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旅する楽園、住む地獄―ハワイの民泊と地域経済へのインパクト#2

 このシリーズでは、ハワイの住宅問題/家賃高騰問題に関して取組む団体、Hawaii Apple Seedによる、バケーションレンタルの家賃及び地域経済に関するレポート(2018年3月22日公開)を紹介している。
その1:民泊の増加は家賃上昇、地域経済の衰退を引き起こす?


レポートの概要

 レポートの要点は、以下の2点である。

・民泊ホストの収入、旅客の消費とホテル税を加味してもなお、バケーションレンタルは経済的にネガティブなインパクトを生んでいる。
・サンフランシスコでは、バケーションレンタルとして貸し出されているユニットあたり年間$300,000(約3,200万円)もの損失が出ていると報告されている。ハワイにおいても、同程度の損失が出ていると思われる。

 それではまずハワイの住宅に関する現状から、レポートの順番どおりに確認していこう。

用語

VRU(Vacation Rental Unit):バケーション・レンタル・ユニット
 ある使用する主体(顧客)に対して、30日以下の期間で貸し出されているレンタル物件。Airbnbなどのリスティングにあるような、個人所有だが短期で貸し出されている物件である。日本語では民泊物件と呼んだほうがわかりやすいかもしれないが、「民泊」という言葉には曖昧な部分もあるので、今回はそのままVRUと呼ぶことにする。

Affordable Housing:アフォーダブル・ハウジング
 経済的に手の届く価格の家のこと。アフォーダブルとは、「手に入れることができる、手頃な、手が届く」という意味であり、けして安い、安価なという意味ではない。また、考え方は似ているものの、厳密に言うと低所得層向け住宅ではない。アメリカでは、月収の30%以下の家賃が「Affordable」の基準とされている。意味を重視して、適正価格住宅と呼ぶことにしたい。


ハワイにおける住宅事情

 ハワイは全米で一番家賃が高い。その上、Affordable Housing:経済的に手の届く価格の住宅の供給は需要に追いついていない。しかし、賃金の上昇よりも、家賃の上昇の方が明らかに早いスピードで進んでおり、そのスピードはおよそ2倍の速さだ。家賃が上昇している背景には、州外の人々による住宅購入の影響が指摘されている。

▼ハワイにおける家賃上昇率と賃金上昇率の比較

マウイでは、52%の物件が州外の人々によって購入されているという。また、60%のコンドミニアム/アパートが、投機目的もしくは別荘として購入されている。

必要な人に住宅が供給されていない

 住宅価格が適当であるかどうかの判断は、AMI(Area Median Income:地域収入中央値)が使われている。平均値ではなく中央値であることに注意してほしい。平均値では、極端に低い、もしくは高い値があったときに、平均値が極端な方に引っ張られてしまう。中央値は、すべての値のバランスが取れる場所にあたる値であるため、極端な例に左右されることが少なく、より多くの人が得ているであろう数値に近い値を得ることができる。

 ハワイにおける年収の地域収入中央値は、$74,511(約750万円)である。つまり、ハワイの人々の年収は、この値を中心とした前後の額であることが一般的ということだ。2025年までに必要とされる適正価格住宅の74%はこの$74,511を下回る年収の世帯向けであると言われている。ということは、住宅が手に入れられない人々は、この標準的な年収にすら及ばない人々である。これを達成するには、年間の全住宅供給の三分の一が適正価格住宅でなければいけない計算だ。

▼ハワイの収入別必要住宅数(家ひとつ=1,000ユニット)

 しかし現実は厳しい。政府が介入しない場合の住宅価格は、地域収入中央値の1.4倍の世代向けの価格となってしまう。つまり、多くの人に手が届かない価格が、市場価格となるのだ。今の計画では、必要な人に住宅の供給は到底追いつかない。

 すでに住宅価格は高騰しており、住環境に大きな影響も出ている。一つのユニットの単価が高いため、シェアなどが進み、ユニットあたりの人口密度が高くなっているのである。2016年には、20%の世帯で本来適正な人数以上の人々が1つのユニットに集住している状態だという。特に影響を受けているのはネイティブ・ハワイアンの人たちである。長期の賃貸物件が減ると、住むところがなくなってしまうのではないかとさえ危惧されている。

ハワイの経済的困難

 リゾートのイメージが強いハワイだが、その一般的な暮らしはけして裕福なものではない。収入に占める家賃の割合は高く、生活費で調整すると、賃金はアメリカ国内でも最低となる。住宅の適正価格(Affordableかどうか)は収入の30%が基準だと先に説明したが、この基準で計算すると、ハワイの適正な時給は$35.20(約3600円)なければいけないことになる。

▼ハワイにおける収入別の家賃が収入に占める割合の厳しい世帯数比較
(濃い緑−家賃が収入の30%以上、薄い緑−家賃が収入の50%以上)

 ホームレスシェルターに新しく助けを求めてくる人のうち、13%は、家賃の上昇によりもとの家に住めなくなってしまった人々だという。また、次の引っ越し時に州外への移動を考えている人22%のうち、13%は家賃が問題であると挙げている。

 理想的なのは、まず収入の額があり、収入から見て自分にふさわしい価格の住宅が選べるという環境である。(月20万円の収入だから、月6万円程度の家に住むという選択)しかし、賃金より家賃が高い状態では、住宅の最低価格自体が上がっていくため、その価格設定は地域の実情を反映したものにならない。これがなぜ起こってしまうかというと、投資や民泊による一日あたりの高い価格設定に影響を受け、その値段が釣り上げられてしまうことによるのである。

 それでは、民泊にからむハワイの住宅事情についてみていこう。

>次の記事:民泊と住宅価格の現状

※紹介したグラフはすべてレポートより
写真はカイムキの高台から望むダイアモンドヘッド

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