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【小説】sweet breakfast

カチャと食器が触れる音が聞こえ、カーテンから漏れる陽射しがまぶしい。重いカラダをひきずり薄目をあけて、盛大な寝ぐせに触れながらガチャリとリビングのドアを開けると、メイクをした彼女が甲高い声で笑顔を向ける、手には焼けたばかりのパンが2枚、あぁこの甘い香り、シュガートーストだ。

「おはよう!よく眠ってたから起こさなかった。」

赤い花柄のエプロンは先月プレゼントしたばかりで、忘れず使ってくれていることだけで、なんだか愛おしくて思わず頬がゆるむ。時計の針は11時を指していて、一緒に眠っていても普段通りと変わらない時間に起きる俺を笑顔で許してくれる彼女は、やっぱり愛おしい。

「・・・朝からうるせぇ。」

口をついて出るのは本音でもあり、照れ隠しでもあるけれど、こんな朝も悪くないなって口角があがるのを自分でも止められない。彼女の腰に腕をまわし首筋にひとつキスを落とすと、眉をひそめてきりりとにらんだ目を向けられた。

「顔洗ってきて。」と、ひとこと。

「へいへい。」と適当な返事をして、しぶしぶ腕を解き洗面所へ向かった。冷たい水で顔を洗い、触れるタオルがふわりと真新しくて、また沼に落ちる。今目の前で繰り広げられる甘い言葉や優しい気づかいよりも、そばにいないときに向けられた好意の方が、胸に刺さるのはどうしてだろう。柔軟剤の香りを肺いっぱいに吸い込み、ありがとう、とつぶやいた。いや、タオルに向かって言っても意味はないのだけれど。

ブランチの準備が終わった彼女がダイニングテーブルの席に着き、はい、と差し出される湯気が立った青いマグカップにはいつものブラックコーヒー。テーブルの上には華奢なティーカップがひとつと、オムレツ、薄いカリカリベーコンと、サラダにいちご。

「いただきまーす!」と、陽気に手を合わせてフォークを手にする指先にぼんやりと視線を向けながらマグカップを傾けた。

彼女がいれば、どんな朝だって名シーンのように胸に刻まれる。



このお話は作り話です。
ある歌から、イメージしました。


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