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「ばぁば死んじゃったねぇ」って言ってくれてありがとう。



私は2021年の年末に母を亡くした。


あまりに突然で、咀嚼することもできず、寂しさや後悔や虚無感でまともに寝られない日々が続いた。

当時私は福岡で一人暮らしをしていたが、とてもワンルームの部屋に1人で戻れる心の状態ではなかったため、しばらく埼玉の姉家族の家に住ませてもらった。

姉と、義兄と、当時3歳の甥っ子と、0歳の姪っ子の4人家族。私にとって初めての「こどものいる日常」が始まった。



甥っ子は、「あいあい!」と元気に私の名前を呼んで遊びに誘ってくれる。積み木やプラレール、恐竜のおもちゃなど、私も一緒に夢中になって遊ぶ。


遊びの際中にふと、つい数日前に亡くなった母のことを考えて、足元がグラリと崩れそうになる時がある。そんな時でも甥っ子は「次、あいあいの番だよ!はやく!」と無邪気に笑う。


その笑顔が私を笑顔にし、私の心を「今この瞬間」に戻してくれる。目の前には、エネルギーいっぱいで、私と遊びたがる甥っ子。あまりに愛おしい。幸せだと感じる。




ふとした時に、「ばぁば死んじゃったねぇ」と甥っ子が言う。私の膝のうえで恐竜のおもちゃをいじりながら、淡々と。その小さな顔に悲しそうな表情はない。死ぬこと=悲しいこと、という理解がないのだろう。


私も、「そうだねぇ、ばぁば、死んじゃったねぇ」と優しい口調で返す。例えば「あ!飛行機が飛んでいるねぇ」と甥っ子に語り掛ける時と同じような口調で。


そんな風に口にすると、悲しみや寂しさや後悔の波はやってこない。
「あぁ、飛行機が飛んでいるなぁ」と思うのと同じように、「あぁ、ママは死んじゃったんだなぁ」と、ただ、ボーっと思う。



すると甥っ子が「ばぁばはどこに行ったんだろうねぇ?」と、楽しそうに聞いてくる。クイズを出すときのようなニヤニヤした目で私を見ながら。


「ん~~どこだろうねぇ?もしかして、お空にいるんじゃない?」と、私もクイズに答えるような口調で、ニヤニヤしながら返す。


甥っ子が「ええええ~~~!ばぁばお空にいるの~~~!!!」と、私の膝からジャンプして立ち上がり、大きな窓の外の空を見ながらはしゃぐ。「すごくな~~い??」と、楽しそうに足踏みしながら。(すごくな〜〜い??は、当時の甥っ子の口癖)


私も「ね~~~!すごくない~~~?!!ほんとにばぁば、お空にいるかもしれないねぇ~~!!」とはしゃぐ。


その時私は、無理して明るく振舞っているのではない。本当に「今頃もう、ママはお空にいるのかなぁ。」と想像し、「ママがお空から、私たち2人を見て笑ってるかも知れない!そうだったら、なんだか不思議だけど、本当にすごい!!!」と、甥っ子につられて楽しくなっているのだ。



こんな甥っ子とのやり取りが、毎日私の心を救ってくれた。


ただし夜は、毎晩苦しかった。この世に母がいないと思うと涙が止まらず寝付けなかったり、気を逸らすように朝方までSNSを見ている日々が少なくなかった。


それで昼頃まで寝ていると、甥っ子が寝室に入ってきて「あいあい!起きて!!」とダイブしてくる。そして、午後は一緒に元気に遊ぶ。

ばぁばがこの世からいなくなっても、変わらず毎日を精一杯生きる小さな甥っ子が、ただ目の前に存在してくれる。そして「一緒に遊ぼうよ!!」と私を求めてくれる。そのことに、本当に心が救われたのだ。



Sくん、
ここにいてくれてありがとう。
元気に生きていてくれてありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。

と、心底思いながら、よくハグしていた。(ハグは拒まれることが多かったけど。笑)



1年以上がたった今、私は福岡に戻り甥っ子とはたまにテレビ電話をする。基本的には「可愛すぎて大好き」という感情なのだが、でもたまに「あの時は助けてくれて、本当にありがとね」と思う。



彼が小学校高学年くらいになったら、この感謝の気持ちを真剣に伝えようと思っている。

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