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おかえり

今日は午前中に、気持ち的に少し行きにくい場所での打合せがあった。どこかというと、今の会社に転職する前に勤めていた会社だ。

約10年前。
地元の広告代理店に勤めていた。企画制作部で1年半、営業で3年の計4年半をその会社で過ごした。
その後、自分の都合でそこを辞めて今の広告制作会社に入った。

いま振り返ってみても、自分勝手だったと思う。
やりたいことを他に見つけて、転職。
お世話になった人達に不義理をしてしまったなぁと、心の奥でずっと気になっていた。

当時の先輩から連絡があったのは、少し前のことだ。
「仕事をお願いしたいので打合せしたい」という。
企画制作部時代の先輩で、とても仲良くさせてもらっていたので話をもらった時には嬉しかったし、多少無理があっても絶対どうにかしようという気持ちになった。

ただ、当然ながら打合せ場所は前の職場。
これは完全に個人的な気持ちなのだが、なんとなく行きにくいのだ。その会社のほぼ全員のことを知っていて、その人達と顔を合わせるのが、申し訳ないというか忍びないというか。要するに気まずい。

打合せの時間の少し前に駐車場に車を停めた。
ふう、と深呼吸して車の外へ。
いざビルへ入ろうとしたのと同時に、当時の営業部長と鉢合わせた。
「おおお…ここで会うのかよ」
自分のタイミングの悪さを心底呪った。

でも、仕事。気を取り直して挨拶する。
「お疲れさまです」
向こうもこちらに気付き、挨拶してくれた。
内心ホッとして通り過ぎようとした時、さらに声をかけられた。
「髪、真っ白になったなぁ」
思いがけずだったので、慌てて返事をした。

そ、そうなんですよ!
真っ白になっちゃって!アハハハ。

当時の営業部長は目を細めて笑っていた。

あれ?なんか、思ってたのと違うぞ。

もっと怪訝な対応をされてもおかしくないと思っていたので、少し気持ちが楽になった。
そして会社の受付へ。
先輩に取り継いでもらっている時に、当時営業でお世話になった先輩と目が合った。
無視されてもおかしくないのだが、その先輩は手をひょいと上げてこう言った。

「おう、おかえり」

思わず「ただいま」と言いかけた。
いやいや、そんなこと言えないだろと思い直す。
すると、総務の女性もこちらに気付いた。

「おかえり」 

なんてフレンドリーなんだ。
こちらは自分勝手に辞めたのに。
声をかけられるとは思ってもみなかった。
しかも、おかえりだなんて。

壁を感じていたのは自分だけだったのかもしれない。
勝手に一人で気まずくなっていた。
それを取っ払ってくれたのは、当時お世話になった人達だった。

…ありがてえな。

お世話になりっぱなしだ。
だから頭が上がらないんだよな。
心の奥で深く感謝した。
与えてもらった仕事を、必ずやりきろうと心に決めた。

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