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「菊地敦己 2020」鼎談のレポート

2020年8月28日(金)オンラインで開催された「菊地敦己 2020」鼎談のレポートです。

イベントの概要

クリエイションギャラリーG8では、企画展ごとにトークショーを開催しています。第22回亀倉雄策賞受賞記念展「菊地敦己 2020」では、ゲストに服部一成さん、室賀清徳さんをお迎えし、オンライントークイベント(ライブ配信)を開催します。どのようなお話がうかがえるのか、どうぞお楽しみに!
出演:服部一成さん 室賀清徳さん 菊地敦己さん
公式の告知ページはこちら

登壇者

服部一成さん
1964年東京生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。ライトパブリシティを経てフリーランス。おもな仕事に、雑誌『流行通信』『here and there』『真夜中』、エルメス「夢のかたち」「petit hのオブジェたち」のアートディレクション、「三菱一号館美術館」「新潟市美術館」「弘前れんが倉庫美術館」のVI計画など。作品集『服部一成グラフィックス』。

室賀清徳
さん
1975年新潟県長岡市生まれ。1999年より誠文堂新光社にて雑誌「アイデア」をはじめ、デザイン、タイポグラフィ関連書を中心に編集。国内外のデザインメディアへの寄稿やイベントでの講演を行うほか、教育活動もかかわる。

菊地敦己
さん
1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。主な仕事に、青森県立美術館(2006)のVI・サイン計画、ミナ ペルホネン(1995-2004)、サリー・スコット(2002-20)のアートディレクション、『旬がまるごと』(2007-12)や『装苑』(2013)、『日経回廊』(2015-16)などのエディトリアルデザイン、亀の子スポンジ(2015)のパッケージデザインほか。作品集に『PLAY』(誠文堂新光社)がある。主な受賞に講談社出版文化賞、日本パッケージデザイン大賞、原弘賞、ADC賞、JAGDA賞など。


内容

オンライントークイベントの流れですが、前半は『菊地さんの企画展』・後半は『2000年以降のグラフィックデザイン』。今回のレポートでは、前半の『菊地さんの企画展を語る』をメインとし、下記をまとめています。

1:企画展の目的と感想
2:デザインへの意識
3:タイポグラフィ
4:デザイン業界


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1:企画展の目的と感想

展示が決まった流れと登壇者の所感について。

菊地さん:亀倉雄策賞の受賞者を前提としているため、受賞後の去年4月に個展が決まった。仕事の展示は初めて。進めていく中で「展示を目的にしていない期限切れのチラシたちを、ありがたく見る展示」に違和感を感じていた。

今回の目的
どんな仕事をしているのか見せられるような展示とし、WEBなどを省いた。
1:展示用の作品とは違う、生業として職能的な仕事のものを展示する。
2:サイズを小さいものばかりにして日常的な仕事をたくさん見せた。基本はB2以下のみ。

室賀さん:(展示に対し)1920〜1930年の平面造形、組み合わせの可能性を感じる。

服部さん:素晴らしい。菊地くんの展示が上手い。仕事なんだけど一つづつがちゃんと関わって作ったことが伝わる。

菊地さん:(昨今は)ストレートにグラフィックデザインを展示しづらい状況。展示で美術作品展示も違うため、デザイン要素を分解して解説することが多い。だから、あえていわゆるグラフィックデザインを見せてみたいと思った。


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2:デザインへの意識

菊地さんがデザインで意識する点が垣間見える。仕事のルールだけではなくデザインにもルールをあえて設けることで、常に新しいプロジェクトを世の中に生み出している。

服部さん:菊地くんのデザインは仕事ごとに、造形上のフレームや決まりを考えている印象。同業だから感じる。今回も上の丸と下の丸の関係。文字の扱いや図形のルールに、展示の空間の使い方に企みがある。デザイナーはみんな「方針を無意識的・意識的」に考えているが、菊地くんの場合は意識的に方法論を持っているのが面白いと思った。フレームは機能とは関係がなく、フレーム作りが楽しかったりする。今回の新たな発見がフレームになり、それが作品になる。

菊地さん:フレームはいろいろある。紙のサイズ自体がフレームにもなるし、レイアウトの方法では目に見えない配置の部分。内部的なフレームと外部的なフレームがある。細かくなると文字の造形・空間・透過するか・二次元のルールを考える。これはアイデアが出せそうな仕事があるときに試している。

服部さん:あえて境界線をつくり、この中で今回はつくる。その決めたフレームでパターンをたくさん作る。仕事ごとに変えていることが、見ている側にとって気持ち良さを感じる。これは理論的とは違う。

菊地さん:フレームを基準にしていくと、美意識的には破綻する。あえてルールを崩さずに破綻したままにしていく。すると、大元のルールが明示化される。要素を減らしたり自分でコントロールをすると、自分の美意識に改修されてしまう。合っているけれどこれでいいのか、魅力があるかないかわからない、それがいい。自分が美しいと思っていないフレームでできたときに、できた、と感じる。

仕事で目指していることは、携わる仕事の個性を立ち上げること。自分の表現の個性ではなく、展覧会のビジュアルの個性、など。仕事の個性を立ち上げることが仕事だと思っている。もし自分の美意識で作ってしまうと、プロジェクトの個性が埋もれてしまう。

自分には特殊な美意識はなく、自分以外のものをつくっていかないと新鮮味がない。だから暴力的なルールにして、違和感を出している。その違和感がプロジェクトの個性になる。違和感が出ないと、プロジェクトがうまくいかないのではないか、と思う。


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3:タイポグラフィ

菊地さんの思う文字を組むことへの考え方。デザイナーをはじめた頃は絵的に見せるグラフィックデザインを作っていたが、ある時から絵と情報の二つで伝えるグラフィックデザインをつくるようになった。

菊地さん:意味や内容を伝えるために、文字の扱いは気をつけている。情報が取れるかどうか、かなり意識的に行なっている。だから、クライアントから文字を大きくしてなどの意見が出ない。文字はわりとわかりやすくしている。あまり文字でヘンテコなことはしない。

2000年の初めは文字がよくわからなくて、自分で作っていた。自分がデザイナーをはじめた頃、文字を綺麗に組めることがデザイナーの前提条件。形式的な綺麗さはわかるが、それをやることは何?という反発心があった。魅力を持った文字を作ればいいじゃん、と思っていた。

あるとき、絵を作っているだけだと気づいた。文字と絵がどうやってあいまっていくかが、グラフィックデザインの面白みだと思った。昔は絵だけにしたりしていたことも多かったが、それは三流だと思った。オーソドックスな書体と絵の組み合わせで何ができるかに興味が出た。ここ10年はとくにそこを注力した。

服部さん:昔はテーマに合った書体を選ぶ、きちんと組ができる、それでよかった。テーマがパリなら、パリらしい書体を選んで組めば「パリっぽいね」で通じた。

今は悲しい場面に悲しい曲をつけるような、書体の使い方が難しくなったと感じる。もちろんストレートにテーマに合った書体を選ぶ世界もある。だけど、あえてこんな書体を使ってみた、というが今の時代。悪い書体をどう使うかを行う。逆に書体にこだわりを見せず、「情報を過剰に演出せずに素のまま伝える」時代が来ている。

菊地くんは、その時代に対してどうかというと、意外なほど普通。読みやすく理解しやすくて、過剰でもなく、わかる書体。菊地くんは仕事の原理主義者だけれど、テキストに対しては誠実。だから「野蛮と洗練」のような仕事にも対応ができる。文字ではなく、他のところでデザインとしての成立ポイントをつくれる。タイポグラフィで暴れて見せるわけではない。

菊地さん:いまは過剰な長体や過剰な平体、枠線ギチギチに組んだり。反抗的な態度が象徴的になっている。服部さんは暴れて雑に使って見えるデザインをしても、情報の構成がきちんとしているから読みやすい。その雰囲気だけが流布してしまい、わからないものが出てきている。


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4:デザイン業界

菊地さんがデザインをはじめた頃といまの変化。菊地さんがはじめた頃は、一般的なグラフィックデザインの道ではなかったものの、今では王道なグラフィックデザインになっていた。

菊地さん:95年にデザインの仕事をしながらアパート借り、事務所をつくってはじめた。アトリエ系の個人事務所に就職してから、その個人事務所のツテを借りつつ、個人事務所を設立することが多かったが、それには興味がなかった。反発心からデザインできるんじゃないかと思っていた。90年代のDTPには雰囲気があり、その延長にあった。

室賀さん:これまでと違う人が、亀倉雄策賞を受賞すること自体が新しい。

菊地さん:出始めはそうした流れだったものの、今は一般的な認知としては疑われなくなった。ひとつのオーソドックスなグラフィックになったことが辛く感じるときもある。

はじめの頃は「グラフィックデザイン」の外側でやってきた。あるとき、グラフィックデザイン自体が一つのテーマになり得ると気づき、「グラフィックデザインをやろう」と思った。グラフィックの言語を考えるようになったときに、おもしろくなった。

紙とWEBを両方はじめたときは新規性があった。最近はグラフィックから離れている人が多い。揺り戻しもあるけれど、昔に比べると本気でやろうとしている人が少なくなってきた。それにより新しい広場ができてきたことが自分にとっては魅力的。

服部さん:菊地くんはグラフィック向いていたよね。色が上手いし、おしゃべりだから共同作業の中で、主導権を持ちプロジェクトをいい方向に進めるパワーもある。菊地くんが向いているやり方でグラフィックデザインをやっている。企画のはじまりが菊地くんではなくても、デザインによって推し進められたプロジェクトに感じられる。それが仕事としての魅力。


感想

トークショーはアイデア編集長の室賀さんといった、普段は裏舞台を支えている方がいたり、キューピーマヨネーズのデザインでお馴染みの服部さんもいて豪華ゲストでした。28日よりの前に開催したトークショーの方も参加したかったです。
特に2の「デザインへの意識」で記載した、デザインのひきだしの持ち方が斬新でした。アイデアやフレームを用いることで、常に新鮮なデザインをつくっていることが面白い。自分で意図的につくる、ストイックな考え方だなと思いました。

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