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【AISO制作インタビュー】音の宇宙地図を描く『ZERO GRAVITY TRAVEL』(ゲスト:HIROSHI WATANABE aka KAITO)

音×テクノロジー。AISOはこれまでにない音楽構築システムです。
BGMが半永久的に構築され、スイッチを切るまで音楽は鳴り続けます。

これまでAISO「アーティスト版」第1弾から第4弾まで、計8名のアーティストに楽曲を制作いただきました。
第2弾でお迎えしたアーティスト、HIROSHI WATANABE aka KAITOさんのAISO『ZERO GRAVITY TRAVEL』は、音で宇宙を旅するというテーマで制作されたもの。そんなHIROSHIさんに、AISOとは何なのか?どう感じられたのか?その他制作の過程で考えられた事などなど…...今回もAISOチームの2人で伺ってきました!

HIROSHI WATANABE aka KAITO
ボストン、バークリー音楽学院 MUSIC SYNTHESIS科卒。国内外のダンスミュージックレーベルより作品を多数リリース。リミックス、楽曲プロデュース、CM、TVドラマ、アニメ、映画、広告、ファッションショー、舞台音楽、イベント楽曲制作と多岐に渡り楽曲を手掛ける。ドイツ最大のエレクトロニック・レーベルKOMPAKTより計8枚のアルバムを発表。

【左から】日山 豪(AISO) / HIROSHI WATANABEさん / 津留 正和(AISO)

AISO制作にお誘いした理由

津留:まずは改めて……AISOの楽曲制作に参加してくださり、ありがとうございました!
 
HIROSHI WATANABEさん(以下、HWさん):誘っていただきありがとうございました。
 
津留:初めにHIROSHIさんにお声がけをした理由についてお話できればと思います。AISOの第1弾の発表を経て第2弾を、と考えたときに日山さんからHIROSHIさんにお声がけしたいという話がありましたね。
 
日山:HIROSHIさんとは以前、福岡のイベントで一緒に共演したことがあって。その時に写真の話とかをたくさん聞かせてもらって「この方は色々なことを総合的に捉えて、いつも作品に落とし込まれているのかな」と感じていました。視野が広く、テクノのことばかりを考えてる方ではないというのが面白かった。僕自身、やりたいことはいっぱいあるけれど『楽曲』というものに固めてしまうことへの狭苦しさや息苦しさを感じていたので。この方であれば、この感覚を共有できるのではないかと思った。特にあの時期はそういう人を探していたので、イベントで話したときのことを思い出して。AISO以前の構想の部分から話しても、理解してもらえそうだなと考えてお声がけしました。
 
津留:実はAISOチームの宣材写真も、HIROSHIさんが撮ってくれたものなんですよね。その時も人柄・状況・背景をどうしたらいいかを総合的に考えながら、コミュニケーションをとりつつ写真を撮ってくれました。対話のなかで何かを作り上げてくださる感じで、一節ですけどHIROSHIさんの体温みたいなものがすごく感じられました。
 
日山:実際どうですか?色々なことを感じて音にされているのかなと思うんですけど。
 
HWさん:表現の先が音楽であっても写真であってもなんでもいいと思うんだけど……生きていること全体がベースになってないと、やっていることが嘘になっちゃうだろうっていう発想のもとで全て動いているところがあるから。そういう意味でいうと、それがパフォーマンスであれ、DJであれ、ライブであれ、曲作りであれ……全部一緒だよね。そこで何かがスパークする瞬間が、その瞬間にだけ出せてるっていうのが僕にとっては偽りな感じがしていて。
その瞬間に出るものは、自分自身が常日頃に感じていることや、苦しいことも幸せだと思うことも全部ひっくるめて噛み締めていないと。見た目がかっこいいものやクールなもの、瞬間的に「おっ」て思わせられるような手法はいくらでも世の中に存在しているから。でもそっちじゃなくて、あとからじわじわ来ることでもいいし、その時に何かを感じとってもらってずっと頭にこびりついているものでもいいと思うし。

日山:そういう話を聞くとやっぱりそうだよなって思うんですが、深くから来ている感じがHIROSHIさんにはあったんですよ。例えば「この音色がいいから」というアウトプットに近い位置からのアプローチも全然悪いことではないんだけれど。それよりも奥の何を感じたとか、こういうことがあった、あの時こういう感情になったとか。そういう体験や感情からきて、その途中で作曲しようかなっていう感覚もあったりして。だから、僕は音楽と時間ってどういう関係なんだろうって考えるのがすごく好きで。それって、そういう『間』の事じゃないですか。この感覚をHIROSHIさんと共有できるんじゃないかなって思っていて。HIROSHIさんはどういう風にAISOを解釈してくれるかなっていう興味もありました。
 
HWさん:無機質なものっていくらでもあるし、無機質なものの良し悪しの話じゃないんだけど……チャレンジ精神でいえば、無機質であろうものが有機物になり得るのかどうか。ものすごく機械的に捉えてしまえば、機械的なものが生々しいものに感じられるかどうか、とか。そういうコンバートが可能なのがミュージシャンがやれること、楽しめることなのかもしれないと思っていて。それをやることで、出来上がった音楽に触れた人達がまた更なる衝撃を受けたりして。ちょっと角度が違うかもしれないけれど、それってウイルスを増幅させるようなことに似ているかもなって。塵のような可能性を目に見えるぐらいのレベルにまで培養させることができるのかどうか、ある種のチャレンジみたいなものはすごく大事にしているところであったりもする。
 
日山:僕としてはHIROSHIさんのその培養の過程に『終わらない』っていうものを投げかけたかった。どういう培養の仕方をするかを見たかった、そんな感じかもしれないです。


実際、AISOはどうでした?

津留:HIROSHIさんは初めにAISOや「終わらない音楽」という言葉を聞いた時にどんな風に感じられましたか?
 
HWさん:最初に話を聞いた時は、先にAISOの中身について教えてもらって。音を作ってきた人であれば理論上はなんとなく想像や構想は掴めるんだけど、まずはAISO自体が奏でる音の威力にどんなポテンシャルがあるんだろうかと興味があった。AISOは“プログラムが走っている”という話はわかった上で、実際に音がどう聞こえてきて、音楽をどう楽しむ・楽しませるのか?とか。それは聞かないとわからないから、実際体験してみたいって…そこからだったね。
 
津留:実際、聞いてみてどう感じましたか?新しいなと思ったことはありましたか?
 
HWさん:意外とすんなり聞けた。僕たちの場合は、AISOに限らずどんな音楽を聞いても分析しちゃったりするから。それをなるべくオフにした状態で純粋に流れてくるものを感じたいと思って、まず聞き流すということをやってみたかな。
 
津留:聞き流してくれたんですね。誰のAISOを聞きましたか?
 
HWさん:全部聞いたよ。デモでカードを送ってもらって、差し替えて色々聞いた。
まず初めに豪くんたちが元祖AISOで表現しようとしていたベースがあって、僕が作るのはある種バージョン2(※1)にあたるわけじゃないですか。デモ機として借りたのがバージョン1で、やれることがすでに提示されている完成された音源で。だからバージョン1(※2)を聞いてAISOで何ができるのかを、自分がまずは解釈しないとバージョン2を作っちゃいけないだろうって思って。いきなりバージョン2から始める身としては、バージョン1でやれることを理解できていないのにバージョン2にいくことに対して、正直歯痒く感じていたし。今だから言えるけど、借りたデモ音源を全て1時間以上録音して、朝の犬の散歩の時にずっと聞いていた。そういう体験をまず取り込みたいなって思っていて。

※1 バージョン2:アーティスト版第2弾は既存のAISOプログラム(バージョン1)にバンクシステムが搭載されています。「音のカケラ」が入った箱(=バンク)を複数用意することが可能になり、それにより曲調の変化や多彩な表現が実現可能となりました。

※2 バージョン1:アーティスト版第1弾のAISOプログラム。楽曲を構成する「音のカケラ」は1つの箱にまとめられており、その中でランダム再生をしていました。

日山:体験っていうのは、AISOと密接に関わることだと思う。AISOで大切なところは、最終的に『曲』っていうもので終わらせることじゃないから。
 
HWさん:バージョン2でAISOの構造がより複雑化して、楽曲的な発想を盛り込むことをやろうと思えば可能になってしまうのがバージョン1と2の境目だよね。終わりはないんだけど展開を考えることが出来ちゃうから。それをいかに面白く、心地よく、やりすぎず、可能にできるのかっていうのを本当にずっと考えながら借りた音源を聞いていた。

日山:HIROSHIさんには2つの視点があったんですね。1つは仕組みについて、何ができるのか・どういうものなのか。もう1つはそれを受けた時の感覚。その2つを同時進行でずっとやってたんだ。
 
HWさん:そうそう。本来バージョン1のAISOのそもそものあり方としては、じっくり聴きこむ音楽というよりは聞き流して空間を適度に埋めてあげられるような音の演出なんだろうなって解釈していたから。そういう塩梅でいいんだなって思いながらも、でも音楽的にも聴こえてくるよなとか。音楽的に聴こえるためには当然音楽を考えなきゃいけないよな、音楽を考えながらも終わりはないからな……とか、色々考えながら毎朝散歩してたね。
 
日山:制作にはすぐ手をつけなかったんですね。
 
HWさん:つけなかったね。ギリギリまで。
 
津留:取りかかるまでには時間があったと記憶しています。AISOを実際に体験するという時間を経て、どんなヒントや手がかりが生まれたんですか?
 
HWさん:自分が作りたいもののシナリオがパンと見えた時に一気に動けたんだよね。その目的がないまま自分を指名してもらえたわくわく感だけで終えてしまうと、純粋なHIROSHI WATANABE万華鏡みたいなものにしかならなくなっちゃうから。あの時はそうじゃないだろうって考えていたんだと思う。
 
日山:ミュージシャンごとに、この段階からアプローチが違うのは面白い。手を付ける前からHIROSHIさんはそのように捉えられていたんですね。

HWさん:あとはそうだね、ちょうどコロナ禍だったっていうのもあったかもしれない。タイミングとしては、すごく時間をかけて集中して向き合うことができる良い時期だったのかも。世の中が普通に滞りなく動いているなかで、一人黙々とAISOに向き合うのはすごくタフなことかもしれないね。
 
津留:この前、HIROSHIさんと同時期にAISOを発表した岡田さんともお話したんですけど、同じことをおっしゃっていました。ちょうど仕事が落ち着いていたコロナという時期に、AISOのことだけを2ヶ月くらい考えて、寝ても覚めても目を瞑っていても制作画面が出てくるっていう(笑)。それぐらいのまとまった時間を確保するには良い時期だったかもしれないですね。


価格へのプレッシャーとチャレンジ

日山:AISOの制作って、これまであまりない経験じゃなかったですか?普通にテクノを作るのは今までやってきているし、慣れもあって体が覚えているからすぐ動けるけど。一旦止まって、何だかわからないものを理解しようとする時間が突然訪れる感覚、僕はすごく好きなんです。根本から考えなきゃいけないコンテンツを与えられた時はワクワクするし、面白く感じる。これまでとはやり方も全然違うわけですし。
 
HWさん:そうだよね、それを超えたいと思うよね。超えただけだと間違いなく自己満になっちゃうから、超えて且つ.…..今回はAISOの値段設定に向けてチャレンジするというハードルもあった。
当たり前だけど、世の中の人が「ものを買う」っていうアクションは、中身とその金額が本当に見合ったものを高くても満足して買うわけだから。そうじゃなかったら、安いものでいくらでも揃うわけで。そういうポテンシャルに対して、最終的にAISOの中身をどうこう言って、面白いでしょうと伝えてもそれは説明だから。音楽としてその金額に見合ったもの、もしくはそれ以上のものに初めて挑んで自分がちゃんとできるのかっていうプレッシャーは正直あった。

HWさん:僕のことを全然知らない人達に向けて「ちょっと聴いてみて。面白いものができたから」っていうのとは違うから。ずっと追ってきてくれる人達もいて、そういった人達にもAISOに触れた時にその金額に対して新しい感動が絶対にこないといけない。
 
津留:そうですね、価格設定についてはこれまでも色々と議論はありました。シングルボードコンピュータを使って売り出しているのでその費用はもちろんかかってくるんですけど、でもそれだけじゃなくて。ミュージシャンの方にこのプロジェクトに向かったことに対しての価値の分も設定したいなと考えてあの価格になっています。価格的なハードルは結構高いんですけど、それはミュージシャンの方への期待だったりします。一方で、音楽を聴く人たちがミュージシャンの活動に対して新たに期待を抱いて投資をするっていうこともあるのかなっていう実験も含めて、期待も込めての価格でもあります。

日山:当時、HIROSHIさんとも一緒に考えて沢山議論をしましたよね。音楽と金銭的価値をどう結びつけるのか。HIROSHIさんが言っていて一番覚えているのが 「自分の曲をBandcampで0円で販売したりもした」っていう言葉、それには衝撃を受けて強く記憶しています。音楽家が自分のアウトプットしたものに対して、対価と金銭的価値を照らし合わせて設定をするということ。その事自体に何か一石を投じられたような感覚があって。僕も同じようなことをしたかったし。HIROSHIさんはAISOでもそれを考えてくれていたんだなって嬉しいです。こういったことを話さないミュージシャンは多いので…色々と実験されていたHIROSHIさんだったからこそ、そこまで考えて最終的にAISOを作る行動にまで結びつけてくれたんだなと思います。


音だけで宇宙空間を旅する

津留:AISOを繰り返し聞いているうちに大きな全貌が見えてきたというお話でしたが、どんなアイディアや構想だったのかを教えていただけますか?
 
HWさん:そもそも宇宙をテーマにしたのは、やりたかったことに結びつきやすかったから。それを手探りに自分のAISOについて考えて音を構築していったんだけど、どこかの時点で「ああ、これは音を利用したトラベルなんだ」っていうのがパンときたんだよね。それが一番自分を動かしたんじゃないかな。『音だけで旅をする』っていうワクワク感を自分でも体感したくなっちゃって。自分が聴いてドキドキしたり興奮したり満足したら、これはもう間違いないなっていう自分の中のハードルがそこで設定されたというか。
 
日山:それには情景があるんですか?
 
HWさん:情景がある。映像がある。
 
津留:具体的にどんな感じですか?銀河の宇宙船でぐーって行ってる感じ?着陸したりもするんですか?
 
HWさん:離陸から始まる、もうそういうサービスだから。その中に入ると旅行がいつでもできるサービスで、言ったらアトラクションだよね。音だけでそのアトラクションが構成できるかどうか。
 
津留:毎回行ったきりのジェットコースターではなくて、寄り道の仕方が色々と複数あるってことになっていますよね。
 
HWさん:そうそう。そのマッピングが一番ハードだったかな。宇宙空間だから、僕らが感じているような時速とかそういう感覚ではないっていう設定はいくらでも出来るんだけれども…。出来るんだけれども、AISOの中でランダム性を保ったまま緻密に構成をすることで物語がより面白くなるのかっていうのをあてがっていった。あてがいながらも実験をしてみて「なんか違うな」っていう試行錯誤を結局は繰り返さなきゃいけない。でも繰り返したところで「いいじゃん、これこれ!」って思ったところが二度と起きないかもしれないわけで(笑)。そういう性質もある以上、どこでジャッジすればいいんだっていう苦しさには当たるよね。
 
日山:普通の楽曲を作る時は、あんまりそういう風にはならない?
 
HWさん:うーん、そうだね。当然だけど普通は緻密な設計図を描けるわけじゃない。例えば、AISO自体が有機物としてヒューマナイズされた感覚で組み込まれている音を選ぶのかというと、決してそうではない。そこにはプログラム上の計算されたランダム性があるわけで。無機物を有機物に変えるというような発想と一緒で、そういう装置の中に放り込んだとして、それが自分の納得いくレベルの生き物として生かされる集合体になるのかどうかっていうチャレンジだったと思うから。だからどんな形になっても旅として楽しめる面白さや重さを、時間内で実験し続けた感じだよね。
 
津留:ギリッギリまでやっていましたもんね。
 
HWさん:そう、ほんとギリギリまでやってた。ギリギリのギリギリでデータを渡して、販売する直前までやっていたと思うから。
 
日山:岡田さんは先に終わってたんですよ。でもHIROSHIさんがもう少しかかりそうってなったら、岡田さんもまたやり始めました。みんなギリギリまでやっちゃうんですよね(笑)。
 
津留:AISOの面白いところですが、総当たり戦で全部のパターンを聞くことは不可能なんです。出来上がったものを確かめることもある程度しかできない。だから、買われた方はHIROSHIさんも意図しない聴き方で聴けるかもしれないし、もしかしたらミスもあるかもしれないんです(笑)。そういうのに僕は出会ってみたいなって思うんですよね。
 
HWさん:そうなんだよ!聴いている時に出てこない可能性もあるから。「この音とこの音、全然合ってないじゃん!」みたいな可能性もあるわけでしょ?確率はゼロとは言えないよね。うーん、まあ面白いハプニングだからそれもいいんだけど。DJをやっていても全然キーが合ってないのとか入れちゃったりするわけで、それが逆に心地良かったりもするし面白さとしてはありだから。
 
日山:そうそう、全部固めすぎちゃうのも面白くない。管理下における偶然性っていう心地良さが僕の中ではあるので。それを程よく楽しんでもらえている感じがするな。
 
HWさん:最後は念じるレベルだよね、そこに念を込められるかどうか。音やプログラムどうこうよりも、自分の念をそこに投影できるかどうかだよね。


終わらない音楽を“育てる”

日山:HIROSHIさんのAISOは最重量級だよね。AISOを自動構築だと知らずに聴いていても心地良いだろうと思う。終わらない音楽の体験はアルバムを聴いている感覚とは絶対違うと思うし、この感覚は体験してもらわないと分からないところがあるから。それがどう伝わっていくのかは本当に楽しみだなあ。
 
HWさん:建築と近いのかもしれないけれど、お尻をある程度は決めないといつまで経っても制作が終わらない。ものづくりとしては、制作期間を設けないAISOもめちゃ面白いと思うけれどね。できたら言ってね、っていうぐらいの話で。それはもう作業の量としてどのくらいかかるかは分かんないけど、自分が納得したところが終わりだと思うから。
 
津留:実は今、その取り組みについても考えています。ゴールもミュージシャンの方が決められるっていう。
 
日山:僕はAISOを更新してもらって全然かまわないし、終わらないでくれと思っている。実現するかはわかんないけど、この後もHIROSHIさんの新しい旅が追加されてAISOが永遠に続いていくと面白いなって。やってほしいなって思う。
 
HWさん:それは絶対面白いと思う。
 
津留:音を追加すればまた変わるので、そういう意味で最近僕たちは“育てる”っていう言葉をよく使っています。この前びっくりしたのが、第3弾のアーティストの方が向こうから「ちょっとAISOを育てたいんだけど」って言ってくれたんですよ。その感覚が共通で持てているんだって驚いたし、僕たちはAISOに“育てる”選択肢もあるなと思っていたけど…...ミュージシャンの方から自発的に言ってくれたのは、AISOに向き合ってくれていて、可能性をどんどん探ってくれようとしてくれているんだなって。その姿勢がすごく嬉しかったんですよね。
 
日山:“育てる”という言葉は、AISOのtoB案件のTHE BLOSSOM KUMAMOTOというホテルの担当者さんも言ってくれているんです。年間で音を追加していって“育てたい”って。今までにない新しい音の接し方・楽しみ方だなって思っていて、同じようにアーティストやミュージシャンの方もやってくれることに期待しています。


実は『音の宇宙地図』も描いていた

HWさん:制作中に自分の想像を超えることで面白いことと、超えちゃうことで管理ができない無責任な超え方があるなって、若干不安を感じた時があって。自分がAISOの中で構造したプログラムしていったものがあるとして、それをしばらくは何度も繰り返し聴きながら、自分のAISOをレコーディングしては、また散歩に出たりしていたんだけど。そういう判別ができにくくなってきた頃合いに、自分のプログラミングした音色がどこからどこに飛ぶ可能性があるか、マップを全部絵で描いたのね。

製作中の宇宙マップ

HWさん:宇宙もずっと膨張し続けているけど、螺旋状になっていてこの辺まではわかっているみたいなある程度の宇宙マップみたいなのが見えていたりするじゃない。そういうイメージを重ねて、今回の『ZERO GRAVITY TRAVEL』がどういう旅のマッピングになっているのかを視覚的にも把握してみようと思って。ランダムに行くにせよ、そのランダムな行く末を把握したくて描いたんだよね。
 
津留:HIROSHIさん、宇宙航海士や宇宙海賊みたい(笑)。
 
HWさん:レールを引きすぎてないかを確認したかったのと同時に、大まかには引いてあげないとこの旅が旅にならないと思っていて。そのせめぎ合いで描き出してみて「うーん。なんかこの分かれ道足らないな」とか考えてた。
 
日山:神様みたいなこと言っている、創造の世界ですね。
 
HWさん:でも、可能性を増やしていっているだけだから、何回録音したってそこから先に自分がその可能性を一個追加したことが実現するわけではない。だから、あくまでも可能性の話として見ておかなきゃいけないんだよね。でも描いたことによってなんか見えてきたっていうのはあって。
 
日山:今までそんな音楽の作り方ってしました?
 
HWさん:しない、しない(笑)。
 
津留:大変だなっていうのはもちろん理解したしていたつもりですけど、超えていましたね。そして、AISOを制作するみなさんは地獄みたいなメモを残しがちっていう(笑)。
 
日山:傾向としてあるよね。でもHIROSHIさんのはなかなか壮大だな。そして、ぶっちゃけると少しだけ引いています(笑)。
 
HWさん:いや、気持ち悪かったと思うよ。何日間か外出もしてなかったもん。 家族からも「結構やばいよ」って言われて。ヒゲとかも剃らないし髪の毛とかもぐちゃぐちゃで、本当に引きこもってたね。旅行を計画したプランナーとしては途中で放りだせないっていう責任感と、解放されるタイミングが必ずやってくるからその時を待って死に物狂いでやっていたって記憶がある。

制作ラストスパートの宇宙マップ。スタジオのドアに貼り軌道修正をしていたそう。

日山:デジタルストリーミングで流れている1曲のリリースと、ことが違いますよね。
 
HWさん:一音一音に対して曲の中での意味合いがメロディーやコードじゃなく、それぞれが大事なパーツだから。ただ、1個のパーツに対してあまりにこだわりすぎて、それだけに集中していたら何年経っても終わらない…そこの瞬発力の見せ所でもあったよね、AISOって。
大事に考えながらも、その適度なレベルを自分の中では超えつつ、その瞬間瞬間で自分がスパークする「これこれ!」みたいなのがどんどんやって来ないと。自分がイメージしているのは魔界的な実がとにかく詰まっている感じで。どこからどう突っついても、あれもこれも出てくるっていうのに到達しないんじゃないかなって。
 
津留:当たり前の事なんですけど、音のカケラって集合されて使われるものだけれど、同時にあくまで個でもあるっていう。その個にフォーカスして全体のイメージが含まれる事もあれば、全体のイメージが個に集約して個の意味合いがまた気づきを得るっていうこともあると思う。今回のように宇宙みたいなモチーフがあると、より意味合いを強くつけられる音がアイディアとして多く生まれやすい気もしますね。宇宙に絡むものって色々ありそうじゃないですか、機械の音だったり踏み締める音だったり。それはすごく楽曲のテーマと音のカケラという関係性が象徴的に表現されている曲な気がします。

HW:もともと天体好きだから、自分が具現化しようとしている楽曲のモチーフや全体像が宇宙的要素っていうのは今までもたくさんあった。そこの延長線上にはきているんだけれど、違っていたのは終わりがないなかで、どこを掻い摘まんだとしても自分の宇宙的美学が心地良くあるということ。それがすごく重要だった。ひとつの音楽をパッケージにするのとはまた違った意味で難しかったし、面白かったよね。
 
一方で何が苦しかったかというと、音楽が出来て満足して終わりじゃないところ。それに対してちゃんと向き合ってくれるお客さんがいる前提で考えると単なるアートじゃないじゃん、これって。単なるアートだったら誰かが「いくらで買いたいから、売って」と言うまでは値段もないだろうし、別に値段なんかなくていいものだと思うんだけど。値段がある以上はその価格を自分が納得するものとして超えているかどうかがどうしても大事だった。
 
津留:そこがいい意味で自分のクリエイティブを左右するということですか?
 
HWさん:極端に言うと、AISOを宣伝して誰かが買ってくれた時に自分が「どう?よかったでしょ?」っていう姿勢でいれなかったら、もうやばい商売をしている話になっちゃうから。これは僕の中だけのガイドラインとして、絶対に出来ないと思っていた。
 
津留:悩んでつけた価格なので、すごく考えながら作ってくださったことはとても嬉しいですね。
 
日山:いろんな捉え方があるのであんまり作品っていう言葉は好きじゃないんですけど、強いて言えばHIROSHIさんのAISOは作品性が高いものです。それまでのBGM要素が強いAISOから全然違うアプローチだったけど、それが価格設定を意識していたからであるとか、そういう発想が普通のリリースとは違うことも僕はすごく重要だと思う。


AISOになぜ『宇宙』を落とし込んだのか

日山:宇宙旅行というのはHIROSHIさんならではの発想でしたが、なぜAISOに『宇宙』を落とし込もうと思ったんですか?
 
HWさん:それは自分の原体験というか音楽とのファーストコンタクトみたいなもので。育った環境を振り返ると今の自分としてはすごくラッキーだったなと思うのが、幼少期にスタジオに触れられたりアナログのシンセサイザーの音を聞けたりしていた。その当時は音楽に興味を持ったというより、僕にとってはシンセの音が宇宙と直結しちゃっていたから。機材や音そのものだけでこんなに飛ばされちゃうんだって。そこから僕の生涯の大きなテーマとして持ち続けてきた『宇宙』がずっとベースにあって。それがむしろAISOで表現しやすかったんだよね。作るのは大変だけど、それを使って表現をするっていう意味では「これはもってこいじゃん!」みたいな感覚があって。単刀直入に言うと、すごく自分には合ってた。
 
日山:過去のリリースで宇宙をテーマにしたものとAISOでは革新的に何が違ったんですか?
 
HWさん:ひとつの楽曲として起承転結をそこに持っていくという意味では、そこでひとつの表現としては終わるわけで。もちろんジャケットもあるし、そういう見せ方とは大きく違ったよね。自分の中で感じる音を軸とした『音・宇宙体験』みたいなものが記憶や色んなところに染み付いていて、それらを大放出すればこういうものが絶対できるっていう確信みたいなものがあった。
 
日山:それが初代AISOを聞いて体験してみて結びついたんだ。文章まで書いていましたよね。
 
津留:縦書きで、小説の最初の走り出しに書いてあるような印象でしたね。
 
HWさん:そう、そうしたかった。それを読んでぐっと音の世界に入っていってもらいたくて。

津留:それもまた新しい感覚ですよね。以前、日山さんがHIROSHIさんのAISOは聴く小説だっていうように言っていましたけど、すごくわかるなって思いました。聞き流すというよりは没入していく感覚に近い、意識が研ぎ澄まされていくというか……トランス状態に入っていく感じなんですけど、HIROSHIさんのAISOだけの固有の体験だったなぁと。本を読んでいる時の意識とも近かったです。
 
HWさん:時代の流れで言えば視覚的な表現はめちゃくちゃ進化してて、VRとかも盛んだしそれが当たり前になってきてる。ゴーグルをつけちゃったら、どこであろうが別世界に飛んでいけるでしょう。あれは『ゴーグルを装着するか、しないか』っていう差があるわけじゃない。それぐらいの質感で音が入ってきた時に、同じように視覚的なインパクトでどこかに飛ばされるぐらいの勢いがAISOに詰められるかどうかが勝負だったね。


最後に

日山:HIROSHIさんは終わらない音楽に可能性を感じる部分はありますか?
 
HWさん:いや、もちろんあるでしょ!終わらないことの意味合いっていうのはたくさんあるし、これからもたくさん出てくると思う。
 
日山:それは僕だけが感じていても意味がないことなので、参加して頂いた方に感じてもらってそれぞれが自分達なりに咀嚼した利用をしてくれると嬉しいです。個人的にはHIROSHIさんのAISOライブを聴きたいですね。ここからさらに音を出すのか、エフェクトをかけるのか、それはHIROSHIさんのやり方だから分からないけれど、もっと深くHIROSHIさんの宇宙を味わいたい。ちゃんと向き合える場を限定的なライブとして催したりするのも面白いなと思いました。
 
津留:ほんとに聴いてほしいですよね!
それでは最後に、HIROSHIさんからAISOを購入した方や購入を検討されている方に向けてメッセージをいただきたいです。
 
HWさん:まずはもうすでに買ってくれている方。僕自身も予期せぬ感覚でAISOが奏でてくれる『ZERO GRAVITY TRAVEL』があるので、思い出した時にスイッチを入れて試してもらえると。また新しい旅ができるはずなので、これからも堪能してもらえたらなと思っています!
これからの購入を考えている方は、迷わず買ってみてください!それぐらいの質量で満足できるはずのものだと僕は信じているので。目を瞑って音を聴いてくれさえすれば、宇宙に旅ができるというような物語です。責任を持ってこの作品を作れたと思っているので、ぜひ体験してみて欲しいです!


【こぼれ話】AISOは簡単にDigital Audio接続できちゃうの巻!

今回の対談時にHIROSHIさんが『AISOのDigital Audio接続方法』を教えてくれました!この方法を使えば、AISOをノイズなしで楽しむことができるそうです。この方法を最後にシェアさせていただくので、AISOをお持ちの方は是非試してみてくださいね!

AISOの電源ソケットの隣にある二つの端子はどちらもHDMI(type C)の接続口となっています。実はこの端子を使うことでAISOの音源をDigital Audioとしてノイズのないよりクリアな音源で楽しめるのです。

接続方法には一つだけ手順があります。
それは、ケーブルを接続する順番です。

HDMI AUDIO接続される場合は、必ずAISOの電源を入れる前にどちらかのHDMI端子にケーブルを接続をしておく必要があります。なぜかというと電源を入れてからHDMIケーブルを接続してもAISOが出力先を認識しない為です。HDMI端子はどちらに接続しても構いませんが、通電前に装着しておくことでAISOがHDMI出力を認識し音を出すことが可能になります!

僕の場合はMac本体にAISOのdigital audioを入力したいと考えたので、小さなHDMI USB変換ボックスを使用して映像ではなく音のみを取り込みました。Mac本体のスピーカーもしくはMacに接続されたオーディオインターフェイスから更に高音質なオーディオシステムに接続することで、AISOの最高なサウンドシステムが構築され存分に音を堪能することが可能となってます!はっきり言って最高ですこれ。

この接続法はHDMI端子を利用するだけなので例えばその他、テレビのHDMI入力端子にAISOから一本のHDMIケーブルで接続してしまえば(この場合、当然変換ボックスは要りません)Macへの接続よりも更に簡単にAISOのDigital Audioがそのまま堪能できることになります!もしテレビがゴージャスなスピーカー内蔵、又はAVシステムと繋がっている人は完璧です!AISOを持ってる方はぜひぜひこの接続方法でより良い音質を堪能してもらえたらと思います。

ちなみに僕のMacの中では、HDMI変換ボックスからの音の入力を常にMacのスピーカーから流れ出るようにLoopbackというバックグランドで動くオーディオルーティングが自在に構築できるアプリを使ってます。最も簡単な入力の切り替えはQuickTime Playerやオーディオ入力の選択ができるアプリを立ち上げる方法もあります。ただ、この場合はそのアプリを使用しないと音がならないので僕はLoopbackを使用しています!その他同じようなアプリ又は方法がHDMI入力さえできていればありますので、ご自身の環境に合わせたベストな楽しみ方を構築してみてはいかかでしょうか?

以上、AISOのHDMI簡単高音質な接続方法でした!

HIROSHI WATANABE 

●Podcast "ディスカバーAISO" の配信を開始しました!

HIROSHIさんのAISO『ZERO GRAVITY TRAVEL』を実際に聴きながら、制作秘話やこだわったポイントについて、本記事の3人でお話しています。合わせて、お聞きください!


●HIROSHIさん『ZERO GRAVITY TRAVEL』が気になった方は、こちらからもご視聴いただけます。


●AISOの購入はこちらからどうぞ!


取材協力:神楽音/KAGURANE

※記事内の写真は、撮影時のみマスクを外して撮影を実施しています

Text,Edit: Mihoko Saka


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