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4月15日「おしゃれ」

仕事をしながら、メガネチェーンが欲しいな、と急に思った。
おじいちゃんとか、EXILEみたいなイカつい兄ちゃんがしている、首掛けにもできるようなアレである。
もう少し具体的に言うのなら、メガネの耳にかける部分に引っ掛ける紐で、お洒落なものから地味なものまで、ピンからキリまであるアレ。

うーん。
うまいこと説明できないので、アニメやドラマのキャラクターに頼ろうと思ったけれども、誰一人として思いつかなかった。
芸能人にもいない。
知人でもしている人はいない。

えっ、じゃあ誰がしてるんだ?
メガネチェーンを装着している代表格として、お爺とEXILE風を例に挙げたけれど、それは僕の想像上の偏見だったのか。
まあそんなことはどうでもよくて、僕はなんとなく欲しいと思ったということで、理想像はないけれども、自分なりにつけてみたいと思ったのである。

もともとお洒落に気を遣ったことがほとんどなかった。最低限の服装をしていればそれ以外にこだわりはなく、ブランド物の良さはよく分からないし、安かろう悪かろうなどと思ったことはないし、小物や差し色でワンランク上位の身なりにしてやろうとも考えたことがない。
服装も持ち物も機能性が一番大事であって、その次に考慮に入れるのは値段がぶっ飛んでいないかどうかだから、お洒落かどうかはまさに二の次だった。値が張っても購入することは稀にあるけれど、それはよっぽど気に入ったデザインでなければ起こらないことだった。

それを踏まえてみると、メガネチェーンを手に入れたいと思うのは、もはやどこにも属していない価値観だった。メガネを首から下げたいわけでもないし、値段もろくに知らないし、現物を見たこともほとんどないのだから、もちろんデザインを気に入って欲しいと思ったわけでもない。
急に湧き出てきた欲求だった。つけてみてえな、お洒落なのかな、という漠然とした興味関心だった。
自分としては珍しい感覚だったので、たまにはそんな無駄遣いをしてみてもいいのかもなと思った。

思い立ったが吉日ということで、グーグル検索から、どんな人たちが装着しているのかを調べてみた。
曲がり角でぶつかったら殴りかかってきそうな男と、アメリカ西海岸の浜辺を歩くことを人生の目標にしてそうな女がつけているようだった。
公園のベンチでサンドイッチを食べていたらカラスに追い掛け回されて涙目になる僕みたいな人間がつけるものではなさそうだった。人目を気にして持ち物を選ぶわけではないけれど、単純に似合わなさそうだった。
そのうち街中で試着してみようとは思うが、向き不向きがすでに目に見えていた。近々買い物に出かける予定だから、その際に試してみよう。

そろそろ春服と夏服をこしらえなければならない。
クローゼットはパンパンなのに、着ていく服は同じパターンになってしまっていることを思うと、余計な服ばかり持っていて、そのくせ着たい服はないという最悪な状態のようだった。
服はどのタイミングで処分するのが最適なのかいつでも悩む。悩んだ今こそがそのタイミングなのかもしれない。おしくらまんじゅうの洋服を眺めながら、買いに行く前に処分しなきゃなあと思った。

春になると着るものに迷う。急に暑くなったり、そうかと思えばまた寒くなってしまうので、自分だけが浮いた見た目になりかねない。
以前、そんなことを友人に話したら「YouTubeのライブカメラで街中の映像を見て、みんなの格好を見てから着替えてる」と言っていて、天才の所業だと思った。現代の技術は、そんな細かい悩みにまでフォーカスしてくれる可能性があるのか。

今年は少しお洒落なものを買ってみるのも悪くないかもなと不意に思った。ありがたいことに身長はあるのだから、着たい服をそれなりに着こなすことはできるだろうし、三十代を目前にしている今が、突飛なお洒落をして許される限界地点だろう。
だから、多少の無理をして自分の思うお洒落な格好をしようと思う。ライブカメラ越しでも浮かない程度のお洒落をしよう。メガネチェーンをすることはなさそうだが、どんな服を買おうか、今から楽しみである。

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