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第八章『緊急クエスト発生』

俺は腹の底から湧き上がってきた激情に身を任せて走り去ろうとするクソガキに標準を合わせた。
「このクソガキがあああああああああああああ!!!」

【原子魔導:発動:原黒憤______

「何をしておるんだこの馬鹿たれっ!!」
「いだっ?!」
俺の手から魔法が放たれようとした瞬間、聞き覚えのある声と共に後頭部を強打された。あまりの痛さについ魔法の構築を崩してしまった。しまったとクソガキの逃げた方を見てもやつの姿はなかった。そして、代わりに俺の背後で凄まじい怒りのオーラを放ってくる人物が二名ほど現れた。
「おい、ユーマ?我は王宮を壊して内乱を起こせだなんて言っていないが、これはどういうことか説明してくれるな?」
背後からアルゼノスががしっと俺の肩を掴んでそう言った。横目にアルゼノスを見ると、とてもいい笑顔を浮かべてはいたが、眼が全く笑っていなかった。
「お主、わしの娘に手を上げようとしたこと、あの世で後悔するがいい」
反対側からもヘリオスさんに肩をがしりと掴まれた。こっちは完全に人を殺す顔をしていた。
ああ、こりゃあ終わったな。
とそう思ったとき、再び救世主、いや、女神が現れた。
「お待ちください、お父様!その方がお怒りになってしまっても仕方がないのです。リオがまたイタズラをしていたようで…この責任は姉である私にもあります。その方だけではなく、私にも罰をお与えください!」
この子…真面目で、優しくて、可愛くて、強い上に強い正義感まで持ち合わせているだなんて…!人として完璧すぎる。どっかの魔女さんとは大違いだ。
「し、しかしだなリア。こやつは今、この都市に住む者達にも影響が出かねない魔法を放とうとしていたのじゃ。そんな馬鹿者を放っておくわけには…」
「それならば尚更のことです!此度のことは私がもっとしっかりしていれば…」
「いや、お前は何も…」
ヘリオスさんも娘には弱いか。すごい眉間にシワが寄っている。相当悩んでるみたいだ。このまま押し切ってくれ!
「お父様…どうか、彼は許してあげてください。責任は私が持ちます」
「ぐううう…わ、わかった。今回はお前の顔を立てよう」
「お父様…!ご厚意感謝します」
ヘリオスさんははあと盛大にため息を吐いて肩から手を離して一歩下がった。
「はあ、お前さんがそう言うんだったらそれでいいがね」
アルゼノスもなぜか大人しく引き下がった。アルゼノスは俺のことを引きずってでも処刑場に連れて行くと思っていたのに。それほどまでにこのリアナという女神にあてられたのか。さすが女神リアナ様…!ありがとう!
「次はないからな?」
「すいませんでした」
アルゼノスに限ってそんなことはなかったようだ。

アルゼノス達が帰ったあと、俺とリアナさんは一度落ち着いて話すために部屋に戻った。
「先程は本当にすみませんでした」
そして部屋に戻るや否や、リアナさんが頭を深々と下げて謝ってきた。
「いやいやいや!リアナさんが謝る必要はないよ!俺が勘違いしちゃっただけだし…」
「そういって頂けるとありがたいです」
「あーうん…」
しばし、部屋に沈黙が降りる。元より俺はコミュ力が高くない。というかむしろ低い。この空間は耐えられなくはないけど、なんか気まずい。
「あの…」
「はい。何でしょう?」
「一旦俺がここに来た理由を言ってもいいかな?」
俺は気の利く言葉なんて言えないから本題に入ることにした。
「はい。どうぞ」
「ありがとう。それで俺がここに来た理由なんだけど…」
「龍王議会の開催について、ですか?」
「っ!そ、そうっす。アルゼノスに頼まれたもんで…」
「そんなことだろうと思っていました。リオがああいうイタズラをするときは私が嫌がることをさせようとしてくる人が来るときですからね。まあ、そのイタズラが度を過ぎることがあるのでやめなさいとは言ってるんですけどね」
…これは初手から本題入ってごり押し作戦はまずかったかもしれない。リオナが俺を警戒し始めた。こうなると話し合いってのは面倒くさくなるんだよな…って、前の席に座ってた男共の会話を思い出した。
「ユーマさん、でしたか?」
「は、はい。なんでしょうか…」
不意にリオナさんが俺の名前を呼んだ。なんだか面倒ごとに巻き込まれそうな予感がした。
「少し歩きませんか?」
「え?は、はあ…」
「では、参りましょう」
「……?」
唐突な提案に曖昧な返事を返すと、リオナさんは静かに微笑んで部屋の扉へとスタスタ歩いて行く。俺は頭の中に?マークを大量の浮かび上がらせながらもスタスタと歩いて行ってしまうリオナのあとを追いかけた。

俺とリオナさんは城下町へ来ていた。お姫様って案外普通に外出られるんだなとか思ってたけど、どうやら影の護衛人みたいな人がいた。本人達は隠れてるつもりなんだろうけど、バレバレだった。まあ、それは俺に限った話だけどね。一般の人は全くその気配に気づいていない。
「気づきましたか?」
「え?」
「あれは私を監視・護衛する父上直属の部隊です。ところでユーマさん。幻影魔法は得意ですか?」
「幻影魔法?使えるには使えるけど…まさか、あの人達の眼を欺こうって魂胆じゃ…」
「ふふふ。ユーマさんは頭がいいのですね。その通りです」
OMG。このお姫様、俺になんちゅうことを頼みやがる…!
俺はソフィアの家で暮らしていたときに、あいつに脳みそを弄られたくないがために必死になって相手に幻を見せて自分は姿を消せるという幻影魔法を習得した。だけど…。
「幻影魔法はあんまり効かないんじゃないか?仮に奴らに効いたとしても、今この国には最強の龍種が二人に東の魔女がいるんだ。アルゼノスや君の父君は確実に出てくるだろうね」
「あら、それは困りますね」
「ま、それは普通の幻影魔法を使った場合の話だけどな」
そう。俺は幻影魔法のその先、魔力を用いない手段を手に入れた。結局ソフィアに使うことなくあの生活が終わってしまったが故に宝の持ち腐れになっていたが、ようやく日の目を見るときが来たようだ!
「見とけよ。これが安眠を求めた賢者の力だ」

《神名魔法:発動:夢創神モルフェウス

神の名を冠する魔法が俺たちを付けていた暗部たちを音もなく静かに襲った。しばらく待つと、彼らは的外れな方向を見ながら俺たちが歩いて行く方向とは全く別の方向へと進んでいった。
「今のは…」
「ん?ああ、これ?すごいでしょ?俺が手に入れた、ソフィアから必ず逃げられる戦法だよ。この魔法なら俺の魔力は残らないからソフィアも追ってきようがない」
俺は少し誇らしげに夢創神モルフェウスについて語った。この魔法の効果は、対象に幻覚を見せるという至極単純な物。しかし、その効果は幻影魔法なんぞ非じゃない。幻影魔法は、自分が魔法に掛かっていると自覚してまえば簡単に解けてしまうというものだが、夢創神モルフェウスはそんなもんじゃビクともしない。まあ、その他にも色々と効果があるから喋りたいところだけど…さっきからリアナさんが何かを考え込むように顎に手を当てて黙り込んでしまった。
「あのーリアナ__」
その時、凄まじい悪寒が俺の背中を駆け抜けた。底の知れない泥沼のような巨大で飲み込まれてしまいそうな重圧。
「リアお姉ちゃん?」
「っ!!」
不意に背後から女の子の声が聞こえた。汗が噴き出て心臓の鼓動が早くなる。なぜかはわからない。
俺は声のした方を振り返った。
そこには少し幼いながらも、将来美人になるであろう整った目鼻立ちに肩の辺りで切りそろえた黒髪の女の子が立っていた。見た目はごく普通の女の子だ。でも、なんだろう、この感覚。言ってみれば、死が女の子の形になって目の前に立っているかのような…。
「お気づきになりました?そうです。この子は見た目通りの普通の子じゃありません」
そう言ってリアナさんは少女に近づいていき、その頭を優しく撫でる。
そして、衝撃の事実を言い放った。
「この子の名前はサリナ。千年前、この星の半分を死の世界へと作り替えた魔神、"殺戮ノ魔人グリムリーパー"です。」










































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