Ver.7 日本の中小部品製造業の状況分析

はじめに

論文のドラフトを一部載せていきます。図や表が英語だったり「〇〇で述べたように」といった表現が唐突に出てきたりしますがドラフトを載せているだけなのでご容赦ください。

PESTEL分析

『2023年版 ものづくり白書』をもとに日本の中小部品製造業を取り巻く外部環境を分析する(Table 1)。特に注目すべきなのはものづくりにおいても、脱炭素とDXに関する国際標準が作られていく動きがあることだ。これらが一度デファクト・スタンダードとなってしまうとその標準に沿っていないだけで国際取引において不利になる。場合によっては取引すらしてもらえない可能性も出てくる。

脱炭素の標準はCO2その他物質の排出量の生産ライフサイクルを通しての記録と公開を義務付けるものとなると予想される。DXの標準については国・産業・企業の間でのデータ連携に関する規約となると思われる。

DXが遅れていることを踏まえると後者の標準化への対応は特に重要といえる。実際に日本の製造業企業が海外企業との取引条件にデジタル化度合いを求められはじめているという(橘、2022)。

もう一点はサプライチェーンの強靭化が求められていることだ。これは各地での紛争やコロナ後の経済停滞による原材料の供給不足が主な原因となる。


Table 1

5 Force分析

日本の中小部品製造業界の状況を分析する(Figure 1)。以下4段階で評価した。
A Advantageous
B Slightly advantageous
C Slightly disadvantageous
D Disadvantageous

日本の中小製造業は規模が小さいながらも技術力を評価されている企業は少なくない。製造業の社員が海外の展示会やカンファレンスに視察に行っても「目新しい技術は特になかった」という感想を抱くことが多い(橘、2022)。したがって海外企業の製品に完全に置き換わるとは考えにくい。ただしSiemens社のように、製造工程を形式知化・パッケージ化してサービスとして提供する事業も出てきており参入障壁は下がっていくと考えられる。

一方で買い手と売り手の交渉力には課題がある。買い手の交渉力が高い理由は、多くの場合中小製造業は大企業に納品していることが多いからだ。突出した強みや複数の納品先を持っていないと弱い立場からの交渉になりやすい。売り手の交渉力が強いのは外部環境の分析でも述べた通り、紛争やコロナの対応によって供給不足や価格の高騰が起こっているためだ。

業界内の競争は穏やかだと言える。なぜなら歴史の古い業界であり、各企業で棲み分けがされているからだ。長期間に渡って取引をする「お得意様」の多い業界だといえる。

Figure 1

SWOT分析

方向性としては強みを活かしながらのデジタル化となる。既存の業務を単純にパッケージソフトに置き換えるだけでは長年培った生産現場の強みが失われてしまう。経験値を活かしながらデジタル化による生産能力の強化や顧客価値の向上を目指していくべきだ。

強みは前述のように高品質の製品を作り出すケイパビリティとそれを支える生産現場の体制だ。

弱みは会社や事業の全体を見渡して標準化・モデル化するのが苦手な点だ。これはLiterature Reviewでも述べた通り(Features of Japanese Manufacturing)、日本は伝統的に形式知よりも暗黙知を重視してきた。現場レベルでの改善が得意な一方でノウハウを言語化・抽象化するのに苦労する。しかしDX、言い換えれば業務変革や組織変革をデジタルの力で実現しようとすれば標準化・モデル化する力が必要になる。

機会としてはDXやAI、データ分析を活かそうという機運が高まっていることだ。旭化成の澤井氏は、デジタル化に関連した企画に4年ほど関わる中でIT施策に関する経営者の理解が年々高まっていると述べている(澤井、橘氏2022年から引用:Kindle版位置番号3045)。企画を通しやすくなった一方で経営者からの質問が本質を突いたものに変わっているという。

脅威としては前述の標準化の流れが挙げられる。日本国内の市場は縮小していくのでいずれは海外との取引を広げていく必要が出てくる。標準に準拠していない場合取引先が減少する可能性がある。もう一点はデジタル技術を活用した新興国の追い上げだ。ベトナム最大の企業グループであるVinの事例がある(Economic Industry Ministry et al., 2023)。自動車製造に関わる基盤技術を有していなかったにも関わらず従来の約半分の期間で実際の自動車生産を始めた。要因の一つにSiemens社によって標準化・デジタル化された大手自動車メーカーの工場ライン・生産技術の導入があるとされる。高品質な製品を求める需要が奪われることはなかったとしても、彼らの台頭により将来の顧客が奪われる可能性がある。

Table 2


Economic Industry Ministry, Health, Labour and Welfare Ministry, and Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (2023), “2023 Edition of Manufacturing White Paper (Promotional Measures for Manufacturing Base Technologies in 2022)”, available at https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/gaiyo.pdf (accessed 11 December 2023)

Tachibana, S. (2022), Beyond Manufacturing: Creating Value Management for Future Industrial Models, Nikkei Business Publications, Inc., Tokyo.


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