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第七章『ミッション:龍王のお姫様を手懐けろ(1)』

俺は今アーメント龍王国というアルゼノスの同期みたいな人が国王やってる国にお邪魔している。龍王が王様とかどんだけやばい国なんだろうなって最初は思ってたけど、俺のいた世界みたく人種差別とかも特になく平和で賑やかな国だった。
俺はその国であるミッションを課せられていた。それは…。
「おい豚。私の話、ちゃんと聞いていたのかしら?」
「ぐえっ」
「ほら、答えてみなさいよ。魔王とか言うくだらない称号を持っておごり高ぶった惨めな豚さん?」
そう言いながら四つん這いにさせられた俺の背中をぐりぐりと踏みつけてくるこの小娘を手なづける事だった…。
__どうしてこうなったのかというと、それは数時間前に遡る。
「これはどういうことか説明してくれるかのう、ソフィア嬢?」
あごひげをサンタさんみたいに伸ばしたおっさんが煌びやかな椅子に座ってソフィアに言った。
「転移先の座標を見誤った」
「貴方に限ってそんなこと…」
「おや。神名魔法を持っていない貴様が言えるのかね?」
おっさんが何か言おうとするのを隣から紅茶をすすっていたアルゼノスが横槍を入れた。おっさんは露骨に嫌そうな顔をしてアルゼノスを見た。
「わしはお前さんのそういうところが嫌いじゃよ、アルゼノス」
「ふん。我もだよ、ヘリオス」
おっさん_ヘリオスとアルゼノスが火花を散らして睨み合い始めた。
いや、そんなことよりも。
「なんで俺だけ縛られてるの?」
「それはソフィア嬢に言ってくれ。なんでもお主はすぐに逃げようとする故拘束しておいた方が都合がいいらしいからのう」
「おい、ソフィア?お前俺のことなんだと思ってんだ?」
「すぐに逃げる躾のなっていない猿」
「俺逃げたことあったっけ…?」
「私が魔導書を取り出すと逃げる。あなたが風邪を引いたときに風邪薬を持ってきたのに逃げる。私が…」
「わかった!わかったからそれ以上言わないで!」
「ふん」
どうやら俺の記憶にないだけで何十回とそんなことがあったようだ。逆に何十回もあったのに覚えてないとかすごいな俺。もう年か?
「それが面白かったから記憶を消してた」
「何してくれてんだよ?!人のことなんだと思ってんだ!あだっ?!」
俺がソフィアに掴みかかるために鎖を壊そうとした瞬間、頭を思いっきり殴られた。
「そこまでにしておけ。見苦しい」
「そうじゃぞ。それにここはわしの部屋じゃ。暴れてもらっては困る」
「うっ、すんません…」
なんで俺が悪いみたいになってるんだ?あれ?おかしいな?
「もういいわい。その者の拘束を解いてやれ」
「畏まりました」
おっさんが指示を出すと後ろに控えていた執事が俺の拘束を解いた。
お、おおっ!!このおっさん、俺を気遣って拘束を解いてくれたぞ?!ソフィアとかだったら絶対に拘束したまま放っておかれたであろう状況を救い出してくれた…このおっさん、もしかしなくてもいい人だぞ?
「ヘリオスは甘いな。こやつを自由の身にするとは」
「暴れられては面倒じゃからのう。それに今は悠長にこんなことしとる場合じゃないしのう。それはお主が一番わかっておるのではないかね?アルゼノス?」
「それもそうだな。おい、ユーマ。いつまでそうしているつもりだ。とっとと席に着け」
「え?あ、お、おう」
俺に声かけるときだけ急に冷たくなるのなんでなん…?
そう思いながらも殴られそうだったので大人しく席に着いた。
俺が席に着くと、ヘリオスさんがごほんと咳払いをした事によって場の空気がガラリと変わり、一気に重々しい雰囲気になっておふざけもできなくなった。これが国王としての覇気ってやつなのか?一応魔王である俺とは大違いのカリスマ素質だな。
「それでは、本題に入るとしようかのう。わしの予測では、お主らはヘルへイムでの騒動が理由でわしのところへ来たのじゃろう?概ね"龍王議会"の開催のためかのう?」
ヘリオスさんはまるで探偵のように俺たちの目的を言い当てた。そういえば俺なんで連行されてきたんだっけと思ってここに来る前に頭に無理矢理ねじ込まれた魔導書の内容と全く一緒だった。ヘリオスさんももしかして魔導書を頭にねじ込まれたんじゃ…?
「相変わらず理解の早い男だな。そこまでわかっているのであれば話は早い」
アルゼノスが当たり前のようにヘリオスさんの頭の早さをスルーして会話を続ける。
どうやらヘリオスさんの頭の早さはこれが普通らしい。俺は知らないことだらけだから、とりあえず頭にぶち込まれた魔導書の内容を整理するためにもここは黙って話を聞くとしよう。
「今回のヘルへイムでの騒動は、世界の均衡を揺るがすものだ。ここは世界が一つになり、今回の騒動の犯人を見つけ出して事態を収束させるのが最善だ」
ふむふむ。アルゼノスがさっきから言っているヘルへイムの騒動ってやつは、どうやら俺とニーナとムーナが森で襲われた件と関わりがあるようだ。でも、その詳細が如何せん小難しい言葉で書いてあるから全く理解できない。俺の脳みそは容量だけ増やされて、その中身は変わらずバカのようだ。
まったく、ソフィアもケチだよな。人の脳みそ弄るならそれ相応のものをよこせや。俺の頭の機能ちょっとよくしてくれても良かったに…。って今はそんなこと考えてる場合じゃないな。この人たちの話をちゃんと聞かないと…。
「と言うわけで、ユーマにはこれからヘリオスの娘であるリアナ王女を手懐けてもらう。あとは頑張るがいいさ」
ん?あれ?話飛びすぎじゃね?どこからどう枝分かれさせたらそうなるのか教えて欲しいのだが?
「そ、そんなこと急に言われても…」
「なんじゃ?わしの娘が嫌だというのか?」
「喜んで受けさせて頂きたく存じます!!」
「うむ。よろしい。では、リアナを頼んだぞ」
「はい!」
_____というわけ。
いやーマジでこんだけ長々と振り返ったのに訳がわからんってもうどうしろってんだよ…。
あのあと、速攻で俺は騎士達に連行され、今回のターゲットであるリアナ王女の部屋へと放り込まれた。
そして、待っていたのがドS心丸出しのクソガキだった。
正直、これに喜びを感じられるやつにとっては最高の時間であろうが、生憎と俺にはそんな趣味はないし、扉を作って開く気もない。とにかく、痛くて辛い屈辱的な時間だった。
早くこの時間が終わったくれ__その想いが天に届いたのか、ガチャリと部屋の扉が開かれ、救世主が現れた。
「リオ!いい加減にしなさい!あなたは王女としての自覚はないの!?」
そう怒鳴りながら、その女神は俺の背中を踏みつけていたクソガキを、まるで猫でもつまみ上げるようにひょいっと持ち上げて睨みつけた。
一方のクソガキは、めんどくさい奴が来たみたいな顔をしているだけで反省の色は見えない。こんなのが国の第一王女?この国も終わりだな。
「妹のリオナが失礼しました。このお詫びは後日正式に…」
「いやいやいや!そこまでしてもらわくて結構ですよ!…色々と手続きがめんどくさいそうなので…」
「め、めんどくさい…そ、それでは一体どうしたら?」
「じ、冗談ですよ!はははっ…」
この子が時期女王でいいのでは?可愛いし、優しいし、真面目だし、力も強そうだし。これほど完璧な子なんてそうそういないでしょ。全く、あのリオナとかいうクソガキには見習って欲しいもんだよ。
………ん???
あれ?俺が手懐けろとかよく分からんこと言われた子の名前って確か…。
「あ、すみません。申し遅れました。私、アーメント龍王国第一王女、リアナ・シル・アーメントです。どうぞお見知り置きを」
え?おいおいおいおい。まてまてまてまて。聞いてた話と違うぞ?あれがリアナじゃないの?え?俺の苦痛の数時間はなんのためにあったんだ?
俺の頭をはてなマークが埋めつくそうとしていた時、リオナと目が合った。
「お兄さん、ドンマイ♡」
それを聞いた瞬間、俺の中の何かが切れた。
それを察知したのか「ヤバっ笑」と言いながら姉の手から逃れ、駆け出していくその小さな背に標準を合わせる。
深く吸ってー吐いてー。
ふう。よし。
「くたばれクソガキがあああああああああ!!!!!!」
次の瞬間、俺の獄炎魔法が炸裂した。


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