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手巻き寿司事件

誕生日近くになると、高校からの親友・やっこが主催となって誕生日会を開いてくれるのが通例だ。非常にありがたい。

この日は、17時に西新宿にあるやっこの実家集合だったので、伊勢丹でいつもの「ハムのセット」を購入して、「はぁ、今年はどんなごちそうが食べられるのだろうか、うひひひ」と、ワクワクしながら向かった。友達に会うことよりもまず食べ物のことを考えてしまうなんて、私のこの卑しい食い意地を呪いたくなる。それに、つい出てしまう「うひひひ」という奇妙な笑い方、一体誰に似たのであろうか。

到着すると高校時代の友達が揃っていて、「ただいま~」と言って入ると、「おお来たか!」と歓迎してくれた。昔ながらの茶色の食卓テーブルには、乗り切らないくらいの手巻き寿司のメニューが並べられていた。

ふっくら炊かれたお米、のり、色とりどりのスティック野菜、牛肉・豚肉、ソーセージ、たまご、サラダ、トマト、チーズ、納豆……、、、あれ?

「さ、全員揃ったし、食べよう!」。やっこの声かけのもと、やっこの旦那で高校時代の友達でもある新庄、女営業部長としてバリバリ働くおおちゃん、やっこの父・つねお、母・としこちゃん、みんなが席についた。

「カンパーイ!あいこ、おめでとう!」と、大酒呑みたちは缶ビール(大)、下戸な私はウーロン茶で乾杯した。

ウーロン茶を飲みグラスをテーブルに置いた私は、一人頭を悩ませていた。この手巻き寿司を、一体どうやって食べたらいいのかわからなかったのだ。

みなさん、お気づきだろうか? 手巻きずしのメインといえば、“刺身”。しかし、この場にはその主役様がいないわけだ。しかも、この場のメインと思われる肉も、そんなに多くはない。

私はのりに手を伸ばしながら頭をフル回転させた。

“まず酢飯でしょ、それで野菜と肉かな?”
“だけどこの肉の量だと、一人1回分で終わっちゃう?”
“いや、やっぱりサラダから食べるべきか?”
“そうだ!とりあえず、やっこがどうやって食べるのか見よう!”

そう思い立ち、主催者であり、この家出身の彼女に視線をやると、そんな私の気もつゆ知らず、呑気にポリポリときゅうりをかじっているではないか。

最善策と思われる策があっけなく失敗に終わった私は、片手にのりを乗せながら、何気なく隣に座っているおおちゃんを見た。

すると、おおちゃんも私と全く同じように、片手にのりを乗せ、とぼけた顔でこちらを見ていたので、二人で噴き出した。どうやら、おおちゃんとは通じ合えたようだ。

すると、タイミングを同じくして、やっこの父・つねおが「あれ、お刺身は?」と言った。

“おおおお!だよね!だよね!つねさん!”と私は、つねおを心の中で絶賛するとともに、やっこの家も手巻き寿司には、野菜と肉だけではなく刺身を取り入れている事に安堵した。

私もおおちゃんも腹を抱えて笑い、この短時間でかなり頭を使ったという旨を話すと、やっこも新庄も涙を流すほど笑ってくれた。

高校のメンバーは最高だ。いつ会ってもこういうちょっとしたハプニングが起きて、何気ない瞬間から爆笑の渦になる。こんなに笑ったのは久しぶりだ。

会が終わり、さて帰ろうかと腰を上げたところで、つねさんが、のそのそと部屋から出てきて「あいちゃん、おめでとう、また来てね。うひひひひ」と改めて言ってくれた。

その瞬間、“あ、私、この笑い方してる”と、思った。

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