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「第8話 小惑星」


九州の鹿児島から長距離トラックは配送を終え、また倉庫に戻ってきた。
守衛さんは、運転手にご苦労さんと声をかけて中を覗いた。
運転席には、ガリの姿はなかった。
「おや、あの茶色のネコはどうした?いないようだけど。」
と守衛さんは聞いた。
「あのネコ、どうも車酔いがひどくて道中ぐったりとしたままだったよ。
それでも少しすればなれるかと様子を見ていたけど、
ますます様子がひどくなって食べたものまで戻しはじめたから、
あまりにもかわいそうで、見ていられなくて途中寄った食堂の人に相談したら、
そういう事ならここに置いていきなよと言われ、置いていくことにしたんだ。
帰り道、その食堂に寄ったら、預けた後元気になったけど、
いつの間にかいなくなったらしい。
連れて行かなかったらよかったな。かわいそうなことしたよ。」
としょんぼりして運転手は答えた。

「そうかい、ノラ猫は気ままで自由に生きているから、それでよかったのかもな。」
と守衛さんは、言った。

ガリは、自分の中にいる何かわからないものに少しづつ乗っ取られていた。 
車酔いでなく、それが原因で調子を崩していた。
食堂に降ろされたとき、ガリは完全にその何者かに支配されていた。
そうなってしまうと、体調はあっという間に元に戻った。
食堂に預けられてからは、ガリは夜になると外に出て夜空を見つめていた。
夜空には、色とりどりに点滅する円盤が現れていた。
もちろん、人間や動物にはそれを見ることはできなかった。

「うまく意識に入り込めました。このまま任務を続行します。」
テレパシーでガリは円盤に伝えた。
「了解しました。」
円盤からそう返事が戻ってきた。

宇宙には、数えきれないぐらいの多くの星々がある。
その中には、地球以外にも生物が存在する。
生物は、それぞれの星で進化してその星で暮らしやすいように変化する。
今地球に来ている宇宙人は、地球からそう遠くない星からやってきた。
その星の宇宙人は進化の過程で、体を失っていた。
意識だけが存在する形なり、他の生物の体に出入りすることができる。
まるで、車を乗り換えるような感じだ。
体のような劣化するものがないので、この星の宇宙人は永遠の命を手に入れている。

この星の科学技術は、地球とは比べ物にならないほど進んでいた。
生きていくためのエネルギーは、宇宙にあるダークマターから取り入れている。
領土や食料の奪い合いも必要ないので、争いごとなど一切無い平和な世界だ。

最近、他の銀河からはぐれた小惑星が地球の方に向かっていることを発見した。
高い確率で地球と衝突し、地球は消滅することが分かった。
すでに、地球には人間を頂点とする貴重な生物が多くいることは、知っていた。
このまま見ているのか又は助けるべきなのか議論になった。
議論の末もう少し地球を調べてから残す価値があるかどうか決めることになった。
その任務を帯びた隊員が地球に送られた。

隊員はたまたま、川でおぼれているガリを見つけその体を借りる事にした。
実際の地球での生活を体験しながら、その様子を円盤に報告していた。
隊員は、ガリの友達のタマが命がけでガリを探す旅に出たことを知っていた。
宇宙人から見たら、ネコの命など一瞬とも言える短い時間だ。
その大切な時間を友人のために使っているタマに興味があり、
友情というものが知りたいと思った。
物事を合理的に考える宇宙人には、とても新鮮に見えた。
ガリの体を借りてタマと会う事にした。

ガリの体に乗った宇宙人は、ガリのこれまでの経験も共有した。
優しいケンさんや守衛さん、運転手さん、食堂のおばさんなどいろいろな人間も見た。
人間にも興味があり、その報告も送っていた。

円盤からも、人間やその他の動物の情報を送るように指令が来ていた。
そこでタマに会うまで、色々な経験をして情報を集めることになった。

こうしている今も問題の小惑星は、刻々と地球に迫っている。
地球の運命は、この宇宙人たちが決めることになる。

ガリは、食堂を後にしてタマの来る方向に進みだした。

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