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おためしナガノに約100組が応募。経験者として2拠点居住政策に思うこと。

どうも。長野県在住のフリーランス広報PRのあいめいです。

移動制限で実施あやぶまれていた「おためしナガノ」ですが、無事2020年度の参加者さんが決定されたそう。
私はおためしナガノの過去参加者でもあるので、ちょっと動向が気になっていました。


■そもそもおためしナガノとは

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「おためしナガノ」とは、簡単にいうと長野県が進めるIT系人材の2拠点生活推進の補助事業。

補助対象となるのは、
・長野に拠点をつくるための引っ越し代やクルマや家具家財のレンタル代
・2拠点で必要な交通費や長野のコワーキング代

など、2拠点生活に関する出費で、1人あたり最大30万円までという上限がある。

この事業のめずらしいポイントが、
・期間中、長野にずっと住む必要がない
・事業終了後も長野に住所を移すことも強制されない
・2拠点生活を応援してくれる
(補助金の申請手続きもそんなに難しくない)

という、まさに「おためし」でよいというところ。

移住したら○○万円「対象の企業に就職したら○○万円、「県内で起業したら○○万円」という自治体の移住施策が多いなか、
いきなり移住とか大変だし、お試ししたらいいよ。あと就職とか起業じゃなくて、今まで東京でやってた仕事を辞めずに移住できたらいいよね。そしたら東京とも行き来必要よね…?」というやさしさを感じる補助事業。

そしてそれが若手の2拠点生活希望者のニーズにも合致している点も素晴らしい。


(確実に移住するかわからない人への補助は、自治体として難しかった面もあっただろうけど、これを5年前から実施しているので、「わかってるやん感」がある。そしてけっこう移住者や2拠点継続者が多いから結果も出てるはず。)


■コロナ禍も影響?2020年の応募状況がすごい

そして、10/1、2020年度のおためしナガノ参加者決定のプレスリリースが発表された。

驚くべきはその人気。なんと12組の枠に99組の応募があり、倍率は約8倍だそう。緊急事態宣言以降、テレワークが普及したことで「どうせ出社しないなら、地方で生活の充実度をあげたい」と考えている人が増えたのかなと思う。

ITなどを手掛ける事業者に県内へ「試し」に移ってもらい、定住や事業化を後押しする県の補助事業への本年度の応募が募集枠の約8倍の99組168人に上り、2015年度の開始以来最多だったことが1日、県のまとめで分かった。(2020/10/02 信濃毎日新聞)


私が参加した2018年度は2倍ちょっとくらい…だったので、その注目の高さが伺える。
(ちなみに私の体験記は以下です)


■テレワークは地方移住の起爆剤となるか

ところで、政府はコロナ禍以前からテレワークを”激推し”していて、「意識改革」を促してきた。

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テレワークの最新動向と今後の政策展開(総務省)より
http://teleworkkakudai.jp/seminar/2018/pdf/kagoshima/yanagiya.pdf

それでも、導入率はこれまでこんな感じだった。

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そんななか、緊急事態宣言発令は大きなターニングポイントになったよう。東京のみの話にはなるが、東京商工会議所の調べによると、テレワーク実施率は67.3%だったらしい。


「働き方改革」「ワークライフバランス」「介護や育児との両立」「生産性の向上」などなどメリットを並べても、普及しなかったのに、ロックダウンで「せざるをえない」状況をむかえたことで「テレワークできちゃうこと」がわかった2020年。


そんなことだから、「テレワークできるんだったら、どこでも仕事ができるってことじゃん。仕事をテレワークで続けたまま、地方移住することで東京一極集中の課題(=地方の人口流出の課題)も解決できるんじゃね?」という考えも広がってきているように思う。

現に政府も来年、地方移住に大きな補助金をつくるそう。

企業の本社から離れた場所に設置するサテライトオフィスやシェアオフィスの確保に充てる。東京でのこれまでの働き方を変えず、地方で仕事を続ける環境を整える。

菅政権は地方創生を優先課題の一つに挙げる。地方で働ける環境を整え、人口減少や少子高齢化の対応につなげる。(日本経済新聞 9/25)


何か起業したいという夢や、地元企業で根を下ろしたいなどの意向がなければ、移住と転職というイベントは何かと大変なので、スキルを活かせる仕事を地方で続けるというのは、移住者にとってはめっちゃよい働き方だとは思う。
(私自身も、東京時代に勤務していた会社からの仕事はいまも安定収入だし)

気になるのは、これを実現するにはそれなりの努力も必要ということだ。


■「東京で仕事するのと、地方からリモートで仕事するのでは違いはありますか」

以前、とある自治体の方から質問をされた。
「東京で仕事するのと、地方からリモートで仕事するのでは違いはありますか」

彼らは東京の仕事を地方でそのまま続けるかたちの移住を推進していた。

リモートで「できる」けれど、違いは「ある」でしょう、と私は思う。
(「ない」と言ってほしそうだったけど)

取引先にはメールして、チームにはSlackして、必要あればオンラインMTGすれば確かにリモートで仕事はできる。

けれど、東京での暮らしと働き方が、そのまま地方でスライドできるわけではない。

たとえば、仕事面では「テキストやオンラインだけでも、穏便に円滑にコミュニケーションできるよう留意する」とか「雑談でうまれるニュアンスの理解やちょっとした相談もオンラインでカバーする」といった努力が必要だし、東京に向かう際の交通費や移動時間、移動するための体力も地味に見過ごせない。

そして大きいのが生活面。東京の仕事を地方の自宅でやっていくとすると、「暮らし」と「仕事」が同じ空間にないので、地域とつながる糸口が少なくなる。

そのため、
・「ゴミの分別はどのくらい細かくやるべきか」(大概ゴミの分別が細かく厳しい)
・「除雪やお祭りはどのくらいコミットするべきか」(ローカルルール分からない問題)
・「物資の調達や、通院にはどこへ行けばよいか」(Google Mapsの情報量少なすぎ)

など、何かと手探りで解決していかないといけない課題が多い。

このあたりの精神的ハードルは人それぞれだと思う。差し引いても個人としては移住して「マジよかったー!」と思っているけれど、東京生活では付帯しないタスクなので手放しにレコメンドはできないのである。


■コワーキングスペースにあるもの

私自身、おためしナガノをきっかけに移住して、ちょうどいま2年経ったところ。

いま思うと、この事業の肝なのが、

県内のコワーキングスペースを仕事場として事業を行っていただきます。(応募要項より)

という「コワーキングスペースで仕事をする」ことが必須であること。私自身、家でなかなか集中して仕事ができないのでコワーキングスペースは重要な拠点と考えていて、おためしナガノで県内各地のコワーキングスペースに行きまくって、結局お気に入りのコワーキングスペースがある場所に住むことにした。

コワーキングスペースのスタッフや利用者は、先輩移住者だったりするので、移住時の「困った!」にもアドバイスをくれるし、利用者同士でちょっとした雑談ができることで「しばらく誰とも直接話してないわ…孤独…」といったこともなくなる。

(ずっとひとりで家にこもって仕事していても大丈夫という人もいらっしゃるので、一概にはいえないけれど)


ただ、これも一筋縄でいなくて、

・雰囲気のあうコワーキングスペースに出会えるか
・仲人的に、人と人をつなげて盛り上げてくれるコワーキングスタッフがいるか
(その地域のポテンシャルとか顧客層とか考えずに、とりあえずWi-Fiと机だけ置いた施設が作られている場合がある)
・移住者自らが好奇心をもって、コミュニケーションができるか

といったあたりを考える必要がある。


■まとめ

個人の選択として、のぞむ暮らしを手に入れようとすることはとっても素敵だと思う。

他方で自治体の方々が移住増加のチャンス!と安直にPRしていくことには違和感がある。
「東京の仕事を地方でも続ける」ということは、地域とつながりが希薄な移住者が増えるということだし、彼らの労働のアウトプットはすべて東京に帰属して、地元には何も還元されないということ。

(みんながみんな居住地にコミットするべきという話ではなく、せっかくユニークなキャリアの人たちがローカルに目を向けているのにもったいないという所感)


テレワーク化・2拠点化の流れは止められないし、むしろ止めるどころか柔軟な働き方は望まれるものだと思うので、

・完全な移住が正ではなく、おためしや2拠点・3拠点といったゆるい移住を認めていくこと
・移住者を外部人材として積極的に地元企業とコラボレーションしていく流れをつくること
・単なる仕事場的なコワーキングスペースをつくるのではなく、移住者の拠点としてコミュニティマネージメントができる担当者を置いたり、そういった動きのできるコワーキングスペースを応援していくこと

といった動きが加速するといいなーと思う。

いま必要なのはこういった実践者を成功例として発信することではないように思うぞ!キラキラした感じで演出するのありがちだけど!
(特定の自治体を否定するものではない、全体的な流れとしての話)


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働くことも、暮らすことも
どっちも欲張りでいることは素敵だと思うので、
よい流れがうまれることを願っています。

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