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6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)から学ぶ山歩き 後編 その1

こんにちは!一人ハイカー、一人ワンダーフォーゲル部のaishiです。
今回も安田夏菜 (著)の小説
「6days 遭難者たち」のご紹介とこの作品を教科書にして自分ならどう行動するか?をライトハイカー目線で解説していく後編その1です。

中編はこちらから。


p107 河合 亜里沙視点 2日目
「あっ」
声を上げる。
「どうしたの?」
美玖ちゃんと由真もんが振りかえる。
「・・・・・・ううん、なんでもない」
首を横に振ったけど、うそだった。今の茎の一撃で、左目のコンタクトが落ちたのだ。けれどこんなササの海の中で、落としたコンタクトが見つかる可能性なんてゼロに近い。
だいじょうぶ、右目には入っている。ちょっとかすむけれど、なんとか見える。
再びササをかき分けて進む。かすんだ目でササの海を見ていると、車酔いしたような気分になってきた。しっかりしろ。亜里沙、しっかりしろ。
なのに今度はガツッとつま先になにかが当たり、膝がぐねっと変な方向に曲がった。そのままじれた状態で、勢いよく転ぶ。地面の石かなにかに、足が引っかかったんだ。
「亜里沙?」「亜里沙ちゃん!」
ふたりが助け起こしてくれる。
「ケガはない?」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 藪漕ぎは思った以上にリスクが高いです。
視界が利かないのでさらに道迷いしてしまう事や同じ場所をグルグル回って体力を消耗します。
また亜里沙のようにコンタクトを付けている方は予備のコンタクトや眼鏡を持っていきましょう。山で目が利かなくなったら思うように行動できません。
滑落や怪我のリスクも高くなります。
ツバの広い帽子やサングラスをかけていると目の保護にもなります。
安くてもよいので薄いグレー系のUVカットの効いたサングラスがあると良いですね。
また無くすリスクを考えて眼鏡やサングラスには落下防止にストラップをつけておく事をおすすめします。疲労が溜まってくると注意力散漫になり物を落としやすくなってしまいますから。

一応この項でサングラスに触れておきます。
サングラスは登山である方が良い道具の一つであります。
特に日差しの強い高山では必須ですね。
しかし低山でも目の保護などを考えるとあった方が良いでしょう。
スポーツや登山の専門メーカーである程、また価格帯が上がる程色々な機能があったりストレスが軽減されるような作りになっています。
安いと割と最初からレンズの歪みが大きかったり、レンズが外れやすかったり曇りやすかったり重かったり等々。また最近は偏光レンズが付いている物が多いですね。
偏光レンズとは…
「光の乱反射を抑えて視界を見やすくするレンズ」です。
レンズの中の「偏光膜」と呼ばれるフィルムが光の反射を抑えて視界を良くしてくれます。
メリット…余計な光や濡れた地面や水面のギラツキを抑え視界が良くなるのでストレス軽減や眼精疲労が抑えられる。
デメリット…スマホ等の画面を偏光レンズを通してみると画面がギラついて見えにくくなる。
また長い間水に付けていたり濡らしていたりするとレンズの中の「偏光膜」がふやけて歪むと言われています。なので少し取り扱いには気をつけた方が良いかもしれません。
ちなみに調光レンズとは紫外線の量や温度によってレンズの色が変化する物です。

登山道のように人によって道が踏み固められていない場所はとても歩きづらく藪やフカフカの土、落ち葉の下に岩や木の根、倒木が隠れていて足をひっかけたり滑らせたりはよくあります。
足を怪我したら行動不能に陥ります。山の中では特に気をつけて歩きたいところです。

p109 河合 亜里沙視点 2日目
「あれっ?」
スマホがなかった。もう片方のポケットにもない。
「あれ?あれ?」
焦ってリュックのファスナーを開け、中をかきまわす。上着のポケット、パンツのポケット、どこにもスマホは見当たらなかった。
「・・・・・もしかして・・・、さっき転んだとき落としちゃった?」由真もんが悲しげな顔で聞いてくる。
「そうかも」
答えたとたん、涙がこぼれ出た。ふいてもふいても、涙は止まらなかった。
なんで?神さま、あんまりです。
私、こんなにがんばってるじゃないですか。こんな厳しい現実に、必死に立ち向かってるじゃないですか。それなのにさらに深い谷底に、ぼーんと突き落とすだなんて。
手も頬も傷だらけ。コンタクトは片方なくなり、スマホもなくなり、膝もさっきから、さらに痛みが増してきている。
ご飯も食べてない。水も少ししか飲んでない。
ねぇ、どうしたらいいの?これ以上いったい、どうしろっていうんですか?

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 山を歩いていると道のあちこちに色んな物が落ちています。
けっしてわざと捨てたゴミという訳ではなく、疲労などで注意力が散漫になり物を落としてしまうんですよね。
なので大事な物は落とさないようにストラップ類を付けておく事も大事。
ベストなのは腰のベルト類にストラップとスマホ類を付けたり決まったポーチ類にしまうようにしましょう。
自分はスマホや地図バッテリー類、お財布などはウエストポーチに入れて管理しています。身体前面の自分がすぐに取り出せてしかも落とさない工夫が大事です。
こうしておけば「面倒くさい」を減らして落とすリスクも減らせます。
最近はスマホとは別にGPS内蔵のスマートウォッチを併用してる人もいます。
万が一スマホを落としたり壊した場合登山アプリに対応したスマートウォッチを活用できればリカバリーできます。
また最近のスマホは割と長く使える事が多いです。
なので下取りに出すんじゃなくてサブスマホとしてザックに入れておくも良いでしょう。特に美玖のような学生さんにはスマートウォッチを持つのは中々ハードルが高いでしょうし。
サブスマホには格安SIMを活用して通信できるようにしておくのも良いですね。
自分はサブスマホに格安SIMのPOVOを入れて持ち歩いています。
予備端末にも登山アプリや地図アプリを入れていれば最悪何かあっても現在地と地図は見られますし、電波があれば通話もできます。
POVOなら回線維持費は6ヶ月で300円もしないですよ。
※通信等サービスを利用しない月は0円ですが半年毎位にトッピングを
購入しないと解約されてしまう為。

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p118 川上由真視点 2日目
時計を見ると、もう一時半だった。早朝から塩飴をなめただけで、えんえんと歩き回っていることになる。もう、疲れているのやらいないのやらも、よくわからなかった。
そして気がついたら、また谷に出ていた。これも、きのうの谷かちがう谷かもわかんない。ただ両側は切り立った斜面で、水は流れてなくて、大きな岩がゴロゴロしていることは同じだった。
急にピキッと、右のふくらはぎに痛みが走った。ひきつるような痛みに、あたしは持っていた亜里沙ちゃんのリュックを落っことして、しゃがみこんだ。
「由真もん!」
亜里沙ちゃんが、悲鳴のような声を上げて助け起こしてくれたけど、もう「なんのなんの」という言葉さえ言えなかった。
筋肉がきゅうっと突っぱって、痛みで冷や形まで出てくる。
駆け寄ってきた美玖ちゃんが、「どうしたの!」と叫んでいる。
口がきけない。うめきながら横たわって、片手でふくらはぎを押さえた。
「足がつったね」
言うなり美ちゃんはあたしの足先を持って、むこうずねのほうへぐっと曲げてきた。激痛に悲鳴を上げる。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 山歩きをしていて足がつる人は多いです。
足がつる原因は、栄養不足や水分不足、疲労、熱中症や急激な寒暖差や冷えが原因とされています。
山歩きは長時間行動する事が多いので意識してこまめに補給をしないと足がつってしまう人がいるようです。
栄養補給、水分補給として摂取しやすいゼリー飲料などを活用すると良いでしょう。最近は筋肉疲労抑制や回復としてBCAAを活用している方も増えましたね。
また山行中や下山後、疲労して動けない、回復を早めたいという方は第三類医薬品になりますので用法をしっかり守って使って頂く形になりますが、アリナミンEXプラスαも個人的にはかなり効果があるように思います。ファーストエイドキットに入れておくのも良いでしょう。

p124 川上 由真視点 2日目
顔になにか、冷たいものが落ちてきた。
ポツンパツンポツン
「雨?」か細い声で亜里沙ちゃんがつぶやく。
「あー」
空を見上げた美玖ちゃんが、気落ちした声を出した。雨は小降りだったけど、急に風が強くなってきた。濃い灰の雨雲が、けっこう速いスピードで上空を流れてく。「雨具、着て」
あたしは、リュックから百均のレインコートを取りだして着た。薄いビニールのレインコートは、風にハタハタとはためいて着にくかった。着てからも、風にあおられてめくれあがった。隙間から雨が入ってくる。寒い。
ふたりみたいに上下セパレートの、もっといい雨具を持ってきたらよかったなあ、とあたしは思った。
結局、その日も野宿することになった。
岩石が転がる谷を必死に探しり、嵐がえぐられたようになっている場所を発見した。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 森林限界を超えるような高山では風避けになるような樹林帯が無いので風が直に吹き付けます。なので高い山に登る場合や鎖場やロープがある場所では上下上着とパンツに分かれ運動しやすく高いゴアテックスを使用した透湿性があり耐水性、防風性、耐久性に優れた物が良いでしょう。
整備された緩やかな登山道を登って行く湿気の多い時期の夏の低山では比較的湿気を外部に逃しやすいポンチョタイプも悪い選択肢ではありません。
ただし風があるとポンチョは煽られたりあまり約に立たない場合もあるので注意が必要です。
コンビニや100円ショップで売っている簡易的な物は山では低山でも心許ないので雨具はしっかりした物を選びましょう。
安いビニール雨具は透湿性がまったくないので借りに雨で濡れなくても、内側が汗で濡れてしまうんですよね。効果なレインウエアでも運動の仕方によって汗で濡れない訳ではないのですがその差は歴然で疲労や汗冷、低体温症の原因になってしまいます。
個人的には夏の低山だと上は状況によりゴアテックスのレインウエアを着て、下はレインスカートを着用しています。レインスカートも風にはあまり強くないですが、湿気が多く風を避けやすい低山ですと下半身から湿気を逃せるので快適ですよ。またレインスカートだと靴を履いたままでも簡単に着用できるのもメリットです。

p125 川上 由真視点 2日目
岩がひさしのように上にかぶさっていて、真上からの雨はしのげる。斜めに降ってくる雨はどうしても入ってくるんだけれど、そんな贅沢を言ってる場合じゃない。地面にゴロゴロしている小ぶりの岩を取りのぞき、そこに三人で身を寄せた。
私も口をきかなかった。けれど、たぶんみんなおんなじことを考えているだろうなって思った。
食料も水も、ほとんどなくなっている。水はあと小さなコップに三杯くらい。食料は、スティックシュガーとパウダーミルク数本と、練乳のチューブが半分くらい。今日中に電波のあるところに行くために水と食料を費やしたけど、結局ダメだった、当てが外れた。
生き延びられるんだろうか。ここから帰れるんだろうか。
雨が本降りになってきた。八月なのに寒い。でもそれは、こんな薄着で来た自分のせいだ。お湯を沸かすためのガスが残っていたかもだけど、ふたりに迷惑をかけたくない。
日はもうまもなく暮れそうだ。また、あの闇がやってくる。
「あー、聞こえるねえ、聞こえるよぉ」急に亜里沙ちゃんが喋った。妙にテンションの高い声だった。
「な、なに?雨の音?」
「犬の声じゃん!ワンワンってほら!救助犬だよ」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 道に迷ったら基本は迷った場所まで戻る。無闇に歩き回らない。安全な場所に留まって救助が来るまで体力を温存する事が大事です。
現状それが出来ていないので美玖達はかなり体力を消耗してきていますね。
山には色んな言い伝えやスピリチアルな経験談が沢山残されています。
それは疲れから来る幻覚を見やすい場所であるので当然です。山には沢山の生物や場所によっては目に見えないガスが発生していたり水の中には細菌類がいたりと注意する事が沢山あります。また雨風にさらされ風が吹きつけ、地面からも体温と体力を奪われます。そうなると身体が休まらないですね。
そして人間も動物ですから身体全身が実はセンサーのようなもの。周りからの色んな干渉により人間も実際に目に見えない危険にさらされたり、誤作動を頻繁に起こすようになります。幻覚もその一つですね。
だからこそ山に入る時は装備はなるべくケチらずにストレスや疲労を減らして、まめに行動食を食べておく必要があります。特に山をあるくスキルの無い初心者は必要以上に道具の携帯を減らすのはオススメしません。
山の中を安全に歩いたり走ったりするのは上手にスキルや経験と装備の足し算引き算が出来ないと危険ですのでそれがわからない場合はなるべく難易度の低い山行を装備を充実させて登り経験やスキルを足し算していき、そこから体力なども考えて装備を変えたり要らない物を見極めていく引き算をすれば良いと思います。

p130 川上 由真視点 2日目
だって、ここは寒いんだもの。八月なのになんでこんなに寒いのかな。
あれ?歯がガチガチ鳴ってる。
手足が冷たくて、背中がゾクゾクしている。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

p131 川上 由真視点 2日目
「由真もん?どしたの?」頭の横で、亜里沙ちゃんの声がする。
「あんた、震えてるじゃん!」美玖ちゃんの声もした。
「なんのなんの」
元気にそう返したつもりが、歯がガチガチ鳴り続けていて、小さな声しか出ないのだった。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 夏でも雨や汗で身体や下着が濡れ風に吹かれると急速に低体温症になってしまいます。できれば震えが出る前に休憩中などは一枚羽織るようにして保温に努めましょう。寒さを感じる時は帽子やフードを被って頭からの放熱も防ぐようにすると良いです。

p135 河合 亜里沙視点 2日目
「新・•••・・聞・・・・・紙?」
大きな古いリュックの、見えにくい底のほうの、隠しポケットみたいな場所。
そこに入れてあった新聞紙の束は昔のものらしく、日付はずいぶん前だったし、全体に黄ばんでいた。
「じいちゃんが入れたままにしてたんだ・・・・・・・」
美玖ちゃんはポツンと言うと、胸にぎゅうっと抱きしめた。
「よかった。これで少しは防寒になるかも」
ぽうかん
「新聞紙が、防寒?」
「そだよ。災害のときとか難のときとか、新聞紙は脱寒に役立つんだよ」
「・・・・・・あ、そう言われれば、どこかのネット記事で見たことある。新聞紙で洋服作れるって。
ちょっと待って!」
ポケットに手を入れ、スマホを出して検索しようとして気がついた。
スマホは今日ササの海で、なくしてしまっていたんだった。
「ググんなくていいよ。だいたい電波ないし」美ちゃんに言われて、さらに恥ずかしくなる。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 登山用品やファーストエイドキットなど専用品があるに越した事はないですが、知識やスキルがあれば割と代用品でどうにかなる場合も多いです。
ゴミ袋や時には新聞紙もあると保温に使えますね!
自分は流石に新聞紙を持っていく位なら他の防寒具などを持っていきますが。
しかし昔はそういった便利な物や機能的な物もないですし、時には野宿をしたり、山小屋だって今のなんでも揃っているような施設では無かったので自分の事は基本自分でしなければなりません。
そういった時に新聞紙は濡れた登山靴を乾かしたり防寒着にしたり敷物代わりにしたり、食べ物を包む、時には火種を作る時に使うなど色々活用出来たので昔の人は持ち歩く人も居たようですね。
今は軽くて持ち運びに便利な物が沢山あるのでそれらを揃え方が重量的にも使い勝手的にも楽ではあります。
45リット前後のゴミ袋はそんなにかさばらないので何枚か入れておくと便利です。

p136 河合 亜里沙視点 2日目
なにやってんだろ、私。
「検索女王」ってママにからかわれていたけれど、とんだ女王だ。スマホをなくした今、私はただのおバカさんになってしまった。
「とりあえず、全体にこれ巻きつければいいんじゃね?」美玖ちゃんが新聞紙を三枚ほど取って大きく広げた。
真ん中に、頭が入るくらいの大きさの穴を、ちぎりとって作る。
由真もんが着ている三人分の雨具を取り、かわりに新聞紙を頭からかぶせ、扉から体にフィットさせた。
むき出しの腕にもぐるぐると巻きつける。その上から百均のレインコートを着せて、ボタンをぴっちりと留める。
「足にも巻くよ!」
棚バンの上からまた新聞紙を巻き、その上にゴミ袋をすっぽりかぶせた。きのうお尻の下に敷いて、水気を脱いだものだ。太腿の真ん中あたりでキュッと織って固定した。さらに私たちの雨具を上半身と下半身にかけて、背中や腕や足をさすりまくった。
「・・・・・あったかい・・・・」
由真もんが、ショロリと笑った。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説
普段「検索女王」とからかわれる亜里沙。それ位普段からスマホを利用している彼女でさえモバイルバッテリーを携帯してないんですよね。
街なら色々と充電する手段がありますが山ではありません。
スマホを山で活用するなら使わなかったとしてもモバイルバッテリーは持っていきましょう。最近はだいぶ小型化も進んでいます。ケーブル類のチェックも必須です。またスマホは手に持って歩いていたりポケットにそのまま突っ込んでいると転倒時などに落としてしまう事が多々あります。
自分はウエストバッグにストラップでスマホを取り付けて無くさない対策をしています。山でスマホを無くす程悲惨な事は無いですからね。安い物でもないですし大事にしたいところ。身体に繋げていれば落下をさせて壊してしまうリスクも減ります。最近は若い子でも街中でショルダーストラップを利用している子も見かけます。身体のストレスにならなければあれも良いですね。
山歩き中は木や岩などに引っかかる事が多いので首掛けはやめておきましょう。
スマホでもバッグでも掛けるなら斜めがけ。首に引っ掛けておくと紐を引っ掛けた瞬間に首が締まって割と一瞬で意識を失う危険性があります。

 低体温症になった場合やビバークする事になった場合の基本は持っている物を全て着込む事。なければ代用できる物を全て活用して体温が下がらないようにします。濡れて困るものは事前にジップ付きの袋やビニール袋等に入れてザックに入れて起きましょう。雨や汗で濡れる事を考慮して着替えもあると良いですね。
特にソックスは替えを持ち歩くようにしていると良いです。
足はちょっと汗や水で濡れただけで靴擦れで水ぶくれが出来て歩くのに支障が出る場合もあります。
雪山なら尚更凍傷などの危険にすぐに陥ります。
もし山で足元が濡れてしまったらビバーク時は濡れた靴と靴下を脱いで乾いた靴下に着替えて足の保温に努めます。その時足は中身を全部出したザックに突っ込んでみるのも良いでしょう。
自分はゴアテックスを使った水に強い靴下を縦走時などはザックの中に入れています。ゴアテックスといっても普通の靴下よりは蒸れやすいので特性を理解して上手く使ってやる必要はありますがビバーク時などの緊急時や水が多い場所で靴を濡らしてしまった場合は便利です。
※蒸れやすいという事は靴擦れや臭いが発生しやすい事でもある。
通気性の高いトレランシューズ等と組み合わせるのなら普段使いにも便利かもしれないですね。防水性の高い靴下は色々出てるので自分に合ったものを1足持ってみてはいかがでしょうか?

p141 河合 亜里沙視点 2日目
「あたしも、このまま死にたくないな」由真もんも小さな声で言う。
「わたしだって今死にたくない」
美ちゃんが叫んで、口元をぎゅっと結ぶ。さつきから、残った新聞紙の束を胸の前で、大切そうに抱きしめている。
なんで?って私も聞かなかった。
みんなが生きたい、と思っている。それだけで十分だ。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 昨今根性論が何かと話題になりますが、根性論の問題点は準備や理論的な問題解決をしないで最初から根性で問題を何でも解決しようとするところ。
順番の違いが最大の問題ですね。
やるべき事をやってちゃんと準備していても問題にぶつかったりスポーツ等だと力が拮抗したりは当然出てきます。そういう時に「最後に物を言うのが根性」なんですよね。山歩きでも美玖達みたいにそれまで色々とミスが重なり遭難してしまう事があります。そのミスを取り返すのもまずは無事に生きて帰ってからこそ。
そういう時に最後の最後は「生きたい」という根性がとても大切になってきます。
皆で確認しあったて生きて帰ると誓い合ったのはとても良いことだと思います。

p143 河合 亜里沙視点 2日目
そうか、また私、幻覚を見てるんだな。幼覚でもいい、ずっと見ていたい。
そしてできれば、かたっぱしから飲みたい。
「あー!」
美玖ちゃんの突指子もない叫び声で、ハッと地に返る。
ドリンクバーが消える。
かわりに美玖ちゃんのヘッドライトがパッと灯った。
「起きて!みんな、自分のマグカップ出して」「え?」
「雨だよ、雨降ってるじゃん!雨水をマグカップとかコッヘルに貯めるんだよ。あー、どうして今まで思いつかなかったんだろ。バカバカバカ!」言いながら、湯沸かし用の小鍋と自分のマグカップを外に出している。
程と由真もんもあわててマグカップを取りだして、岩のひさしの外に出す。
そうだそうだ、こんなに求めている水分は、さっきからジャアジャア空から落ちてきてるじゃないか。
なのに、なんていうことだろう。雨はとたんに小降りになり、まもなく霧雨のようになって止んでしまった。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 山の中では安全な水を得るのも大変です。
基本的に山の中で安全な水は得られないと考えておいた方が良いです。
しかし遭難時はそうも言ってられませんね。
今回美玖がやろうとした雨から水を得るは比較的安全なやり方です。
第三者視点だと「なぜ早く気付かないの?」なんて思ってしまう事もありますが遭難時などの極限状態では色々と気が回らない事はあると思います。
また雨からより安全な水を得る方法は振り始めの空気中や周りの木々に汚れが付いている振り始めより本降りになってからの方がより安全と言われています。
なのでタイミング的には美玖が水を得ようと思いついたタイミングは悪くないとは思います。しかしお天気は気まぐれ。今回のように雨が止んでしまう事も当然あるので本当に山の中で安定して安全な水を得るのは難しいですね。
水を得る時はペットボトルよりは口の大きなクリアボトルや水筒などあった方が便利なのでよく山歩きをする人はアウトドア用のボトルや魔法瓶類を購入しておくのも良いです。
有名どころだとナルゲンボトル。
単なるプラボトルに見えて丈夫で色んな使い方ができます。
まずは蓋が無くならないように工夫がしてあります。
口が広いので洗いやすく安全性が高いですね。
耐熱温度:本体100℃ 耐冷温度:本体-20℃で温かい物も冷たい物の入れられます。勿論ポリボトルなので保冷保温機能はありません。
雪山などでは身体が冷えた場合ナルゲンボトルにお湯を入れて湯たんぽ代わりにして身体を温めている方もいます。水分以外でもナッツやドライフルーツ類など行動食をこれに入れて持ち歩いて食べている方もいらっしゃいますね。

p146 河合 亜里沙視点 3日目
私たちは、登り坂のほうに進んだ。途中から薮になったけど、かき分けかき分け進んだ。遭難三日目の太陽は、ギラギラと私たちを照らしている。夜とは打ってかわって、暑い。
息が切れる。体に力が入らない。頭がクラクラして頭痛がする。たぶん、脱水の症状だ。
でも、ダメ。ここで倒れちゃ、ダメ。
「ねえ」
美玖ちゃんが振りかえる。
「水の音がしない?」
耳を澄ましてみた。かすかな、ほんとうにかすかな音だけど、風や鳥の声に混じって水が流れる音がする。
サー、ともザー、ともつかない音だ。
あえぎながら藪の斜面を登っていくと、いきなり視界が開けた。
下は浅い谷だった。きのういた谷と同じく、大きな岩がゴロゴロしている。けれどそこには沢が流れていた。泥は昨夜の雨を集め、岩にぶつかっては白く泡立ちながら、下流へとサラサラ流れていく。
「水だー」
私たちは叫んだ。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

水を得る方法で一番最初に思いつくのは川や沢から水を得る事だと思います。
ですがこれはかなりリスクが高い行為だと思います。
勿論背に腹は代えられない場合もありますが。
山歩きではミスを繰り返してどんどん深みにハマった場合に突きつけられる選択が出てくる事があります。山歩きに不慣れな方は大体どっちかが正解だと思って選びますが大抵の場合はどちらも不正解な場合が多いです。
また安易にギャンブルするのもおすすめはしません。
なので最初のリカバリーが本当に大切なんですよね。
この場合は水を得る為に美玖達は沢に降りる事になります。
ただ川や沢は安易に降りると登り返せなくなるという事も多々あります。
また沢の水は見た目綺麗に見えても何が含まれているかわかりません。
山の中では色んな菌や寄生虫を含んだ動物の死骸や糞も沢山ありますし、
土の中にも人間の体内や傷口に入ると死に至る破傷風などの菌があります。
勿論脱水症状に陥って動けなくなるよりは飲む選択をせざる得ないですが、
安易に沢や湧き水を飲んでも水に当たって食中毒等になり結局動けなくなる事もあります。なので緊急時以外は山の中の水を飲むのは避けるべきでしょう。
因みに山歩きに慣れた方で何日も山の中を歩くという方は基本は煮沸消毒をできるように燃料を持ち歩いています。美玖も持っていましたがこれも事前の準備不足で燃料の残量をちゃんと確認してませんでしたね。
また携帯浄水器で沢や湧き水を浄水して飲む方法もあります。
これも割と縦走する人には必需品。
ただし微細なウイルスや鉱物、放射性物質など除去しきれない物はあるのでこれを通せば絶対に安全という訳ではありません。なので山歩きをする場合は常にどこまでリスクを取るかを自分で考えて行動しなければなりませんね。
そして縦走などの長距離で湧き水などで水を得ようと思っている場合は事前の情報収集も大事です。季節やタイミングによっては枯れていたり水が殆ど出ていない場合や荒天で水が汚染されている場合もあります。

p147 河合 亜里沙視点 3日目
低木につかまりながら、よろよろと谷への斜画を下り、石がゴロゴロした河原を横切って、手で流水をすくう。
口に持っていってむさぼるように飲んだ。なくなるとまた、すくって飲んだ。
冷たく透き通った清水が、混ききった口からのどに落ちていき、お腹から全身の細へと行き渡っていく。助かった、と頭ではなく、体が叫んでいる気がする。
飲み終わって、程たちはその場に大の字になって伽向けに寝た。下は石だらけだったけれど、どうでもよかった。
白い雲と青い空。そして、混ききって死ぬことの恐怖から、解放された安心感。
幸せだー。
幸せのハードルがめちゃくちゃ下がってしまっているけれど、幸せなものは幸せだー。
「ねぇ、この沢をたどっていけば、まちがいなく山から下りられるよね」由真もんが、寝ころんだままつぶやいた。
「だって、水は上から下に流れるんだもん。この流れに沿って歩けば、もう道に迷うことはないよ。今に電波が入る場所にたどりつくよ」「そだね」と、私もうなずいた。
「ちょっと休んだら、この沢に沿って下っていこ。ね、美玖ちゃん」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

p148 河合 亜里沙視点 3日目
「.....それって、危険なんじゃないかな」目を閉じたまま、美玖ちゃんは小さく答えた。
「わたしたち、またセオリーにはずれたことしようとしてない?楽して下るとドツボって言ったよね」
「でも、沢から離れたら水がなくなるよ」「ベットボトルと水筒に、この沢の水を入れていこう」
「・・・・・なんにも食べてないのに、重たい水を背負って登るの?それに、その水を飲みきっちゃったら?水がなくなったのに、沢に出る道がわかんなくなっちゃったとしたら?」
「うーん」
美玖ちゃんは考え込んでる。
「・・・・・・あたしも沢を離れるの、ちょっと怖い」おずおずと由真もんが言う。
「そうだよ。私も怖い」必死に訴える。
「ご飯食べなくても、人間は二、三週間は生きられる。でもお水を飲まないと、せいぜい三日くらいだよ」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

p149 河合 亜里沙視点 3日目
「うーん」
美玖ちゃんは再び考え込むと、「あともうちょっとこのまま、下ってみるか」と結論を出した。
水の音を聞きながら、秋たちは形び起き上がって歩き始めた。
飢えはともかく、もう渇くことはない、と思うと幸せ感はまだ持続していた。
けれども膝は、あいかわらず動かしにくかった。ぐらぐらして不安定で、自分の足じゃないみたいだった。
朝みたいにお腹に力を入れて、ふっと息を吐いてみたけれど、状態は変わらなかった。けれども口には出さなかった。
動きにくいのがなんだ。とにかく今は、電波があるとこまで行かなくちゃ。絶に行く。そしてママの待つ家に帰るんだ。
岩だらけの谷を、清流に沿ってぎくしゃくと歩く。みんなから選れてしまうかもと思ったけれど、由真もんの歩みも遅く、美玖ちゃんも私たちに合わせてくれた。
ときどき、岩にかけて休んだ。泥の水を、マグカップにすくって飲んだ。
飲んでも飲んでも空腹だった。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 沢に降りた美玖達。まずは無事に水を得る事ができました。色々なリスクがありますが初期の脱水症状が出ていたのでこの判断も致し方ないかもしれません。
一度乾く思いをすると水を失う怖さはとてもわかります。
沢の水については前述した通りですが、他にも沢に降りるという事は様々なリスクがあります。その一つは沢は基本歩けるような場所では無い事。
段差も沢山あります。
水を求めて降りたい一心で例えば1.5メートルの垂直に近い岩場を降りたとしましょう。
これ降りるのは出来たとして登り返せるでしょうか?
また1メートルは一命取るというのはよく現場作業でも言われていますね。
特に美玖達のように山を彷徨って体力を消耗した状態ではかなり厳しいです。
そんな状態で何も考えずに降りてしまうと次は大抵は崖や滝にぶつかります。
そので進退が極まります。
過去の遭難事例では疲れで足を滑らせて滑落、滝に飛び込んで溺死など報告されています。それ位沢を下るのはリスキーです。
勿論過去の遭難者の報告では沢を降りて作業道に運良くでられた方もいました。
しかしそれは基本は運が良かっただけ。
奥多摩の遭難事例でもすぐそこに駅が見えている山でも滑落して亡くなった方もいらっしゃいますし、新潟の親子遭難事故も沢や谷、滝を挟んで街の明かりが見えていたとも言われています。直線距離で街が見えていてもちゃんと下山できるまで気が抜けませんし、見えている方向が必ず降りられるという訳ではありません。
逆に真っ直ぐ降りる方が蟻地獄のように危険な場所にハマっていくと考えた方がよいでしょう。
なので現在地と登山道を見失った時点で分かる場所まで戻るが正解なんですよね。
しかし美玖達も疲労と怪我でもう登り返す気力がなくなってしまいました。
そして再び沢を下る決断をしてしまいます。

p151 河合 亜里沙視点 3日目
ザァーザアーッ
沢は途切れて滝になっていた。
そばの木につかまりながら恐る恐るのぞきこむと、沢は水幅を狭め、白い帯になって泡立ちながら、勢いよく下へと流れ落ちている。
由真もんがなにか言っているけれど、滝の音が大きすぎて聞き取れなかった。
水煙を上げながら、ほぼ垂直に落ちていく大量の水。
落差は相当ある。瀧つぽまでは検舎の屋上から、校庭を見下ろしたくらいの距離感だった。両脇は濡れた岩の崖。こんなところ、たとえ野生動物だって、下りるのは無理だ。
泥に沿って歩けば下りられる、という希望は粉々に打ち砕かれた。
やはり楽して下ると、ドツボだったのだ。けれど楽しないで登って、また迷って水がなくなれば、やっぱりドツボだった。どちらを選択してもリスクだらけ。これが遭難っていうことなんだ。だから遭難なんか、しちゃいけなかったんだ。
とにかく、ここから先へは進めない。別の道を探さないと。程たちは滝に背中を向け、無言で泥を上流へと引き返し始めた。
そのとき、前を行く由真もんがずるっと足を流らせ、仰向けに転んだ。
「由真もん!」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 滝に出くわし進退窮まった美玖達。
どちらも不正解。遭難時にはよくある事です。
なのでそうならないように準備と行動を求められるんですよね。
でもやはり日常生活でも山歩きでも不意に魔が差すなんて事もあります。
明日は我が身です。

p160 坂本 未玖視点 3日目
人として、なんとか踏みとどまれた。
神さま、感謝します。そしてどうか、わたしたちを助けてください。
それからわたしも亜里沙も、体力温存のために横になった。うつらうつらと浅い眠りの中をさまよっていた気がする。
突然、かすかな機被音が聞こえた気がして、ハッと意識が戻った。
耳を澄ますとブォーンという音。
「ヘリコプター?」亜里沙が飛び起きる。
「救援へり、来た?」わたしも全身を耳にした。
バババババババババババ
たしかにヘリの音だった。この前聞いたよりも、近い気がした。
「あれじゃないの?」
向こうに見える、山の稜線。
そのすれすれに、ヘリの機体が小さく見える。
来た!来てくれた!これをどんなに待っていたことか。
「おーい!」
わたしは着ていた雨具を脱いで、振りしながら沢沿いを走った。
「おーい、ここでーす!ここにいましす!」
亜里沙も必死に立ちあがって、噌子を振っている。
「お願いっ!こっち見て。助けてー。ねぇっ、こっちだよー」
けれど、わたしたちを見つけるにはヘリは遠すぎた。あの位置から、この谷の底まで、見通せるわけもなかった。
しばらく旋回したあと、ヘリの機体は山の向こうに酒え、やがて音も遠ざかっていった。
「あーあ」
がっくりと亜里沙が盛りこみ、扉を落としている。
「けれど、捜してくれてる!」
そう叫んで、絶望の中に沈み込みそうな心を自分で励ます。
ひとかけらでも、ひと粒でも、希望を拾い上げなければ。今、心を折ったらおしまいだ。
「そだね。捜してくれてる!明日こそ見つけてくれる!」同じ気持ちなのだろう。亜里沙も何度もそう繰り返している。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 闇雲に歩き回ったせいでかなり当初のルートから外れているようです。
沢や谷に入り込むとヘリコプターから目視で見つけるのがかなり困難になります。
スマホやGPSの電波も入りにくくなります。
これでは中々捜索隊に見つけてもらうのは厳しいですね。
山に入る前は家族や知人に登る山とルートを書いた登山計画書をメモやメッセージアプリ等で残して予定通り下山しなかれば捜索してもらうようにします。
そうしていれば遭難から1日程で大抵は捜索隊が組織され捜索が開始されます。
だからこそ闇雲に動かずに体力を温存する事が大切なのです。
予定ルートから外れていたとしても闇雲に歩いて外れた場所を大きく外れていなければ早期に見つけて貰える確率は高くなります。
だからこそ分岐などではしっかりと現在地とルート確認をして予定のルートを外れないようにしましょう。

p166 坂本 未玖視点 3日目
ー おまえ、登山届わざわざ出して、それとちがうルートに行っちまっただろ?三日目なのに手がかりなくて、警察も頭抱えてるし。このままだと、捜索の人員が削減されて、そのうち捜索打ち切りになるからなー
いつものかったるそうな口調と、顔。髪はボサボサで、あごには無精ひげが生えている。ひどく疲れた顔をしていた。
これも幻覚?けれどこんな言葉、今のわたしは全然欲していないんですけど?それにトガちゃんの表情も言ってることも、妙にリアルなんですけど。
ー 登山部で、地図読みとか天気図書きとか、いろいろ勉強する理由がわかったか?なんもかも、命を落とさないためにやってんだからな。地図アプリもお天気アプリも、そりゃああるだろうけどな、山ではなにが起こるかわからない。すべて機能しなくなった最悪の事態を、自力でなんとかできる能力が必要なんだよ、登山にはー わたしは、うなだれる。なにひとつ言い返せない。
人生は五〇パー自己貴任。けど、登山は一〇〇パー自己責任ー
トガちゃんが、充血した目でわたしをにらみながら、さらに言葉を重ねる。目は赤いけれど、目の下は黒かった。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 登山届と違うルートに入ると捜索が困難になります。
登山道は外れないようにしましょう。
捜索期間は家族や知人からの捜索依頼が出てから大体本格的なものが3日間。
その間に有力な情報が得られない場合は捜索が縮小、打ち切りになります。
基本的には遭難したら安全な場所で体力を温存しながら救助を待つのが良いでしょう。
学校の登山(競技登山)と一般的な登山では求められる物が違ってきます。
学校や競技では教育として登山に使える総合的な技術を学びます。
しかし現在の登山や山歩きとは少しかけ離れている部分もありますね。
まあこれは登山に限らずですが技術や常識の進歩や変化がとても早いという事もあるのかもしれません。

トガちゃんはデジタル世代では無いのでしょう。どうしてもアナログ>デジタルの意識が強すぎる気がしますね。
山の基本は安全に登って降りてくる事が目的です。
紙地図やコンパスのようなアナログ機器を使って山を歩くのも楽しいですし今でもそういった楽しみ方をする方は多く居ます。
ただし頂上を目指すような山登りではアナログ機器は現在では補助的な物になります。
なのでアナログとデジタル区別する事ではなく、安全な山歩きに使える物はしっかりと使えるようにしておく事が大事ですね。

知識は荷物になりません。地図を読めるようにしておくのは大事です。
アナログでもデジタルでも使われている地図は国土地理院の物が多く実は同じ物です。広げて全体を把握しやすいのは紙地図なので登山前に紙地図がある人は家なので広げて全体を把握しておきましょう。
ただしよく遭難事例であるものが紙地図の情報が古いという例。
デジタルでも買い取り式の物だとその恐れがあります。
紙地図や紙地図をデジタル化した地図を利用する方は1年に1度位で買い替えまししょう。正直大きな台風が来たり悪天候が続くと山はすぐに変化します。
山アプリだとそういった注意情報が割と入ってきやすいです。
勿論マメにその山に関する情報は得るべきですし、メジャーな山なら麓にビジターセンターがあるのでそういう場所で情報を得ましょう。
因みに自分は地図プリを使ってそこに注意事項や気になる場所を書き込んで地図をプリントアウトして持って行く事も多いです。

天気図も勿論描けた方が自分でも予想ができるので気象庁等から得る情報と比べて山行予定を立てやすいのはありますね。
ただし現在の天気予報はかなり精度が上がっていますし、天気図一つ書いてそれを元に色々と予想したり山行を考えるのもセンスやスキルが要ります。
競技登山などをやらない人ならそういう事に力を入れるよりはまずはしっかりと天気予報を確認するを心がけたいところ。
特に今はスマホ等からアクセスして山の天気をピンポイントで確認できる天気予報サイトもあります。中低山など初心者が歩く場合はまずは天気図云々難しく考える前にしっかりと天気予報を確認する事を癖付けたいですね。
自分は色々な天気予報サイトを見ますが山歩きにはてんきとくらすが便利だと思います。
とはいっても今回の美玖達のケースでは実は天気図云々は関係ないのですが。
だからこそトガちゃんがあまり競技登山に引っ張られすぎないで、山に登る時にやるべき当たり前の事を当たり前にやる事を生徒にまずは教え込んでいれば防げた遭難かもしれません。あともしかしたらトガちゃんはデジタルが苦手なのかもしれません。それなら折角若い子が周りに沢山いるんですからそういう若い子からはデジタル機器をしっかり使うスキルを学んでいけばトガちゃん自身もアップデートできて良かったと思います。そうすればしっかりデジタル機器を使って美玖達が遭難する事は無かったでしょうし、そもそも美玖は部活を辞めなかったかもしれません。
競技登山に馴染めないからといっても色々とやり方はあると思うんですよね。
そういう経験のある方でも自分をアップデート出来ていない人も沢山います。
常に学びは必要ですね。

あと登山で自己責任とよく言われます。
よく山を歩かない人に限ってこの自己責任という言葉を人を責め立てる為に利用している方を多く見ますね。
しかしこの自己責任というのはまず山を登る人の為だと思っています。
山の中では自己責任。
自己責任とはつまり自由には責任が伴うという事です。
なのでまずは自分一人(またはパーティーで)で安全に登って降りてくる事が求められます。これ以上でもこれ以下でもありません。
自由を行使するには責務をまっとうするしかありません。
これを無視していると自由はどんどん無くなってしまいます。
これは全ての人が心に刻むべき。
しかし山だろうが街だろうがどんなに準備していても体調不良にもなるし、怪我もあります。
だから山に入っている人で困っている人がいたら手助けできる場合は皆で手助けして無事に下山できるように心がけます。
それは登山者を運命共同体と見れば遭難者が少なければ少ないほど自由の幅が広がるから。
しかしたまに遭難者が出た時に助けられずに見ているだけの人や過ぎ去っていった人を責める方がいますが個人的にはその人達を責めるよりは助けてくれた人を称賛すべきでしょう。助けるスキルが無い方を無理に救助活動に参加させたり多くを求めると二次災害にもなりかねませんし、山では人に関わる余裕が無い方も沢山います。

p169 坂本 未玖視点 4日目
四日目の朝が来た。無っていて、なまあたたかい風が吹いていた。これからまた天気が崩れるのかもしれない。
由真もんのおでこに手を当ててみると、また熱が上がっているようだった。しかもゴホゴホと、苦しそうな咳をしている。
亜里沙の膝も大きく腫れていて、歩かせてみるときのうより歩き方が変だった。
わたしは沢から水筒で水を汲んでくると三人のマグカップに注ぎ、残った練乳をチューブからすべてしぼり入れた。
「それ、最後の食料だよね?今、全部使っちゃうの?」不安そうに言う亜里沙に、「うん」とうなずく。
「いちかばちかの賭けをするから、今、栄養とっときたいんだ」
「賭け?」
由真もんが薄目を開けて、弱々しく聞いてくる。
「そうだよ。わたし今からひとりで、この谷から脱出してみる。尾想に出られれば、きっと電波がある場所が見つかると思うから、電話して救助を要請する。きのう、大きな滝があったよね?
あの滝の少し手前に、少しだけ側斜のゆるい斜があった。岩がつかみやすそうだったし、あそこ、登って登れないことはないと思うんだ」「えっ、やめて!あんな高いとこ、落ちたらただじゃすまないよ!」
亜里沙が悲鳴のような声を上げる。
「わたしさ、体力と運動能力だけは、みんなよかあると思う。実際、熱も出していないしケガもしてない。それしか取り柄がないんだよね。じいちゃんは元警察官で、山岳警備隊員としても働いてた。その血が流れてるんだよ、わたしには」
「でも・・・」
「だから、だいじょうぶ!」
きっぱりと言って、ニッと笑う。じいちゃんとそっくりの笑顔になっているといいなと思う。
「・・・・・・それしかないの?」
「それしかない。今日でもう遭難四日目だよ。このスマホ・・・・・」一台だけ残った、自分のスマホをザックから取りだす。
「もう、バッテリーが三%しか残ってないんだ。だから今、動かないと。由真もんの体も心配だし、一刻も早く就助してもらわないと」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 山で遭難しセオリーを無視した行動をすると次からは厳しい選択を次から次に迫られるようになります。
追い込まれたからの選択は単なるギャンブルです。
装填数6発の回転式の銃に弾を5発入れてやるロシアンルーレットのようなもので、そのギャンブルに勝つ幸運な人もいますが大抵ギャンブルはいつか負けます。
なのでそんなギャンブルをしないでいいように行動したいところ。
しかしこの追い込まれた業況では今できるより良い選択と行動をしなければなりません。
遭難時、過去の遭難事例で救助の確率を上げている行動を見ていると以下のようになると思います。これを美玖達の今の状況と照らし合わせてみたいと思います。ただしこれが絶対にどんな状況にも当てはまるという訳ではないとも思いますが書き出して見ます。

1.パーティで遭難。疲労で動けなくなる。ここでパーティが分裂しがちだが分裂しないように気をつける。
2.可能なら登り返したいところだが疲労や怪我で動けない場合はそこで救助を待つ。
3.捜索が出ているのを期待して3日程待機。着るものは全て着て身を寄せ合って保温に務める。火種があれば山火事などに気をつけて緊急避難として焚き火をする。
4.捜索が期待できない場合は体力がある者が救助を呼びに行く為の行動を起こす。
あまりに長い日数来ない救助を待ちすぎても食料等の問題で体力が無くなり動けなくなるし、スマホのバッテリーも減ってしまう。捜索も段々縮小されてしまうのでリスクはあるけれど行動を起こす必要が出てくる。

こんな感じでしょうか?
おやつや行動食、非常食はこういう場合とても大事になってきますね。
自分は一人で山に入る事が多いので非常食を持ち歩いています。
自分は非常食は保存性が高くて管理がしやすい氷砂糖とチューブの練乳なんてのを愛用しています。氷砂糖はジップ袋に小分けして持ってます。お守りのようなものです。


さて美玖達はどうなってしまうのか?
すみません、思いの外長くなりましたので後編その2に続きます!


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