まってしまったり、構成に悩む時があるけど、そんな時はせっかく話をしてくれた取材相手の思いを「翻訳」している。その思いで取り組みたい。

推敲の本質は自分への取材&翻訳

自分の文章をチェックしていると、3回くらい読み直しても尚、誤字脱字やなんとなくリズムが悪い部分を発見したりする。編集さんに提出した後に見つけた時、「こんな基本的な間違いなんで気づかなかったんだろう・・・」「今更だけど、構成変えたほうがいいのかも・・・」と考えることもある。でも推敲の章では、それは当たり前のことで、それでも自分と向き合うハートが必要なんだと教えてくれた。

本の中でも、なぜ推敲をするとなると気が進まないのか、という部分に触れている。それは、ダメな自分と向き合から。私は読みながら、「まさにそれ・・・・!」と思わず目を見開いてしまった。

本書ではそういう自分を

ダメな自分=書き手としての自分
読者としての自分=鋭い自分

と表現してくれた。
書き手としての自分にダメな部分があっても、読者としての自分が鋭ければいくらでも気づける。読者として鋭い自分でいるためには、自分自身へ取材をすることが大切。「書いてた時私は何を考えてたんだろう?」「どうしてこう書いたんだろう?」「これって必要?他にも何かなかったっけ?」など自分自身が自分自身に問いかける。そしてそれを噛み砕いて翻訳する。その作業がきっと原稿をより良いものにしてくれる。

取材の章でも、同じように読んだインタビュー記事に対し、「なぜこう書かいたか」などの疑問を持つ大切さを著者は述べていたが、推敲でも共通点があった。

取材も推敲も切り離せるものでなく、根底でつながる取材者としてのマインドは同じもの。そう実感させられる。

何回も読んだらまだまだ発見がありそう!

他にもたくさんのことが書かれており、ここでは紹介しきれないのが残念なほど。
でも私自身も読み進めている間に記憶が薄くなっている部分もあるので、この本は何回も何回も読み直したい。
ライターとして迷ったときには必ずこの本に帰ってくると思う。これからライターとして、特に取材ライターとして仕事をしていくために、この本に出会えたことが大きな意味になる気がしている。

今はそんな気がしているだけだけど、今までよりも少しは自信を持って取材に臨めるようになりそうだ。



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