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カルチャーつまみ食い

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本、映画、ドラマ、漫画、音楽など、つまみ食いしたカルチャーの記録です。
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記事一覧

本を読む人と読まない人

「私はビジネス書がうまく読めない。小説とかエッセイなら読めるのに」 そう同僚に話したら、だんだんと「なぜ小説やエッセイを読むのか?」という話になった。 ローストビーフをつつきながら、同僚は 「私は最近、昔読んだ江國香織の小説の答え合わせをしているようだ」と言った。 なるほど。いつか辿るストーリーを取り入れたり、これからやってくる人生の可能性を知るためにというのはあるかもしれない。 残念ながら私はすべてがとろけるような恋愛に身を捧げることも、しゃべるカカシや掏摸や誘拐を

大切なものだけ大切にする

ドラマ「うちの夫は仕事ができない」のラストよかったな。 仕事ができるってなんだろう。 つかぽんは大切なものをちゃんと大切にできる人で、かっこいい。 大切なものは少ない方がいいです。 ちゃんと大切にできるから。 こんなこと言ってアレだけど、仕事は好きです。 好きと大切は、近いようでちょっと違う気がします。

ランチを分け合うということ

私は基本的に欲張りなので、ランチをシェアをするのが嫌だ。 居酒屋メニューはまたちょっとニュアンス違うけど、ランチでは1人1皿1番食べたいものを吟味して頼むものだと思っている。 だから、「これあげる」もいらない。 私は焼き魚が食べたい気分だったのに、突然唐揚げを1つ乗せられても正直困る。 ごはんと汁物と焼き魚と小鉢のバランスを計算していたのに崩れてしまうじゃないか。 配膳されたとき私は心の中で、(やっぱ焼き魚定食正解だったな)って思っちゃってたのに。 しかも、もらってし

『きみの鳥は歌える』と次の季節

「僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした。9月になっても10月になっても、次の季節はやって来ないように思える」(『きみの鳥はうたえる』より) あの夏がどうやって終わったのかを思い出せないでいる。 汗と酒とタバコと夜のにおいが染み付いた、あの頃よく着ていたあのTシャツがどこにあるのかも。 はじまりは肘に触れるくらいささやかなものだったかもしれない。 ひとりふたり増えていき、いくつかの夜が過ぎ、ひとりふたり去っていった。 汗まみれで缶ビール片手に夜の道を歌いなが

映画ってよくないですか?

もし、学校が辛い方とか、もう、新しい生活どうしようって思っている方がいたら、ぜひ映画界に来ていただきたいなと思います。 その日はたまたま早く帰れて、9時すぎにテレビをつけたら日本アカデミー賞受賞式がやっていた。 金曜だったし、ビールをあけて眺めていたら、最優秀主演女優賞を獲った蒼井優ちゃんが冒頭の言葉を話していた。 冷奴にかけすぎた醤油のせいなのか、ツーっと流れてきた涙のせいなのか、ビールがしょっぱく感じた。 映画っていいですよね。 私も映画が好きです。 それぞれ

永久と希望の歌

中学1年生のとき、まっちゃんというかわいいけどちょっと変な女の子とよく遊んでいた。 まっちゃんがあるとき「嵐のCD買いに行こう」と言ったのを覚えている。デビューシングルは8cm CDで500円でポスター付きだった。 今から20年前のことである 気の利いた#嵐の思い出 を書きたいけど、どうにもこうにも出てこないので、嵐の好きな曲を。 悲しみたとえどんな終わりを描いても心は謎めいてそれはまるで闇のように 迫る真実「truth」 (2018年1月27日17時09分に第

「サヨナラホームラン」を聴いていた

「やっと見つけたんですね」。 数年ぶりに会った後輩に突如言われて、一瞬なんのことだかわからなかった。 「いい感じじゃないですか。最近。楽しそう」。 という続く言葉を聞いてなんのことかわかったと同時に、研究室の同窓会の帰り道、駆け寄って来て「もう1軒行きましょう」と呼び止めた理由も理解できた。 彼は、今から約10年前、社会人1年目の私をよく知っている。 *** 彼を筆頭とする優秀な後輩たちのサポートにより、無事修士設計を提出して、人より長い学生生活を終えたのが2

はじめて住んだ家とねじまき鳥クロニクル

大学院を卒業した年の秋、はじめて一人暮らしをした。 当時の私は出版社でアルバイトをしながら、先の見えない未来をきちんと見つめなくてはともがいたり、見ないフリしながら暮らしていた。 実家が東京だったため、一人暮らしをする特別な理由があったわけではなく、母の「お母さんの仕事部屋が欲しいから、(私か弟と)どっちが部屋を借りない?今なら初期費用出してあげる」という提案にのっただけだ。 フリーターで払えるギリギリの家賃で見つけた家は、浜田山の1K。高級マンションに埋もれるようにたた

読書の記録

今年は本をたくさん読んだ。 コロナ禍と妊娠が重なり、家で過ごす毎日に本はいろんなところに連れて行ってくれて、いろんな出会いをくれた。 なんとなく並べてみると、なんだかけっこう“気分”が顕れていておもしろかったのでまとめてみた。 本の紹介でも感想でもなく、そのときの気分です。 📍「ホリーガーデン」(江國香織) 📍「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」(村上春樹) 📍「羊をめぐる冒険」(村上春樹) 時間があったし、かといってなかなか本屋にも行けない時期に本棚から、いつ

「花束みたいな恋をした」について語らないという語り

Twitterを開いても、clubhouseを開いても、インスタを開いても、目に止まる『花束みたいな恋をした』の文字。 見たよ。そりゃぁ。 『カルテット』も『最高の離婚』も『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』も、『東京ラブストーリー』も3回は繰り返して見たし、舞台『またここか。』で坂元さんにサインをもらうとき震えてお金落としたくらいは坂元裕二が好きだから、見るよ。 まだ1人で座ってもいられない5ヶ月の娘の夫に押しつけて、朝8時の回に駆け込むくらい見たかったよ。

『泣いてちゃごはんに遅れるよ』 を読んで通電した

ままならない毎日ばかり。丁寧なんてほど遠い暮らし。 暮らしというか、生活。まさに生きる活動。 だけど、ごきげんに生きて活動できるようなやりくりはそこそこ得ている。 やりくりといっても食材を腐らせない方法とか効率の良い手順とか、円滑な人付き合いのコツとか要領よく生きる処世術とかはさっぱり。 人に伝授できるようなやりくりはほとんどない。 知っているのは私がごきげんになるためのやりくり。 おいしい味噌で作る味噌汁の充実感、テレワーク飯で探究する焼きそばの可能性、子どもが帰っ

映画『最初の晩餐』見て考えたおはぎとカメラの秘密。

時おり、「これは私の物語だ」と思う物語に出会う。 先日観た映画がまさにそれだった。 *** 私は2018年夏に結婚をした。 その約3ヶ月後、おじいちゃんが死んだ。 母が「おばあちゃんの誕生日をおじいちゃんの病院でお祝いしたよ」と連絡をくれた3日後のことだった。 結婚式どころか、両親の顔合わせもしないまま、ぬるっと“結婚”した私たちは、周囲の人々のお祝いの気持ちにうつつを抜かしながら、ままごとのような結婚生活を送っていた。 母から「もう危ないかもしれない」と連絡をもら

life is in my bookshelf.

うちの本棚には『ノルウェイの森』が4冊ある。 文庫では上下巻なので、2冊ある人は多いと思うが、4冊はなかなかいないだろう。 どういうことかというと、上下巻それぞれ2冊ずつあるというだけで、要するに別々の場所に住んでいた2人が一緒に暮らすようになったとき、それぞれが上下巻持ってきたということ。 *** 蔵書とこれから増えるだろう本を見込んで作ってもらった新しい本棚は、全部の本を並べてもまだ余裕がある。 今までのように2段に並べ、隙間に敷き詰める必要もないから、蔵書がずら

でくの坊だから見えるもの『イーハトーボの劇列車』

 わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃ももいろのうつくしい朝の日光をのむことができます。(『注文の多い料理店』序文より) 劇団こまつ座の『イーハトーボの劇列車』を観ました。 宮沢賢治。彼が夢見た世界の一部を垣間見ることで、気づいたいくつかのこと。 *** 今、私の気持ちは研ぎ澄まされたものに向かっているようです。 ピュアで、まっすぐで、切実で。 足元にあり、自分の周りにまとわりつき、そして、骨肉になっているものに気持ちが