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2020年6月30日にまたここで会おう: 瀧本哲史伝説の東大講義  を読んで

2020年に読んだ本の中で面白かった本best3には確実に入る一冊。
今年入って改めて読んでみたけど、やっぱり面白い。

私がなぜこの本を読んだのか、どう言う内容なのか、
何が面白いのかをここにまとめて行こうと思う。

世界を変える人の人生ってどんなのだろう

私がこの本の存在を知ったのは、2019年8月のことだ。
"その日"、Facebookやtwitterでフォローしていた社長や著名人が、
こぞってある投稿をしていた。

「とても惜しい方を亡くした」と。

どうやら、各界で影響力を持っていた方が亡くなったらしい。

投資家。なるほど、それで社長やら色んな方が反応してたんだな。
もちろん、亡くなった方について悪くいう人はいないだろうけど、
にしてもみんな、かなり具体的に「あの人からこういうことを学んだ」と書き記している。
よっぽどすごい人だったらしい。
瀧本さん。
人財界隈にいながら全く知らなかった。ちょっと恥ずかしい。

にしても、そんな影響力をもつ人って、どんな思考をしてるんだろう?
どんな人生を送っていて、どんな人だったんだろう?

著者を目当てに本を読むということは実はあまり多くない。
でもこの時は、「世界を変える人の人生」が知りたくて、本を手にとった。

オワコンな日本で、君たちはどう生きる?

この本は、2012年6月30日に東大の伊藤謝恩ホールで
20代以下300名に向けてメッセージされた講演を収録したものである。

瀧本さんが一貫して伝え続けているメッセージは、
これから君たちはどう生きていくのか?
考えろ、決めろ、そして動け、動かせ!
である。

非常によくできた構成で、読むたびに感激する。
第1章(檄)では、「人のふりをした猿になるな」と訴える。
奇跡のようなカリスマをいつまでも待っているんじゃない。
そんなもの現れないし、現れたところで世界が良くなった試しがない。
そんなカリスマモデルではなく、一人一人が世界を少しずつ良くしていくようなモデルこそが、世界を変えていける。
そのために、僕は一人一人に「武器」を配りたい。それが武器モデルだ。と。
仏教の言葉では「自燈明」と言うらしい。

第2章では、武器として、「教養を持て」と言う。
教養とは何か?
それは、他の見方や考え方があると言うことを知っていることである。
1つの枠組みしか知らない人は、結局、現実世界ではあまり役に立たない。
何かを解決したり生み出したりするには、「参照の枠組み」をたくさん持っていることが必要である。
では、具体的にどんな教養が必要かと言えば、「言語」だと言う。

言語は、「ロジック」と「レトリック」に分かれる。
筋道が通っていて、誰が聞いても納得できるロジカルな内容。
そして、同じ内容であっても、より人を動かす言葉には、レトリックが光っている。
これらを磨け、それが最初の武器だ。
と、さすが体現している人の講演は痺れる。

第3章では、より「世界を変えるには?」と言う話になってくる。
1,2章で、目を覚ませ、自分で自分を磨けと訴えてきたところで、
3章から、自分ひとりだけでなく、周りを動かせ、と言うのが出てくる。
世界を変えるには、自分ひとりが良くあろうとしても難しい。
巻き込む必要が出てくる。

世界はどうやったら変わるのだろう?
つまり、パラダイムシフトはいつ起こるのだろう?
これは実は、「世代交代」によって起こるらしい。

天動説・地動説も、正しい方が認められて勝ったのではない。
古い方を指示する人が亡くなったから、新しい方へ移ったのだ。
じゃあ、来世に期待!って、そう言うことではなくて、
これはかなり希望で、「じゃあ次世代に何を残したいのか?」ってことを
今から未来へ育んで行けばいいと言うことである。
だから、瀧本さんは、20代以下の若者へメッセージし続ける。

第4章では、武器として具体的に「交渉力」を挙げている。
武器としての教養、そして教養としての言葉を操って、
人を動かすのはつまり交渉である。
この本で初めて知ったが、
明治維新は「言葉の力」で革命を起こした好例の1つらしい。
260年続いた国の体制をがらりと変える革命だったにも関わらず、
フランス革命やアメリカ独立戦争と比べて、圧倒的に死者が少なかったと。
これは、武力ではなく交渉力で意見を統一して行ったからである。
交渉力にはこんなにも力がある。
年収を今から倍増させるよりも、理不尽な社会保障を変えるために
交渉していった方が、実は現実的だよと言う。さすがにちょっとたじろぐ。

第5章では、「失敗は折込済みだから挑戦しようぜ」と言う。
革命ができるのは若者だけだ。
計画経済とは真逆の資本主義では、「何が正解かわからないから取り合えあずやってみよう、そしたら市場が答えだ」と言う世界である。
とりあえずやってみよう、そしたら、誰かは世界を変えられるはずだ。


世界を変えるのは我々自身だ

この本を読んで感じたことがたくさんある。
でもまず思うのは、「世界を変える人の人生ってどんなだろう?」と
最初に思っていた自分の、この当事者感のなさよ、である。

カリスマやバイブルに期待なぞするな。
君自身が、送りたい人生を決め、そのために考え、動け。
そして、この世界を動かして見せろ、とずっと訴え続けている。

「みなさんに宿題を出します」
最後、瀧本さんはこう言う。

2020年6月30日に、またここで会いましょう

そしてその時までに、何か挑戦してきてください。
そして、日本はどう変わったか、持ってきて答え合わせしましょう
」と。

きっと会場はざわついたに違いない。
瀧本さんと言う方のメッセージを聞きたくて、集まった20代以下の人たち。
8年後に向けた宿題が出されるだなんて思ってもみなかっただろう。
でもここで、「8年後、何か変えられているんじゃないだろうか?」
と言うイメージが、グッと高まってくる。
ワクワクして、震えるんじゃないだろうかと思う。
きっとそれぞれの想いを胸に、会場を後にしたんだろう。

そして、迎えた2020年6月30日。
この日に、瀧本さんは来なかった。来れなかった。
それはそうだ。
瀧本さんは47歳と言う若さで2019年8月に亡くなられている。
すでにこの世にいない。

なんて宿題を残して、答え合わせもせず去ってしまったんだ、と思うが、
不謹慎かなと思いつつも、瀧本さんらしいと言うか、
その信念に適った生き方な気はした。

冒頭で触れた「自燈明」は、仏陀の弟子たちが、師の死際に
「あなたが死んでしまったら、僕たちはこれから何を頼って生きていけばいいのですか」と問うた時に、
「私が死んだら、自分で考え自分で決めて生きろ。
大事なことは全て教えた」と突き放したと言う。
「自ら明かりを燈せ」と。
まさに、瀧本さんも同じ生き様だったのかな、と感じる。


読了後に「愛」を感じた一冊だった

初めて手にとってから、本当に面白くて好きな本だなと感じて、
何度となく読み返して、毎回感激しては、
自分はどう生きたいんだっけ、と考える。

そんなループを繰り返しながら、
私はなぜこの本をこれまでに好きなんだろうか、と思い返してみた。

講演を収録しているとあって、
本当に瀧本さんの声が聞こえてくるかのような(実際聞いたことないけど)
軽く読めてしまう、このテンポの良さは確かに面白さの一因である。

そして、色々脱線するのに全てつながっているので、
ただただ頭良ッ話ウマすぎやろ、と言うのもある(このコメントが頭悪い)

あとは、交渉力のように「武器」として使える知識を提供してくださると言うのが、大変ありがたい。

…のだが、私はこの本を、あまりビジネス書っぽく受け取ってないな、と思った。

なんだか、言葉にしづらいのだが、「愛」だな、と思った。

自己啓発の部類かもしれないけど、何か、それとも少し違うような。

「答えなんて、ありませんよ。絶対に。だから、自分で考えて決めなさい。でも、君たちなら、できますよ。」

こう言う、瀧本さんのスタンス。
未来に、若者に、めちゃくちゃ期待している感じ。

後書きにも書いてあるが、瀧本さんは投資家という職業柄、
超ロジカルで理屈な人というイメージがあるものの、
実際は、情に溢れてウィットと愛嬌に富んでいる人らしい。
なんか、わかる。読んだだけで伝わる。
いや、それを再現した出版社や編集者がいたんだなと思うと、
それも愛やん、とか思う。

温度のある本だったな、と思うので、この本がやっぱり好きだ。

熱い人、その熱に当てられたい人には、オススメの本である。





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