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映画館での拍手とyeah!

館内がフッと暗くなる。
ここから映画の本編が始まるまでの少しの間。
とある理由で、僕はこの時間を楽しみにしていた。

宮崎の映画館では、映画が始まる前に企業の広告映像が流れる。その名をシネアドという。映画館でのマナーを訴えるものや「NO MORE 映画泥棒」とは別で、完全な商業映像。言ってみれば、テレビCMの映画館版だ。

実はここで、息子が映っているCMが流れるらしいのだ。それは宮崎ケーブルテレビのCM。コロナなどの状況もあり、自宅で回線を敷いてのインターネット利用が増えているらしい。学校でもオンライン授業などが展開されていくため、ある程度安定したネット環境が必須となりつつある。それを訴求しようと企画したCM。

館内では、既にいくつかのCMが流れている。
少しドキドキしながら、その時を待った。
なんなら今この時に限って言えば、映画の本編よりも観たい映像かもしれない。
そして、ついにそのCMが流れた。

たくさんに分割された画面の1枠。
普通に見ている分には、そのまま気付かず見過ごしてしまうが、そこには確かに息子がいる。それが嬉しかった。

リモート授業風だが、先生役と生徒役の撮影は別に行われた。特に生徒たちの様子は、各家庭にお願いしてスマホで撮影してもらっている。
先生の動画が先に作られ、各家庭に配布された。その動画を観ながらのリアクションを撮影するという流れだった。

参加者を見ても、おそらく息子よりも年上の子どもが多かったと思う。設定が英語の授業ということもあり、そもそも小学生低学年には難しい内容かもなぁとも思っていた。
一応、息子にどうするかを聞いてみた。せっかくの機会だが、無理してやらせる必要は無い気がしたからだ。すると二つ返事で「やる」と答えた。少し驚いたが「やるというなら全力尽くしましょう」ということで、親子2人で撮影に挑んだ。

実はこの撮影時、息子はまだこども園の卒園前だった。
3月下旬くらいだったと思う。「やる」とは言われたが、実際できるのかなぁと親としてはかなり不安だった。

そして、いざテイク1。
練習はしていたらしいが、正直なところ全然期待していなかった。見てみて厳しければ、最悪使われなくていいかなとも思っていた。
ところが、予想は覆された。

…え、惜しいじゃん。

少し恥ずかしがっていることと、アクションにためらいがあったのは修正ポイントだが、声も大きく表情も悪くない。

…ちょっと!もう一回やろう。
その前に今撮ったのを見せるわ。

息子と映像をチェックして、修正ポイントを伝えた。
それを踏まえて、テイク2、テイク3と回数を重ねた。

おぉ!いいじゃん!

最終的には、そこまでいった映像が撮れたと思う。

こんな裏側、誰も知りやしない。
そこに費やした時間も手間も、最終的な映像に可視化されるわけでもない。この映画館にいる人の中で、息子の頑張りを知っていたのは僕だけだ。でも、それで良い。完成した映像をここで見ることができただけで、十分に報われた気がした。

この日。
映画本編が始まる前に流れた15秒のCMに「イエィ!」と声を出して拍手をしたのは、きっと世界中で僕だけだと思う。



(note更新175日目)



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