見出し画像

美容院で人並みのコミュニケーションができない。

私は髪型にこだわりがない。
いや、正確には天パが嫌なので縮毛矯正はよくかけにいくのだが、それ以上のこだわりがない。

だから美容院で必ず聞かれる
「今日はどうなさいますか?」

この質問に答えられないのだ。

今日はどうなさいますか?
一体、どのような答え方が正解なのだろう。
「髪を1センチ短くしてください」
「前髪は残しておいてください」
「芸能人の⚪⚪みたくしてください」


このくらいしか思い浮かばない。しかし私の場合「縮毛矯正で髪がまっすぐになって寝癖を直す手間が省ければいい」というニーズしかないので、
「今日はどうなさいますか?」
に対して、いつもあわあわしてしまう。

結局美容師の「かりあげましょうか?」「前髪は右に流しますか?」などの提案に、適当に「イエス」と答えていくしかなくなってしまうのだ。

私がこのようになったのも、もしかしたら母親に髪を切られて育ったせいかもしれない。

私は高校生まで床屋や美容院に行ったことがなかった。
「そろそろ伸びてきたな」
と思ったら、母親に言って、その場で切ってもらっていた。
母親は自称「美容師と同じくらいの腕がある素人」だった。
なんでも、アメリカで留学生時代、シェアハウスをしていた友人の髪の毛を全員分切っていたらしい。
だから、「腕前はプロ並み」と自負していたのだった。
母はいつも短すぎず、けれども長すぎず無難に切ってくれた。だから私も、別に床屋に行く必要はないやと思っていたのだった。

けれど大学生になって私は「天パを直して縮毛矯正をかけたい!」となった。
そこで地元の床屋に行くことにした。
順番待ちをして、席に座らせられる。
「今日はどうなさいますか?」

この質問に、私は堂々と
「縮毛矯正かけてください!」と言った。すると
「ウチは床屋だからカットしかできないよ。縮毛矯正は上の階にある美容院に行ってください」と笑われた。もう、めちゃめちゃに笑われた。
私はそれまで、床屋は男性がいくとこで、美容院が女性がいくとこという認識があった。
床屋はまさか縮毛矯正できないなんて、、、

穴があったら入りたいランキングトップ5にランクインする出来事を経て、私は上の階の美容院に行った。

そこで美容師のお姉さんに、縮毛矯正は1万5000円だよ、と言われた。
くそたけえと思いつつ、天パを卒業したかったのでお願いする。
薬剤を塗られるなど、はじめての経験をたくさんした。しかしコミュ障の私は美容師のお姉さんに話しかけることが1度もできなかった。

そして完成間際、お姉さんはカットをしながらこんなことを聞いてきた。

「普段、誰に髪を切ってもらってるの?」

私は恥ずかしながら「母親です」と答えた。すると

「アハハ。お母さん上手だね」と言われたのだった。

この時私は、「やっぱウチの母親上手だったのか!」と納得した。その後、私は母親カットと美容師の縮毛矯正を交互に活用しながら社会人になる。

社会人になってはじめて髪を切ってくれたのは、大阪のよくしゃべる美容師だった。そこでいつものような質問が飛びだしてくるかと思いきや

「お兄さんもしかして髪の毛自分で切ってる?」と言われる。

「いや、そんなことないですけど」と言うと、

「髪の毛の長さ、場所によってバラバラやで。自分で切ったんかとおもたわ」

え???ちょっと待って。前回切ってもらったのは、美容師じゃなくて、母親。つまり母親は「自分で切ったのかと思われるほど切るのが下手」だったのである。

これまでの「普段、誰に切ってもらってるの?」は、興味本位で聞かれたのではなかった。まさかコイツ自分で切ってねえだろな?の意だったのである。

それから私は「プロの美容師だったらどんなふうに切ってもらってもいい」となった。

生まれてからずっとこだわりなんてなかったが、母親が下手だと気付いてからは、よりいっそうプロへの信頼が増したのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?