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ただ帰ってきただけなのに

傘を持って立っていると、強めの雨がバラバラと生地を叩いてくる。朝から嘘みたいに強い雨が降り、さっきは雷まで鳴る始末。
こんなに強く降りやがって。
初めて雨が嫌いだと思った。
神社の前で一人立ち、通り過ぎていく人や車を眺める。携帯を取り出して時間を確認。時間的にはそろそろのはずだ。足元に目をやると、靴にジワジワと雨水が浸みて色が変わってきている。


今日は小学一年生の息子の日曜参観日…のはずだった。
コロナの影響で、参観日自体は無くなってしまったのだが、午前中まで授業はあるとのこと。大雨の中、いつもと同じ時間に息子は登校していった。

登校する前にはいつものように一悶着。
「行きたくない」と嗚咽まじりに泣きわめく息子をなだめすかし、登校班へと合流させた。
しばらくすると、更に雨は強くなった。
参観日が無いなら休みでも良くないか?
部屋の中からザーザーとうるさい雨を見ながら、そんなことを思っていた。

平日であれば、授業が終わった後の息子の帰り先は児童クラブになるのだが、日曜の今日は開いていない。一人で家まで帰ってこないといけない状況だった。
ちょっと難しいかもなぁ。
家から児童クラブの間には、交通量の多い大きめな国道があり信号を渡らないといけない。しかも大雨。

途中まで迎えにいくか。
児童クラブの入口に近いところまで行って待っておくことにした。授業が終わる時間を調べて、息子が下校にかかる時間を予想して家を出た。

ザーザーと強く降る雨は、大人でもめんどくさい。
こどもからしたら、その度合いはもっとだろう。大きな水たまりを避けながら、児童クラブへと歩いた。

歩いて5分。着いて周りを見渡したが、まだ小学生の姿は見当たらない。当然ながら児童クラブの入口は閉まっている。このまま道沿いで立っておくのも気が引けたので、近くの神社に立ち寄った。
神社の入口には大きな木が立っていて、その下に行くと完全ではないが雨をしのぐことができた。

しばらくすると、高学年と思われる小学生が走ってやってきた。急ぎで帰ってくる高学年がこの時間なら、一年生はもう少し時間がかかるだろう。

無事に帰ってこれるかなぁ。
ザーザー降る雨と共にそこで待っていた。  

それから5分後。
そろそろかなと顔を出すと、30mくらい先に傘をさして歩いてくる小さなこどもの姿があった。息子だ。

目が合うと嬉しそうな表情を見せた。
こちらは傘を少し高く上げて返事をした。

それに気付くと、今度はこちらに向かって走ってきた。
傘をさして、小さな長靴をブカブカと鳴らしながら。
そして、大きなランドセルをユサユサと揺らしながら。

別に特別なことじゃない。
息子が学校に行って帰ってきただけ。
ただ、それだけのことだ。

「おかえり」

そう声をかけると、満面の笑みが返ってきた。

「ただいま!」

息子はきっと一生知らないだろう。
マスクの下で泣きそうになって、声が上ずっていた父親のことを。


(note更新144日目)


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