見出し画像

若者のココロを支える本屋の店主


2023.3.5(日)

昨日、会社の先輩がはじめた朝食フレンチにいったあと、気になっていた本屋に立ち寄った。(以前一度入ったのだが、時間が無くてすぐに出た)


本屋の隣には最近OPENした人気飲食店があり、若い人たちが行列をなしていた。


そのためだろう。本屋のドアには「待ち時間の暇つぶしはご遠慮ください」という内容の手書きの貼り紙がしてあった。


入店すると、アルコール消毒のところに、「撮影禁止  本は撮るものではなく、読むものです」といった貼り紙も。

レジの奥には店主とみられる男性が静かに座っている。


入って早々「普通の本屋」とは違う個性的な雰囲気を感じながら、好奇心90%、緊張10%で、そろりそろりと店の奥の方へと足を進める。


それぞれの棚には、店主の手書きで様々なメッセージが書かれている。

撮影禁止なのでニュアンスしか覚えていないが、「男が本を見るだけで買わずに帰っていくのは悲しい…頑張ってくれ~!」とか「店主は若者に、こういう本を読んで欲しい!!」とか。

少しずつ、ソコに静かに座っている店主のキャラクターが見えてくるようで、「どんな人なのか」という好奇心が高まってしかたがない。

小さな店内はとても素敵だった。こだわって選んだ本を、こだわって並べて出来上がった空間。20分くらいかけて何周もし、迷いに迷った末に、今日持って帰る一冊を決めた。


初めての店主との接触にドキドキ・ワクワクしながら、レジに持っていく。お会計の接客はいたって普通、というか、割と優しい感じであった。

「ありがとうございます~」と言って本をカバンにしまいながら、この店主とどうしても話したかった私は「あそこのコーナー、すごく綺麗ですね」と、咄嗟に出てきた言葉を投げかけた。

それぞれ黒だけ・赤だけ・青だけ・黄色だけの本が集められた4つの本棚が集まったコーナーがあったのだ。

すると店主は笑顔になり、「あれね、一度やってみたんですけど、みなさん綺麗だな~って遠目に見るだけで、一冊一冊を見ないですね、やっぱりあの置き方だと。並べ方も色々と実験しながらやっていてね、」と話しだしたのを皮切りに、店主は気さくに色んなことを語りだした。


私は独自の雰囲気をまとった人が、やっと口を開いてその思想や世界観について生き生きと語る姿がとても好きで、のめり込むように聴いた。


色々な話をする途中で、彼は「最近の若者は心を病んでいる子がとても多い。どうしたものか、と物凄く考えている」といったことを話し出した。

うつ状態と診断されて休職中の私も、かなり回復傾向とはいえ”心を病んでいる若い子”の当事者なので、自分のことを赤裸々に話した。


「色んな若い子の悩みをここで聞くんだけどね、モノもあって、恋人もいて、物質的には十分なのに、なんで病んじゃうの?って。

スマホの画面の中に閉じこもって人と比べてばっかいないで、外へいけ!人と繋がって仲間と馬鹿をしろ!って思うんだよね。

どうして、どうしてモノは満ち足りてるはずなのに病んでしまうのか、わからないんだよね。」

その表情や声色から、「わからない、だけど分かりたい」という真剣さが伝わってくる。

「僕はね、いくら『オジサンの考えだ、押し付けるな』と鬱陶しがられたって、やっぱり、『俺らの時代はこうだったんだ』  とか 『こんな風に考えたら、幸せだぜ?』って、自分たちの経験を伝えていくのが、オジサン世代の責任だと思ってるんですよ」

と語った。

私は、大学生の頃まさに鬱陶しいと感じていたオジサンたちのことを思いだした。相談してもいないのに、こちらが意見を言えないような威圧感で”アドバイス”をしてきたり、私の話を最後まで聞くことなく昔話を気持ち良さそうに話して、解決したでしょ?という顔をしてくるオジサンたち…。

しかし、鬱陶しがられることを知っていても伝えたい!それが責任だ!と信じるこの店主は、私が苦手としてきた「オジサンたち」とは全然違う気がした。

若者の悩みと向き合う覚悟みたいなものが、ホンモノなのだ。



さらに彼はこう続けた。

「でもね、僕は心のことに関するプロではないでしょ。その人の深い悩みを、プロじゃない僕が解決!なんて、できないわけ。

そこでね、うちの若い常連の子で臨床心理士の卵がいるから、その子がプロになったらココに一緒に座ってもらって、お客さんの悩みを聞いてもらおうと思ってるのよ。

それで僕の方は、『ほら、この本のここに、こんな風に書いてあるぞ!』って伝えたりしてね。

だって、本ってのは誰かが何かを伝えたくて書いたものでしょう。小説にしても自叙伝にしても、『こういう時はこうやって考えたら良いよ』とか『苦しいけど、みんなで生きていこう』とか、たくさんのメッセージが詰まっているんだから。

それを若い人に伝えてあげたいの。」


私は聞きながら、ほとんど泣きそうだった。

たくさんの本を読んできて、確固たる世界観を持つ、小さな本屋の店主。その人が「どんとこい!オッサンが聞いてやる!」という熱量と、しかし同時に清らかな「謙虚さ」を持って、若者のことを真剣に考えてくれていることに、感動で胸がいっぱいになったのだ。

そして、こんな人に街の本屋で偶然出会えたことに驚いた。この社会には他人の幸せについて、ピュアに真剣に考える人がたくさんいるんだろうな…と思えて、居場所たくさんあるようで、泣くのをこらえるのに必死だった。


気付くと1時間以上もお話ししていた。

最後には、読書苦手なのにずっと色んな本を立ち読みしながら待っていてくれた彼氏に「こんなに辛抱強い男はいないよ、なっ男前!」と言いながら、どら焼きをくれた。


最後は出口まで笑顔でお見送りしてくれた。「また必要な時に、会いに来ます!」といって店を出た。


この日の本屋のinstagram。
「ココロを支えるしごとが本屋には必要」


PS. 「僕は、本を買う人・買わずに帰っていく人は見てればすぐわかる。

そして、僕に何かを話したがる人も、お会計のときにすぐわかる。そういう人は、目で訴えかけてくるもん。あなたもそうだろうなって、すぐ分かったよ。笑」

と言われた(笑)

あとサムネは私が描いた店主の似顔絵です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?