【創作大賞2024】応募作品:哭き虫の雀士@マチルダ
異次元世界の近未来麻雀小説
麻雀を知らないからこそ創れる世界! 麻雀の常識を覆す近未来の新中華麻雀小説! 麻雀が好きな方は絶対見ないでください!
プロローグ
情報監視社会の現代において、誰からも気付かれずに情報発信することは困難を極める。職業作家の俺は、自分が書いた小説を一人でも多くの読者に届けなければ食っていけないという現実と、情報監視社会から逃れなければならないという矛盾に苛まれていた。
そこで、俺はマーケティング専門のAIを構築し、誰からも読まれない小説を書くためにはどうすれば良いのかを調査した。ブラウン管のモニターに映し出された、緑色にブリンクしている文字入力プロンプトの『C:>』のカーソルに、『最も人気のない小説のジャンルは何か?』と質問した。
するとオープンリールの磁気テープが勢いよく回りだし、大型冷蔵庫のような大きさのコンピュータは、赤と緑のLEDランプをチカチカと点滅させた。このチカチカに何の意味があるのかは俺には分からない。多分、AIが一生懸命仕事をしていることをアピールしているのだろう。
どれくらいの時間が経ったのだろうか? オープンリールがピタリと止まった。どうやらAIが最も人気の無いジャンルを分析し終えたのだろう。大きなコンピュータからは、勢い良く紙テープが吐き出されたので、俺はその結果を急いで読んでみた。
ハードボイルド小説、バーボン、煙草、博打、陳腐なサイボーグSF、実験小説などの要素を組み合わせることで、読まれない可能性が高いという結論に至ったことが分かった。
俺はこれらのネガティブな要素を組み合わせて、日本であまり関心のない『AI倫理』のマイナス要因を、『バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫』という別のマイナス要因と組み合わせた結果、『マイナスにマイナスを掛けるとプラスになる』という算数の原理に基づき、小説を書いたところ読者数が大幅に増加したのだ。
『バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫』という最低にくだらない小説を連載していると、読者から『さらに人気のない要素を加えて、麻雀小説にしてほしい』という無茶な要望が寄せられたのだ。
俺は麻雀の点数計算ができず、雀荘にも行ったことがないので、『麻雀の勝負がない麻雀小説が成立するかどうか検討してみる』と回答し、『近未来麻雀小説』シリーズを完成させた。
近未来麻雀小説(1)新華強北の四天王
22世紀初頭、中国香港自治国『新華強北』。その都市の頂は、かつての華洋混じりの華麗さから遥か遠く、深淵に沈んだ灰色の塔が広がっていた。新華強北はかつて『中国の秋葉原』と称され、電子機器の中心地であった。だが、今は無秩序に領土を広げた台湾の一部となり、荒廃したディストピア世界が広がっていた。
ここでは、人間に替わり、21世紀末の終末戦争の終了でミッションを失った荒くれ功夫ロボットたちが新中華麻将で闘っていた。中華仮想通貨が賭けられ、電脳牌が飛び交う。新中華麻将のノスタルジックゲームでは、21世紀初頭まで使われていた中華麻将の牌がディールされることもあるが、1から∞の数字と簡体字、絵文字の電脳牌が存在し、その組み合わせによって点数が決まる。
あがりの点数は、麻雀卓を制御しているAIの采配によって決められるルールだ。ゲームの基本は、14~128枚の手牌を何らかの規則性のある配列に揃えることで、最初に手牌に何らかの法則を見出した雀士にAI雀卓が判定した点数相当の、中華仮想通貨が敗者から勝者へと自動的に移動する。
新華強北の裏中華麻将界では、特に注目されている雀士が四人いた。
まず、青い髪のマチルダ。THEYは一度も中華麻将をしたことがないため『無敗の雀士』と呼ばれるツンデレ猫型アンドロイドだった。THEYが『ツン』、『デレ』と哭くとき、それは通常の『ポン』、『チー』の宣言を意味し、『が~ん』は『カン』を意味する。THEYのあがるときの宣言、『御無礼ロンにゃり』、『御無礼ツモにゃり』は、裏中華麻将界では『哭きの青猫』と呼ばれ、恐れられていた。一度も中華麻将をしたことが無いので実力は解らないが、『微博(中華版ツイッター)』では『無敗の雀士』の噂が何度も『转发(リツイート)』されるごとに、数万もの『賛(いいね!)』が『咔嗒声(クリック)』されていた。
次に、胡椒くん。THEYは闇金融のソドムバンク所属で、守銭奴の鈍才大学・梅尾泥作教授によって開発されたイカサマ雀士だ。負けそうになると、雀荘にガソリンを撒き、放火するほど凶暴な極悪ロボットであった。
そして、勝麻勝代。AIの基礎であるベイズの定理を理解したと自負しており、ベイズ確率で日式麻雀に勝てると信じて疑わない。かつて日本にいた無敗の雀士が全身義体化され、脳には未完成のイーロン・マスクの脳埋め込みチップを搭載していた。
最後に、モリエホン。前科者でありながら、嵩山少林寺のロボット工場で生産された中華人民軍功夫ロボット最強闇雀士として、优酷(中華版YouTube)では無敵の雀士として知られていた。
四天王の戦いは、新華強北の雀荘で繰り広げられ、その勝敗は地下世界の支配権をも揺るがす。混沌とした新華強北の街角、かつて人間が生きていた証とも言える雀荘で、戦いは火ぶたを切って落とされた。
『さあ、練習対局始めるにゃ!』青い髪のマチルダが宣言し『ツン』、『デレ』の声が雀荘の空気を弾ませた。特異な哭き方で知られるTHEYだが、その動きは絶妙で、なぜTHEYが『無敗の雀士』と称されるか一目瞭然だった。
胡椒くんはその隣で油断なく牌を弾いていた。THEYの背後には闇金融のソドムバンクの闇が広がっており、THEYが負ければ、その後に待ち受けているのはただの敗北ではない。
勝麻勝代はその局を冷静に見つめていた。THEYの頭の中では、ベイズ確率に基づく計算が絶えず行われており、次の手を予測していた。
モリエホンは、前科者の風格を振りまきながら、それでも確かな技術で局面を支配していた。THEYの操るロボットアームは、あらゆる局面で最善の手を打つ。
本ちゃん一局目のマチルダの配牌は[犬] [3] [5] [7] [猫] [13] [狸] [19] [牛] [29] [狐] [37] [41]だった。下家のベイズの勝麻が[2]を切ると、マチルダは『デレ』と哭いて[3] [5] [2]の牌を晒して[犬]の牌を捨てた。
ベイズの勝麻は『[2] [3] [5]はチーじゃない!』とAI雀卓に抗議したが、AI雀卓は勝麻に対して『それってあなたの感想ですよね?』と、まるで相手にされなかったので、ムカついて『一つ晒せば自分を晒す』と捨て台詞を吐いた。
対面のモリエホンは、[犬]を哭くべきかどうか少し考えたが、もう少し流れを見ることにして黙って局面を見守った。
上家の胡椒くんは、自摸ってきた[17]の牌を切り、モリエホンは[犬]を切った。
二巡目の勝麻の捨て牌は[11]だった。マチルダの目が再びデレっと緩み『デレ』と哭いて[7] [13] [11]の牌を晒して[猫]の牌を切った。
ベイズの勝麻は『[7] [11] [13]は、チーじゃない!』と重ねてAI雀卓に抗議したが、AI雀卓はベイズの勝麻に向かって『それってあなたの感想ですよね?』と、またしてもまるで相手にされなかったので、『二つ晒せば全てが見える』と捨て台詞を吐いたが、マチルダが新中華麻将のルールが分かってないことを見抜いたと内心で勝ち誇っていた。
マチルダの手牌には[狸] [19] [牛] [29] [狐] [37] [41]が残っていたが、三巡目で[13]を自摸ってきたので、[狸]を切った。胡椒くんは[馬]を切り、勝麻が[31]を切ると、マチルダは『デレ』と哭いて[29] [37] [31]の牌を晒して[狐]を切った。ベイズの勝麻は、AIチップを搭載していても、どんな牌が何枚このゲームで使われているのかすら把握できない。初めからベイズ確率など無意味だったが、『三つ晒せば地獄が見える』と口惜しみを言った。
四巡目の勝麻の捨て牌は[23]だったので、マチルダは当然のごとく『デレ』と哭いて[13] [19] [23]を晒し[牛]を捨てて、[41]の裸単騎になった。胡椒くん、モリエホン、勝麻の三雀士は、『マチルダは数字だけ並べればよいと勘違いしている』と同じことを考えて、自分の手牌に集中していた。
勝麻の手牌は[6] [6] [8] [8] [12] [12] [41] [55] [55] [100] [100] [121] [121]で[41]が入れば七対子だが、どんな数字や漢字や絵文字が何個入っているかわからない新中華麻将で、[41]がでる確率など計算しようがない。下手をすると、このAI雀卓には[41]が手牌の一枚しか入っていなくて、あがれない可能性もあるのだ。この状態で[133]を自摸切りするのは、癪に障るので、自摸って来た[133]を手牌と入れ替えドヤ顔で『リーチ』を掛けて[41]を切った。
その瞬間のマチルダの『御無礼、ロンにゃり』の一言に、胡椒くん、モリエホン、勝麻の三雀士は口を揃えて『お前、それチョンボだぞ!』と言ったが、AI雀卓とマチルダは、そうは考えなかった。
AI雀卓の判定は『トリプル役満』だった。胡椒くんはブチ切れてガソリンに手を掛けていた。モリエホンは『このAI雀卓壊れてるぜ』と言い、勝麻は『なんでこんなバラバラな数字がトリプル役満なのよ!』とAI雀卓に噛みついた。
AI雀卓ディーラー・ロボットは『この役の規則性が分かりませんか? マチルダの牌をよく見てください。[2] [3] [5] [7] [11] [13] [17] [19] [23] [29] [31] [37] [41]は、連続素数でトリプル役満です』
一局目にしてハコ割れで勝負は終了した。
付録:なぜ素数が重要なのか?
素数はコンピューターサイエンスやAIにおいて様々な形で使われています。以下にいくつかの例を挙げます。
ハッシュ関数:ハッシュ関数は、任意のサイズのデータを固定長の一意の値に変換する機能を提供します。これはデータベースでの高速な検索や、データの完全性検証(チェックサム)などに使われます。良好な分布特性を得るために、一部のハッシュ関数では素数が利用されます。
乱数生成:コンピュータでは乱数生成の際に頻繁に素数が利用されます。素数周期を持つ線形帰還シフトレジスタ(LFSR)は、ハードウェアレベルでの乱数生成に使われることがあります。
データ分析と機械学習:素数を使って特徴量エンジニアリングを行うことで、パターンを見つけ出すことがあります。素数の性質は、データに内在する特定の構造を明らかにするのに役立つことがあります。
並列処理と分散システム:システムの負荷分散に素数が使われることがあります。例えば、複数のサーバーにデータを分散する際、サーバーの数が素数であればデータは均等に分散しやすいです。
暗号の基礎:素数は暗号学、特に公開鍵暗号の設計において中心的な役割を果たします。公開鍵暗号では、暗号化と復号(データの暗号化と解読)のための鍵が異なり、暗号化鍵(公開鍵)は公開され、一方で復号鍵(秘密鍵)は秘密に保持されます。
以上のように、素数はコンピューターサイエンスやAIの多くの領域で、そのユニークな性質が活用されています。
つづく…
武智倫太郎
#創作漫画部門 | #コミックエッセイ部門 | #ツンデレ
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