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地震!?

映画が観たい!そう思ったときはあっこに連絡する。

あっこは、私の大学時代の友人で、かけがえのない親友のひとり。

大学のころはそこまで頻繁に遊ぶ間柄ではなかったのだが、社会人になって、ひょんなことから、再会をして、毎週のように会っては、恋バナをしてお互いの傷をなめあったり、仕事の悩みを相談したりしていた。つまりは、やたらと馬が合うのだ。

当時は、お互いに彼もいなくて、映画が大好きだが一人では観に行けない小心者の私たちは、幸い観たい映画の趣味も驚くほど合ったため、新作が公開になるたび、どちからともなく誘って観に行っていたのだ。

その日は、百田尚樹先生の『永遠のゼロ』を観に、有楽町にある映画館に足を運んだ。

原作の小説は、寝る間も惜しんで食い入るように読み込み、思い出してはお風呂でおいおい泣くほど感動した作品だ。

その映画の主演には、私と同じ誕生日であり、名俳優の岡田准一さんが務めると知って「これはこれは、監督、わかってる〜。付き合ったら楽しそうだな」などと、勝手な妄想と親近感を膨らませながら、公開を待ち望んでいた。

有楽町の劇場は、どこかレトロな味わいがあって、作品の世界観と重なり、さらに気持ちを盛り上げてくれている気がした。

映画館といえば、ポップコーンと一番大きいサイズのコカ・コーラゼロ(ゼロがないときは普通のやつ)を買うのが、私にとっての楽しみのひとつ。

欧米人さながらの非日常的なビッグサイズがさらに特別感を演出する名脇役になってくれるため、雰囲気も大切にしたいワガママな私にとっての神器なのだ。

その神器を無事に手に入れ、雰囲気抜群の劇場に足を踏み入れると、緊張すらしてきた。

席につきCMが始まると、原作を読み込んで来ていたあっこも、隣でまだかまだかとウズウズしているのがひしひしと伝わる。

これは仲が良いから気持ちが伝わるというわけではなく、爛々と輝く目でこちらをチラチラと何度も見て来るからだ。生まれながらのこの素直なキャラクターは、時に羨ましく、時に微笑ましい。可愛い奴め。

いよいよ上映が始まった。原作の世界観をそのままに見事に再現されているではないか!とワクワクしながら観入る。

すると、ところどころであっこが、私をトントンと叩き、口パクまたは小声で

「ここ、あのシーンだよね」
「原作では…これがここだ、はぁ」とか、
「はっ!ここ!」「ああ~、うんうん!」と、今にも小節でも握って『そら、よいよい』と歌い出しそうな妙なリアクションをしているではないか。

うんうん、わかるよ、という相槌を返しながら実は私は、吹き出しそうになるのを堪えていた。

周りに迷惑がかからないよう小声だったため、私に伝えようと『よいよい音頭』に身振り手振りが加わり、なおさら面白い。

いかんいかん、作品に集中しよう。そう思ったとたん、あっこの『よいよい音頭』も終了した。よかった。

しばらく観ていくうちにホロリと涙を流さずにはいられないシーンがやってきた。深い感動に浸っていると、突然地面が揺れた。結構大きな揺れだ。震度3いや4はあるかも。

「やだ、地震?!」

すぐさまあっこを見た。すると顔を両手で多い「えっ?!」というほどに肩をガクガクと震わせて号泣しているではないか。スクリーンも観てないし。さらに見方によっては爆笑しているのを一生懸命に堪えているようにも見える。

つまりこれは地震ではなくて、彼女から発生した上半身の激しい振動運動によって私の座席まで激しく揺らしていたわけだ。

「やだ!......すんごい面白い」

感動の涙は一瞬で乾き、笑いに変わった。

この地震はしばらく続き、その間私は大量の脇汗をかくほど笑いを堪えるはめになった。

このとき、“感動ものの映画を観に行くときは、あっこではない人と行こう”と密かに誓ったが、ことごとく忘れて誘ってしまうのであった。

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