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霊媒師の悩み【AIショートショート】

霊媒師のN氏は、界隈においてその名を知らぬ者がいないほどの凄腕だった。彼は本当に幽霊と対話ができる数少ない人物で、札や呪文で強引に幽霊を退けるのではなく、対話のみで墓に帰るよう説得するというユニークなスタイルで知られていた。しかし、そのためにN氏の仕事はいつも骨が折れるものだった。

ある日のこと、N氏のもとに相談が持ち込まれた。依頼者は有名なアイドルグループのマネージャーで、問題となっているのはそのライブ会場で頻発する不可解な現象だった。ライトが勝手に点滅したり、スピーカーから奇妙な音が流れたりと、明らかに普通ではない。N氏は早速調査に乗り出し、ライブ会場に向かった。

夜のライブ会場に足を踏み入れると、そこには一人の若い女性の幽霊がいた。彼女は熱心なアイドルファンだったが、生前の事故でその情熱を成就できないままこの世を去ってしまったのだ。彼女はライブを楽しむために霊となっても会場に通い続けていた。

「君のせいでライブが出来なくなっているんだよ」と、N氏は丁寧に説明を始めた。しかし、彼女は頑固だった。生前の唯一の楽しみを奪われたくないと強く主張する。N氏は一計を案じ、「墓でゆっくりライブBlu-rayを観ることもできるよ」と提案した。彼は彼女の墓にお気に入りのライブBlu-rayを設置する約束をしたのだ。

その提案に心動かされた幽霊は、ようやく納得し、墓へと戻っていった。N氏はホッと胸を撫で下ろした。

次の依頼は、古い図書館からだった。そこでは夜になると本が勝手に動き出し、ページがめくれるという現象が報告されていた。N氏が調査を行うと、そこには年配の男性の幽霊がいた。彼は生前、図書館の常連で、静かな場所で読書を楽しんでいたのだ。今もなお、本を読み続けるために図書館に現れていた。

「ここで本を読むのは良いけど、他の人が困っているんだ」と、N氏は説明した。幽霊は黙って聞いていたが、やはり納得しない様子だった。そこでN氏は、「君の墓に図書館の一部を再現するよ」と提案し、幽霊の墓に書棚と椅子を設置する約束をした。幽霊はようやく納得し、墓へと帰っていった。

また別の日、N氏はレストランのオーナーからの依頼を受けた。レストランでは夜中に料理が勝手に作られ、キッチンが荒らされるという現象が続いていた。調査を進めると、そこには若いシェフの幽霊がいた。彼は生前、このレストランで働いており、自分の料理を作り続けたいという思いから霊となって現れていた。

「君の料理は素晴らしいけど、他のシェフが困っているんだ」と、N氏は説得を試みた。しかし、幽霊は自分の料理に対する情熱を捨てられなかった。そこでN氏は、「君の墓に素晴らしいワインを置いておくよ。それを添え物にして、他の幽霊に料理をふるまってみたらどうだい?」と提案した。幽霊はそれに納得し、墓へと帰っていった。

その夜、N氏は仕事を終えて自宅に戻る途中、ふと墓地の様子が気になり立ち寄ってみた。そこには、自由に楽しむ幽霊たちの姿があった。彼らは墓地を舞台にダンスパーティーを開き、楽しげに騒いでいた。N氏はその光景を見て、思わず呆れた。

「全く、死んでからの方がよっぽど元気な人が多い、まあ年に数回、子孫と会う以外は墓でやることがないし、墓で騒ぐ分には迷惑もかからないからな」

彼はうんざりしながら、帰路に着いた。彼の家は元は代々、墓守であったが昔の幽霊達とは違い、頻繁に墓の外に出かけまわることから気づいたら霊媒師になっていたのだった。

「もうすぐ、お盆になるから幽霊達も墓にいる時間が長くなるはずだが、最近は独身幽霊も多いもんだから、困ったものだ。いっそ墓に遊園地でも作ってやろうか…」


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