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悪魔の所業【ショートショート小説】

かつて人間界で名を馳せた悪魔が久しぶりに地上へ降り立った。彼の使命は、人々を悪の道に誘い込むこと。悪魔は変幻自在に人間に化け、巧みな話術で人々を堕落させてきた。数十年ぶりの地上訪問に胸を躍らせる悪魔は、現代社会の闇を楽しみにしていた。

人々が忙しなく行き交う都市の中心に現れた悪魔は、まずは街の雰囲気を味わうことにした。道行く人々の顔にはスマホの光が映り、どこか疲れた表情が浮かんでいる。「これは容易い仕事だ」と悪魔は思った。
悪魔は、かつて自分が地上で成し遂げた数々の悪事を思い返した。江戸時代、彼は御代官様に化けて領民たちを騙し、賄賂を巻き上げていた。「お前たちの税金は我が殿様のためだ。もっと差し出せ」と圧力をかけ、庶民を苦しめて楽しんでいた。その頃は、巧妙な話術と威圧感で人々を操るのは簡単だった。今の人間界は更にたやすいだろう。

まず悪魔は、街の中で適当なサラリーマンに化けた。ターゲットは若いビジネスマン。彼はこの若者が野心的で、金儲けのためなら手段を選ばない性格だと見抜いた。
「君、ちょっといい話があるんだが…」
悪魔はニヤリと笑い、投資話を持ちかける。「少しの資金で大儲けができるんだ。成功したら、君も同じように誰かに勧めればいい。」
しかし、ビジネスマンは眉をひそめ、
「そんな詐欺、誰が引っかかるか」
と一笑に付した。悪魔は驚いたが、久しぶりで勘がにぶっているだけだと思い、すぐに次のターゲットを探し始めた。

次に悪魔は、年配の主婦に化けた。彼女は近所の奥様方との影響力が強く、口コミで詐欺商品を広めるにはうってつけだった。
「この商品、あなたの健康に絶対良いから、友達にも勧めてみて」と巧みに話を持ちかけた。しかし、「そんな怪しいもの、買うわけないでしょ。健康に良いっていう根拠は何?」と詰問され、逆に健康に良いと言われる青汁を受け取る始末。悪魔は愕然とし、次のターゲットを探した。

次に悪魔は、貧しい若者に接近した。彼は生活に困っており、違法な手段でも金を稼ごうとする可能性が高いと考えた。また、若者であれば、余計な知恵をもっていないと判断したのだ。一回で儲かる金額は少ないが、長期的に見れば十分メリットがある。
「君、簡単に金を稼ぐ方法があるんだ」と悪魔は囁いた。「バイトなんてする必要ないよ。少し危険だけど、すぐに大金が手に入る方法があるんだ。」
若者は一瞬興味を示したが、「そんな危ないこと、やれるわけないよ。警察に捕まったらどうするんだ?」と言い返した。悪魔は失望し、更に若い層までターゲットを変えることにした。
そこで、悪魔は学校の教師に化け、生徒たちにカンニングをそそのかした。「試験でいい点を取るために、ちょっとしたズルをするのは賢い方法だよ」と甘い声で囁いた。しかし、生徒たちは「そんなのバレたら終わりだよ」と真面目に反論し、悪魔の提案を一蹴した。

悪魔はいよいよ追い詰められ、真剣にアイデアを考えた。そして今の人間の欲を調べ妙案を思いついた。
最後に、悪魔はいかにもエリート感のあるサラリーマンに化け、若者に違法ダウンロードサイトの存在を教えるように仕向けた。「君、無料で漫画が読めるサイトを知ってるかい?」悪魔は自信満々に問いかけた。すると、若者はすでに詳しく知っており、「そんなの、もうみんな知ってるよ。逆にもっといい方法を教えてあげようか?」と言われる。その方法は悪魔が考えていた案よりもよっぽど巧妙で驚愕のものだった。

悪魔は途方に暮れ、思わずぼやく
「投資詐欺やねずみ講詐欺は昔からあったから真似されるのは理解できるが、渾身のアイデアである無料漫画サイトまで既に実践されてるなんて…。いったいどんな悪魔が人間界をこんな恐ろしい世界にしたんだ…。」

人間界の進化に打ちのめされた悪魔は、かつての栄光を懐かしみつつ、平和な地獄へと消えていった。

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