SCM 実話 桜庭支配人の現場一直線   第十三話

桜庭支配人の現場一直線 第十三話

<登場人物>

桜庭支配人~ このシリーズの主人公。
株式会社アジア開発 入社2年目の新人にして現場の支配人の辞令を受けた。
35歳 結婚式場の責任者の経験はまったく無く、営業の経験も無い。ないない尽くしで自信もないまま 指導を受けて独り立ち上がる。
河野俊一~ 隣町の結婚式場の支配人。同じアジア開発の社員で、やはり支配人として人材派遣された。桜庭より1年早く入社して現場に配属されいた。30歳。
後藤部長~ハートロード結婚式場の営業部長。営業部10年目。現場のたたき上げで
     規則を守ることに厳しい。現場の鬼と呼ばれている。32歳
石原とよ~ バンケットマネージャー。ハートロード結婚式場の創立メンバーで、地元の顧客には顔きき役。親分肌で面倒見もよく、影のボスといわれている。52歳。
白石庄平~地元の生命保険のトレーナーで引退後も後輩の面倒を見ながら研修会に参加している中で桜庭と出会う。72歳。

大林友子~ハートロード結婚式場の専務婦人。フロント予約課課長。
内田悟~ハートロード結婚式場営業部課長代理。
柏崎理恵~ハートロード営業課長で最古株社員。営業の実力ナンバーワン。
小森友和~ハートロード結婚式場営業部主任。

・ もう一人のサル

桜庭はこの高齢だがエネルギッシュな白石さんを訪ねて早速次の日の朝早くからお邪魔することにした。石原マネージャーにも同行をお願いしたが
「あの方には支配人一人で行ったほうがいいですよ」
という、まるで老人の心を見通したかのような一言を信じて、ビールの詰め合わせをもってご挨拶に向かった。
 「来ると思っていました」という言葉で迎えられて、昔風の農家を改装した一戸建ての6畳の畳部屋にとされると、すぐに話が始まった。

ふすまを開けてもう一つの畳部屋に案内されると そこには大きな仏壇があって、その横には若い男性の写真が飾ってあった。
交通事故で無くなった息子さんなのだそうだ。息子さんは生命保険の営業はいやだといってホテルに就職し、フロントで接客の修行をして、バンケットも経験し、最後に営業部に配属になったそうだ。

「自分のやりたい営業が出来ず、上からの実績の追求で精神的に大変だ、とよく言ってましたっけ。」
そんな息子さんが、家に戻ってくると、生命保険のトップトレーナーの白石さんは、まだ当時は現場の営業マンだったので、いつも営業のやり方をああでもない、こうでもないと教えていたという。
「どうして トレーナーになられたんですか?」
この質問をすると、しばらく沈黙していたが、
「若い営業マンを教えることでなくなった息子を取り戻したような気がしたから、、、、」

息子さんを本当に大切にされていた心が伝わってきた。
それから、机の中から教育に使った教材やらテキストやらを持ち出して、研修内容を2時巻以上にわたって説明してくれた。途中で親子どんぶりを注文されて一緒に食事を取ったとは、昔のアルバムを取り出して、いろいろと家族の話をしてくれた。
 そうこうしているうちに夕方になってしまったが、ふと白石さんが高田に聞いた
「今営業で困っていることは何ですか。」
考えてみれば、白石さんほど営業を教えてもらうのに適した先生はいないことに気がついた。

「結婚式の営業を取らなくてはいけないのに、地元での人脈も基盤も無くて、営業会議に出ると実績をつめられるし、どうしていいか分からず、いま宴会の顧客のフォローから始めています。」
「、、、、、昔 同じ事を息子にアドバイスしたことがあるよ。」
「営業を、取りに行っているうちは、ストレスの蟻地獄にはまる。
 営業は実績を出した次の月は、又同じように実績を出し続けなければいけないからね。
 会社に自然とお客が吸い込まれてくるような引き寄せる流れを作ることだ。
その流れが出来れば、後はそれを育てて行くだけでいい。そうすると営業はストレスではなく楽しみになる。」


桜庭は思わずメモ帳を出して、そのすべての言葉をしっかりと書き出した。
「ははは、、何もそんな授業みたいに考えなくていいよ。」
「白石さん、今の白石さんの生きがいが、後継者のトレーニングだということですか。?」
「違うね、、、その答えは石原マネージャーに聞いてごらん。」
この答えはもらえないまま、最後は夕食も一緒に食べ、お風呂にも一緒に入って背中を洗ってあげて、夜9時くらいに会社に戻ってきた。

ちょうど宴会がお開きになるところだった。
すると 館内からサルが飛び出してきて、お客様をバスに誘導し始めた。
「あ、支配人、お帰りなさい。」
ま、まさか、後藤部長だった。
この人だけはこんなことはしないだろうという筆頭だったのに、、、、。


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