たった2時間じゃ世界は変わらない
「なぁ、どうだった?」
隣を歩く後輩に声をかけた。歳は10歳ほど下だが、体格は僕よりも大きく見えるので、たまに僕よりも歳上に見られることもある。
「めっちゃ面白かったです!」
そんな素直な感想が嬉しい。
「実は、本編の終わり方が小説と全然違くてさ。めっちゃビックリした」
「へぇ!何が違うんですか?」
目が輝いている後輩の顔を久しぶりに見た気がする。2人でエスカレーターを降りながら、本編と小説との違いについて話し始めた。
「明日の午前中、映画でも見に行かない?」
たまたま前日の昼ごはんが一緒になった後輩を、映画に誘ったのは僕だった。
「…え、映画ですか!? そりゃ行きたいですけど、一応就業時間内ですし…」
後輩は、少しバツが悪そうな顔をしている。
「映画だって、立派なインプットだよ。俺は行くけど、どうする?」
後輩は少し考えながらも「行きます!」と答えた。
観た映画は「シャイロックの子供たち」。阿部サダヲ主演の先週公開されたばかりの映画だ。半沢直樹などで人気を博した池井戸潤さん原作なので、面白いことは分かっていたようなものだ。
午前10時から映画が始まり、終わったのは12時10分。ど平日でありながら、午前中はただただ映画館で映画を観て過ごした。
「この2時間で、仕事で何か急ぎの連絡とかあった?」
映画が終わってから聞いてみると、後輩は携帯を確認しながら首を横に振った。
「いえ、特には」
「でしょう。そんなもんなんだって。2時間くらい抜けたって、世界は大して変わらないんだよ」
会社に向かって歩きながら話すと、後輩はゆっくり頷いた。
「それ、ちょっと思いました」
その後輩はポジション的に仕事が立て込んでいて、最近は休みの日も頻繁に出勤しているのを知っていた。
「少しは気晴らしになった?」
聞いてみると、今度は大きく頷いた。
「そりゃあ、もう。めちゃくちゃ気晴らしになりましたよ!」
この時、後輩を連れて行って良かったなと思った。
「もしさ、これから君に後輩とかできたりして、まぁ歳の近い人でもいいんだけど。何かしんどそうだったら、今度は君が連れてってあげてほしいんだよね。こんな気晴らしもあるよって」
「そうですね。そうします!本当に有意義な午前中でした」
2人で笑いながら会社に戻った。
花粉が飛んでいるとはいえ、晴れた空の青がやけに綺麗な昼過ぎだった。
(note更新384日目)
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