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「ゲームのためのタイポグラフィ」レポート

2020/09/16に開催された『「ゲームのためのタイポグラフィ」バンダイナムコスタジオ リードUIアーティスト三品幸彦 × 欧文書体デザイナー大曲都市【オンライン無料開催】』のレポートです。

内容は、前半は人気ACE COMBATシリーズが、どのようにフォントで世界観を表しているか。後半は英語以外の海外フォントの良し悪しを、どのように見分けるか?でした。どちらもかなりマニアックな技術的な話が多く、今後ゲームのUIをもっとじっくり観察してみようかなと思いました。


概要

フラグシップフォントである「筑紫書体」とゲームやアニメ、テレビ番組で圧倒的なシェアを誇るFontworksと130年に及ぶ歴史の中で20,000を超える欧文書体を製作してきたMonotypeとが共同でオンラインセミナーを開催。第二回は、バンダイナムコスタジオからリードUIアーティストである三品幸彦氏とMonotypeからは大曲都市氏をお迎えし、ビデオゲームのためのタイポグラフィとはなにか、多言語対応のための困難や課題についてそれぞれの視点から探ります。

公式サイト:https://fontworks-monotype-0916.peatix.com/


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三品幸彦さん「ビデオゲーム文字論考 vol.1 -ACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN-」

ビデオゲームにおけるタイポグラフィは「情報を伝える」と同時に「作品世界に誘う」という大事な役割を担っています。文字を介してどのようにプレイヤーをゲームの世界に引き込み、醒めない工夫を行っているかをUIUXアーティストの視点から解説します。また近年増えつづける多言語対応について全12言語対応の「ACE COMBAT™ 7 SKIES UNKNOWN」の制作事例を中心にご紹介します。

三品さんは「ACE COMBAT™ 7 SKIES UNKNOWN」のリードGUIアーティストを担当。ゲームにまつわる話が多いので、シリーズを実際にプレイした方には思い出深い内容。ゲームをプレイしたことがない場合でも、実際にどのように没入感を作り上げているか参考になると思いました。


●ACE COMBATとは何か?
ジャンル:フライトシューティング
「ACE COMBAT™ 7 SKIES UNKNOWN」は12年ぶりの正式ナンバリングタイトル。これまでの「ACE COMBAT」を意識しながら作成されたそうです。


●ビデオゲームの文字
コンセプト:エースパイロット体験ができる究極のごっこ遊び
※ごっこ遊びという点が重要

どの画面にも文字情報は必要で主に下記の2点を意識。

1)プレイヤーへ正確に情報を伝える
2)プレイヤーをゲーム世界に誘う

特に2のプレイヤーをゲーム世界に誘う点では、旅行先で感じる体験同様に、読めない文字=異国の文字=旅行に来た!というワクワクする感覚を意識。


●ACE COMBATの文字
先ほど書いた通り、コンセプトは「エースパイロット体験ができる究極のごっこ遊び」。このごっこ遊びとはなにか?戦闘機パイロット気分を感じるシチュエーションを軸に考えてみると、主に3つに分られる。

戦闘機パイロット気分を感じるシチュエーション
1)コックピット
2)作戦司令室
3)格納庫

重要なシーンを洗い出した後は、それぞれをどのように作り上げていくか、参考資料をもとにして「らしさ」をつくっていく。

1)コックピット
- 色は緑で解像度が高くない
- 文字が大きめで短い略称

2)作戦司令室
- 映画でよくみかけるCIC
- 舞台の規模や舞台レベルにより変わるが
- ごっこ遊びとして雰囲気を伝える
- 色は単色、無駄な装飾がない、発光している
- 敵との戦闘中と戦闘していないときでも判別ができる

3)格納庫
- 怪しい巨大なものを感じる
- 文字要素は少ないため文字がない画面
- 戦闘機が見えることが重要
- コックピットからは戦闘機が見えないため、戦闘機がよく見える

戦闘機パイロット気分を感じる文字
- コンピュータが表示する文字
- 文字というよりも記号に近い見た目
- 極限まで絞り込まれた要素
- 単色で発光


そうして決まったのが「UIコンセプト:ACE OS」。

UIコンセプト:ACE OS
- 近未来の軍事用コンピュータのオペレーションシステム
- 文字、線、アイコンなどのシンプルなオブジェクトで構成
- オブジェクト、画面全体の質感にこだわり高級感を演出
- オブジェクト、画面全体のアニメーションにより飽きさせない演出

○ UIコンセプト:ACE OS
- 近未来の軍事用コンピュータのオペレーションシステム
- 文字、線、アイコンなどのシンプルなオブジェクトで構成

シリーズでは年代を設定し歴史を作成し、未来になるほど科学技術が発展しUIが変わる。また、世界地図の中で、それぞれの国の世界観・国旗を作成。

今回の12年ぶりのナンバリングタイトルにおいては、あえて過去作からビジュアルコンセプトを作成。未来感を演出するためにツリー構造と奥行きを用いた。

○ UIコンセプト:ACE OS
-
オブジェクト、画面全体の質感にこだわり高級感を演出
- オブジェクト、画面全体のアニメーションにより飽きさせない演出

最初はモックアップムービーをもとに、他のUIにも反映させていく。

文字の演出
- 文字は発光
- 発光の強さと広さは字形の表面積によって変化
- 発行量に応じて文字の背景にドットを表示
- ドットにより文字表示のシステムをそれらしく演出
- 同時に複数の色を表示
- 違う色が重なった場合、キレイに干渉する
- 気づかない程度の揺らぎで明滅

今回のシリーズの文字は、有馬トモユキさんが作成されたそうです。


●多言語開発で便利な3選

最初に今回「ACE COMBAT」で使われた開発環境やフォントについて。

開発環境:UE4.18+UMG

対応言語数
:12
日本語・英語・フランス語・イタリア語・ドイツ語・スペイン語・ロシア語・ポーランド語・ブラジルポルトガル語・ニュートラルスペイン語・韓国語・中国語繁体字

使用フォント
欧文・数字
:ACES Regular
和文・韓文・中文: UCゴシック(Fontworks)

文字を比較する際には一番文字数の多い画面で、すべての言語の文字だけを変えた状態で見ていく。そうすると変化がわかりやすい。

多言語開発で便利な3選
○ 便利1:その場で言語切り替え機能

○ 便利2:横幅自動圧縮
対応言語数が増えると、一定数を超えた場合に圧縮する

○ 便利3:文字幅取得機能
項目の表示を時間を変えて表示する



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大曲都市さん「欧文書体に込められた多言語対応」

ゲームは発売時点で多言語対応を求められるメディアであり、その言語の多くは欧文書体が担います。英語以外の欧州言語には基本26文字以外の部分の知識と選択眼が求められますが、ここでは書体デザイナーの発音記号デザインのアプローチを通して、新しい欧文書体の評価の仕方をご紹介できればと思います。またMonotype書体のゲーム採用事例も合わせて紹介していきます。

ゲームの多言語対応が増えたことにより、欧文以外の言語への考慮がされず失敗が起きている。特に特徴的なポーランド語を軸にどのように見分けているかを解説。


冒頭
近年のゲームでは対応言語が増えており、PS4はとくにボリュームが増えている。そうしたときに欧文フォントだけでは足りない文字があるため、言語によっては別のフォントが必要になる。

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和文書体の従属欧文は、欧文専用としては不向き。

和文専門の人が文字を作られているため、欧文専門の人から見ると足りないところがある。また等幅に使ってしまう場合もある。

●発音記号のデザイン
ポーランド語は多種多様な発音記号が多いため、見分けやすく欧文書体の評価がしやすい。

○ポーランド語を使った欧文書体の評価方法
(英語以外の多言語に対応しているか?の基準)

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1)ドットアクセントの調整
- 上についている「・」の形、大きさ、位置を「i」に揃える


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2)オゴネクの調整
- オゴネクのつりばりが半月形、弓形ではなく釣り針形
- 右に揃える、元の字からはみでない
- ディセンダーまで伸ばす
- 太くする、アクセントではなく文字の一部


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3)スラッシュの調整
- Iの高さの中央かxハイトのどちらか低い方
- 角度は十分つける
- 交差斜線の錯覚を補正する
- 細すぎ、短すぎに注意
- 大文字では内側を長く
- 手書きでは上付きもあり


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4)アキュートの調整
- アキュートはポーランド好みの形がある
- 現地では書き直されていることが多い
- 寝てないと困る言語はないので、立てておくと良い
- ポーランド語専用の文字に変更していることもある


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三品幸彦と大曲都市によるトークセッション

タイプデザイナーでありながら、ゲーム愛好家でもある大曲とゲーム開発者でありながら、気がつくとフォント書籍を買っている三品の目線から見たタイポグラフィの可能性について探ります。

最後は対談と参加者からのQ&Aでした。

●心に残ったメモ
- 古い書体よりも新しい書体の方が多言語対応ができている
- 見た目で選んでしまいがちだが、国の文化を知ると良い書体が選べる
- 見出し用であれば釣り針にしなくても良いと思う
- 良い悪いを理解して使う・作っているのであれば良い


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ゲームの世界観づくりにおける「フォント」でしたが、世界観づくりで考えると一部。ゲームのデザインも奥深い。
後半はポルトガル語の勉強にもなりました。普段は日本で目につきやすい「和文と欧文」を中心としていますが、実際には多言語が増えるごとにフォントも増えると改めて気付かされました。フォント理解と国の文化の理解は同じなのかもしれない。

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