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UNOU JUKU×産総研デザインスクール (前編)「AGC河合さんによる、デザインで価値創出するコミュニティの軌跡」

産総研デザインスクール2期生・AGC株式会社 河合 洋平さん

産総研デザインスクールの修了生・現役生の活躍を紹介するnoteマガジン「​​AISTDSアンバサダー」。本記事では、産総研デザインスクール2期生・AGC株式会社ご所属の河合 洋平さんが社内で立ち上げた「UNOU JUKU(右脳塾)」の活動のようすをお伝えします。今回、特別に産総研デザインスクールメンバーがAGCの協創空間『AO』を訪れ、UNOU JUKUコミュニティ活動の最終回に参加することができました。河合さんがUNOU JUKUを通して成し遂げた実績、そして河合さんが描く新たな未来とは。

AGC株式会社が2021年、AGC横浜テクニカルセンター内に開設した協創空間『AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)』。この空間のコンセプトデザインに関わった立役者の一人が、産総研デザインスクール2期生の河合 洋平さんです。2023年12月19日、産総研デザインスクールの現役生、修了生たちがAOへ河合さんを訪ねました。

訪問の目的は、河合さんが社内で展開するコミュニティ「UNOU JUKU(右脳塾)」と産総研デザインスクールの協働イベントに参加するため。イベントでは、UNOU JUKU3年間の軌跡を共有すると共に、産総研デザインスクールの海外コラボレーターで、建築家のPavels Liepins- Hedström(パヴェルス・リピンス・ヘッドストローム)さんの講演が行われました。イベントレポート前編では、河合さんによるUNOU JUKUの活動報告と今後の展望について共有しています。

正解のない時代、デザインの力で新しい価値を創造する

イベント会場にはAGC、産総研デザインスクールそれぞれから10名ほど集まり、オンラインを合わせると40名ほど参加。冒頭、AGCの河合さんから「UNOU JUKU」の目的と始まりを説明します。

AGC株式会社 技術本部企画部協創推進グループ 河合洋平 さん

河合さん: UNOU JUKU(右脳塾)とは、アートやデザインのクリエイティブな情報交換を通じて、思考をアップデートするための相互コミュニケーションの場です。この場ではアートを「自分なりの視点で世界を捉え、感性をつくる」ことと定義し、そこからうまれた共感からデザインを考え、人の役に立つことを目指しています。

立ち上げの背景には、ビジネスの変化があります。これまではお客さんが求めるスペックに応えられるものを開発していましたが、今は「サステナブルに寄与する素材がほしい」といった一つの正解がない要望に向き合うことが多くなりました。ロジカルだけでなく、アートやデザインなどクリエイティブの力が必要です。

ビジネスを取り巻く状況が変わると、お客さんとの関係性も変わってくると河合さんは話します。一つの答えを求めるのではなく、自分たちなりの問いから始めて、お客さんの意見をもらいながらデザイン、エンジニアリングをしていく。UNOU JUKUは外部のデザイナーやクリエイターとのコラボレーションを通して、さまざまな試行錯誤ができる場所として発展していきました。

河合さん: まずはクリエイター、デザイナー、そして技術者が対話することで、それぞれの視点を共有していきます。そこからワークショップを通してアイデアを形にし、そのアウトプットを他の方に見ていただくことで、新しい気づきを得ていく。この循環をつくることで、人々の思考を変え、その先でカルチャーが染み出し、新しいビジネスがうまれていくと考えています。

コロナ禍で始まった「UNOU JUKU」コミュニティ

UNOU JUKUが社内で立ち上がったのは2019年。最初のきっかけは、社内で経営層に向けてデザインの必要性とデザインセンターの開設を提案した「デザイン開発宣言」だったそうです。その一歩目としてUNOUのコミュニティ活動を開始し、現在は300名のコミュニティメンバーが所属します。コミュニティ最初のイベントは、「DESIGNART TOKYO」を訪れることだったそうです。

河合さん: 2020年1月に、UNOU JUKUをAGCの公式活動にしてほしいと人事からオファーがありました。その後まもなくコロナ禍に入り、リアルでイベントを開催できたのは一回のみ。オンラインでの活動が基本になりましたが、プロジェクトメンバーによるさまざまなプロジェクトを具体化することができました。

UNOU JUKUのメンバーである中川さんが中心となり、アーティストの村山耕二さんとコラボレーションをして「鳥取の砂を使ってガラスをつくる」プロジェクトが動き出しました。これをきっかけとして、各地の砂をガラスに変えるプロジェクトが複数立ち上がることになります。

各地でとれた砂でできたガラスを日本列島の形に配置。現在は協創空間『AO』2階のギャラリーに展示されている。

「人を癒すガラスをつくりたい」という想いから生まれたプロジェクト

UNOU JUKUの開始時は「DESIGNART TOKYO」を訪問する立場でしたが、なんとその2年後には出展する立場に。その後も、クリエイターとのコラボレーションでさまざまな作品が展示、アワードへのノミネートにつながっていきます。

河合さん:今日このイベントにも来ている成田さんと一緒に、「空を閉じ込めたガラス」を製作しました。もともと私はガラスの機能以外の価値を探求したいという想いから、「人を癒すガラスをつくりたい」と考えていました。その一つの形が、「空を閉じ込めたガラス」です。

空を閉じ込めたガラス。朝陽の光と、夕焼けの光に照らされたガラスは色を変え、自然のうつろいを感じさせる。 photo by 浅野高光

河合さん:さらに派生して「自分の心のなかにある空を表現する」というテーマでワークショップを実施し、ものを展示するだけではなくもう少し深いコミュニケーションに発展していきました。「空を閉じ込めたガラス」を使った作品をコラボレーションアーティストのstudio SHOKO NARITAさんがミッドタウンのアワードに出展したところ見事準グランプリを受賞し、想像以上の結果につながったと思います。

UNOU JUKUは次のステージへ…

実はUNOU JUKUの活動は、今回のイベントで一度幕を閉じるそう。河合さんは次の展望を見据えています。

河合さん: UNOU JUKUで右脳のデザインというクリエイティブの手法(HOW)はある程度浸透したと思うので、次はWHYとWHATを具現化する段階にきたと感じています。

次に考えているのは、素材をつくる本当の意味を探求するコミュニティ「そざいの生態JUKU」です。そざいの生い立ちから地球に還るまでをよく観察し、生命との関わりを感じながら、そざいの意味を探求していく。これからの未来を見直すために、未来の可能性を秘めた素材をいろんな視点で考えていきたいと考えています。

次回、イベントレポート後編では、本イベントにゲストスピーカーとして登壇したスウェーデン出身の建築家、Pavels(パヴェルス)さんの講演内容をお伝えします。デンマーク・コペンハーゲンを拠点とし、Design Educates Awards 2022やLexus Design Awards 2023など国際的なアワードに選出された気鋭の建築家・クリエイターが見つめる未来を共有します。

河合さん登壇イベントのお知らせ

2024年1月24日、産総研デザインスクール2期生、AGC株式会社の河合さんにシンポジウムへ登壇いただきます。今回の記事ではお伝えしきれなかった河合さんのUNOU JUKUの活動背景、組織におけるデザインの可能性を共有いただきます。どなたでもオンラインで参加可能ですので、ぜひお気軽にご参加ください!

トップ写真:浅野高光
テキスト:花田奈々

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