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『いちばんすきな花』8話と分人主義



平野啓一郎さんの分人主義という考えがすき。
いちばんすきな花の8話はまさに分人の話で、生方さんの感性、やっぱりすきだなぁと思った。

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「分人」とは、対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なる人格のことです。中心に一つだけ「本当の自分」を認めるのではなく、それら複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉えます。

職場や職場、家庭でそれぞれの人間関係があり、ソーシャル・メディアのアカウントを持ち、背景の異なる様々な人に触れ、国内外を移動する私たちは、今日、幾つもの「分人」を生きています。
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対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である。…私という人間は対人関係ごとのいくつかの分人によって構成されている。そして、その人らしさ(個性)というものは、その複数の分人の高比率によって決定される。

私とは何か――「個人」から「分人」へ /平野啓一郎

学校、職場、家族、友達、パートナー。いる場所や目の前の人を通して、違う自分=自分の中の異なる"分人"になるというのは誰もがそれぞれにある。

大学時代に参加した3つのプログラムで、人生グラフを描きましょう、というとき、いつも自分は2本線じゃないと書けなかった。
複数の感情が同時に存在するのに1本で描くことはできない...と思っていた。

当時私が描いていた線は、家族と関わっているときのものと、学校にいるときのものだった。それぞれで違う感情だったし、全く違う起伏の波があった。家族とうまくいかずに落ち込みながら、学校では心から充実していたときもあった。二面性がある強い自覚を持ちながら、矛盾する自分の取り扱い方がわからず悩んでいたなーと思う。

違う自分が同時にいつもいる。ずっとしこりのようにあったこのジレンマと消化できない戸惑い。
分人の概念は"そうあってよいものだよ"と肯定してくれた。

過ごす時間が長い相手といるときの分人がその人の大きな個性になる。一緒にいる時間が、家族と学校の友達で同じくらいの割合を占めていたから、2本線でないと描けなかったんだなと今ではわかる。

分人は誰にでもあって、使い分けていいもの。

いちばんすきな花の、美鳥ちゃんに見える脆さや明るさや繊細さや大胆さは全部ほんとだ。
違うけど、いろんな分人が、いっしょにいる人や時間や環境によって混ざったり薄れたり溶け合ったりしているだけで、全部知ると人間らしくていいなと思う。

"分人"は、この人はこうだって決めつけないためのものさしとして持っていたい。

ドラマでは触れてないけど、平野さんの本の中では愛についても触れている。

愛とは、相手の存在が、あなた自身を愛させてくれることだ。そして同時に、あなたの分人によって、相手が自らを愛せるようになることだ。その人と一緒にいる時の分人が好きで、もっとその分人を生きたいと思う。コミュニケーションの中で、そういう分人が発生し、日々新鮮に更新されてゆく。だからこそ、互いにかけがえのない存在であり、だからこそ、より一層、相手を愛する。相手に感謝する。
一々、お互いに愛していることをアピールし続けないでも、互いの存在そのものが、既にして、一緒に居続ける必然なのである。

相手を通して自分を愛するってエゴにもみえるけど、それも肯定し切っている。
大切な人、親しい人といる自分が好きなら一緒にいていい。相手のことを好きかどうかだけでなく、その人の前での自分も好きならそれは愛である。

ドラマを通してさらに共感できた捉え方だった。

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