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近未来麻雀小説(5)お白州麻将裁き

これまでのあらすじ

 解離性同一症の主人格が新華強北町奉行の遠山金太郎で、交代人格が裏新中華麻将界で『打ちの金さん』として知られている雀ゴロの率いる新華強北町奉行所の十八羅漢がマチルダたちをお縄にした。ところが、お白州では主人格の遠山金太郎裁判長は違法捜査と証拠不十分で公判を維持できなかったので、麻将裁判所の『お白州麻将勝負』で裁判長のハコを飛ばすことができたら、嫌疑の者どもを御赦免することを条件として、判決は第四回戦で行われることになった。

第四回戦

 新中華麻将はセガNET麻雀MJのように『CPU対戦』をクリックすると『CPUと一人で対戦!』で『東風(四雀士対局)』、『三麻(三雀士対局)』が選べるだけでなく『五麻』、『六麻』~『百麻』でも『二五六麻』でも対局できる。電脳牌は無数に存在し、牌や役の種類も無限にあるので、一つの雀卓で何人でも参加できるのが新中華麻将の特徴である。

 解離性同一症の新華強北町奉行は、主人格の遠山金太郎で打つか、交代人格の打ちの金さんとして打つか自問自答で吟味の上、主人格の遠山金太郎裁判長として対局することにした。

 遠山金太郎裁判長は厳かな声で『被告雀士ども。この裁判では公正を保つため麻将奉行を審判兼ディーラーと定め、被告雀士どもの持ち点は25,000の30,000 PayPayポイント返しで、拙者の持ち点は、新華強北町は百万石故1,000,000PayPayポイントとする。お主ら被告雀士どもが、コンビ打ちのイカサマをすることなど、まるっとお見通しなので、この半荘では、無し無し無し無し縛りであるぞ』と宣言した。

 イカサマが専門の闇金融のソドムバンクの胡椒くんは、イカサマ無し、スタンド使い無し縛りでは勝ち目がないので、『そりゃぁ、あんまりだ。イカサマ無し、スタンド使い無しで、裁判長だけが1,000,000 PayPayポイントだと裁判長のハコが飛ぶわけないじゃないか!』と、遠山裁判長に向かって抗議した。

 すると審判の麻将奉行は、『はい、胡椒くんチョンボ。まだ親決めしてないけど、法廷侮辱罪チョンボで12,000点振り込み』と宣言して、胡椒くんの卓からチップを12,000点回収した。これで胡椒くんの持ち点は、25,000 - 12,000点で一気に13,000点に下がった。

 遠山裁判長は『このルールで納得できぬのなら十八羅漢も雀士に加えて、二十三麻ルールでも構わんが、それでも構わぬのか? 十八羅漢全員が一役あがりを狙うとお主らには勝ち目がないのだぞ』と鷹揚に言い放った。

 ベイズの勝麻の計算では、二十三麻ルールでは仮に被告雀士四名がコンビ打ちしても、十八羅漢の誰か一名が一役あがりを繰り返すか、わざとチョンボをすると、遠山金太郎裁判長の1,000,000PayPayハコが飛ぶ前に、半荘が終了して有罪が確定してしまうことは明らかだったので、『遠山裁判長。わたしは被告雀士四名に遠山裁判長を加えた五麻に意義はございません。但し、被告雀士のうち誰か一名だけのハコが飛んだ時は、その者のみを厳罰に処して、他の三被告雀士は無罪放免にしていただくというルールでは如何でしょうか?』と丁寧に質問した。

 遠山裁判長は、ベイズの勝麻の提案に対して、『ほう。既にチョンボで13,000点になっておる胡椒くんをハメに行きおったか。囚人のジレンマ問題では裏切りが正解とはいえ、胡椒くんの弱みに付け込むとは、お主も悪よのう』と、裁判官というよりも寧ろ、まるで時代劇に登場しそうな悪代官のような悪巧みの表情で、『麻将奉行、このルールで異存ないな』と念を押した。

 麻将奉行は万が一にも遠山裁判長が100万点を飛ばしてしまい、新華強北町が財政破綻してしまうと、自分も失業してしまうことが目に見えていたので、『勿論でござる。勝負のルールは、親の遠山裁判長の御一存で一向に差し支えござりませぬ』と答えた。

 明らかに自分をハメに来たことに気が付いた胡椒くんは、『何勝手なことぬかしやがる! そもそも、まだ、親決めしてねぇじゃないか!』と抗議した。

 すると審判の麻将奉行は、『はい、胡椒くん、またチョンボ。まだ親決めしてないけど、法廷侮辱罪チョンボで12,000振り込み』と宣言して、胡椒くんの卓からチップを更に12,000点回収した。これで胡椒くんの持ち点は、13,000 - 12,000点で一気に1,000点に下がり、立直しか掛けられない状態になってしまった。しかも、自分以外の誰かが満貫(子は8,000点で親はその1.5倍の12,000点)を自模あがりされると、一発でハコが飛んでしまう。なぜなら、自分で引いた牌であがると、五麻ルールではあがった雀士以外の四雀士が点数を四等分して払うので、子の8,000 ÷ 4 = 2,000点通しとなる。
∴1,000点しか持っていない胡椒くんは、1,000 - 2,000 = -1,000点でハコ割れなのだ。

 遠山金太郎ならびに代打ちの金さんのスタンドの桜吹雪は、桜の花びらを散らせるだけのスタンド能力しかなく、積み込み能力をもっていなかった。それでもこれまで代打ちの金さんが、代打ちの雀ゴロとしてとしてやってこれたのは、雀クマたちの間では忖度制度により、接待麻雀と同じく、雀クマたちがわざと代打ちの金さんに振り込んでいたからだった。当たり牌をロンする能力しかなかった桜吹雪のスタンドを使えない遠山裁判長が、唯一知っていたのは、新中華麻将のルールで一番簡単な数字麻将だった。

 数字麻将のルールは非常に簡単で、赤、黒、緑の数字が書かれた牌の『全赤数』、『全黒数』、『全奇数』、『全偶数』、『全二桁数』、『全三桁数』のような簡単に覚えられる役であがれるようになっていた。フレンチルーレットと同じで、緑の数字が入っている確率は、1/37(フレンチルーレットでは、0のみが緑で、赤の数字が1, 3, 5, 7, 9, 12, 14, 16, 18, 19, 21, 23, 25, 27, 30, 32, 34, 36で、黒の数字が2, 4, 6, 8, 10, 11, 13, 15, 17, 20, 22, 24, 26, 28, 29, 31, 33, 35で、0~36まで37種類ある。

 数字麻将では全ての数字に緑牌があるが、黒牌や赤牌はその36倍あるので、緑牌が二枚入っているだけでも一役で、緑牌が一個増えるごとに一翻ずつ増えていく、赤ドラ的な懸賞牌だ。

 遠山裁判長が『モリエホンとマチルダは異議なしと見做し、これより数字麻将で吟味いたす。麻将奉行、配牌の儀に入れ』と開始宣言をすると、ヘキサゴン雀卓(六席あるのでディーラーの麻将奉行以外に五人座れる)のディーラーポジションに付いた麻将奉行が牌をマニピュレーターでシャッフルして、それぞれの雀士と遠山裁判長に配牌した。

麻将奉行とヘキサゴン雀卓

 遠山裁判長の手配は赤数牌11個に、黒数牌2個に、緑数牌1個だったので、どこからともなく『裁判長はトップなので、ここは軽くあがって終わらせたい局面ですよね』と実況中継のアナウンスが入った。

 遠山裁判長は全赤数字狙いなので、緑数牌をもう一枚引く可能性を残して、【黒55】を捨牌すると、すかさずモリエホンが、『ポン』と【黒55】【黒55】【黒55】を晒して【緑1】を捨牌した。

マチルダが『が~ん』と【緑1】牌を哭いたところ

 マチルダは『が~ん』と哭いて【緑1】【緑2】【緑4】【緑8】を晒して【赤9598】を捨牌した。
 
 胡椒くんは山から牌を自模ると一枚だけ残っていた1,000点チップでダブリー(ダブル立直のこと)を掛けながら【緑16】を捨牌した途端に、マチルダが再び『が~ん』と哭いて【緑16】【緑32】【緑64】【緑127】を卓に晒した。1/37の確率でしか入っていない緑牌をこれだけ晒しただけでも既に役満だったが、これが【緑127】でなく【緑128】だと、2のn乗の10倍役満まで乗る可能性があったので、遠山裁判長は胸をなでおろした。

 ダブル立直一発あがりは阻止されたが、次の自摸であがれる可能性のあった胡椒くんが引き当てたのは【緑4064】だったので自摸切りした。これで胡椒くんの全奇数あがりか、全赤・黒数あがりが見え見えになってしまったが、ここでマチルダが三度『が~ん』と哭いて【緑508】【緑1016】【緑2032】【緑4064】を卓に晒した。

 下家の勝麻には、まだ一度も牌を引く機会はなかったが、マチルダの下家の胡椒くんは【黒851】を捨牌した。これで胡椒くんの待ちは、全偶数、全奇数、全黒数の目が無くなったので、あがり役は全赤数の可能性が極めて高い状態となった。

 胡椒くんの下家のモリエホンは、自模切りで【黒19】を捨牌した。その下家のベイズの勝麻はダブリーで【黒2622】を捨牌して、遠山裁判長にプレッシャーを掛けた。

 胡椒くん、モリエホン、ベイズの勝麻の三家が赤数牌狙いの可能性が高いところで、赤数牌を切るのは流石にまずいと察した遠山裁判長は、マチルダが裸単騎なのを忘れて、迷わずに安全牌と思って【緑8128】を捨牌した。

 するとマチルダが『御無礼ロンにゃり』と言って手牌の【緑254】をパタリと卓に晒した。

 100万PayPayポイントのチップを持っている遠山裁判長は、麻将奉行に向かって悔しそうに『くそっ、緑一色数は何倍役満なんだ?』と質問した。

 麻将奉行は『遠山裁判長。誠に残念ながらマチルダの役は緑一色数ではありません。ちゃんと数列を見てください。【1】【2】【4】【8】【16】【32】【64】【127】【254】【1016】【3032】【4064】【8128】は、8128の完全数です。【緑一色完全数】は33倍役満です。子の33倍役満は、32,000 ✕ 33 = 1,056,000点なので、遠山裁判長のハコは飛びました』

 遠山裁判長は『こ、これにて一件落着ぅ~』と言わざるを得なかったが新華強北町の財政はこの一局で破綻してしまった。

付録:完全数とは何か?

#完全数 とは、その数自身を除く #約数 の和が元の数と等しい数のことです。8128が完全数であることを示すには、8128自体を除く約数の和が8128に等しいことを確認すればよいです。 

8128の約数は次のとおりです。
1
2
4
8
16
32
64
127
254
508
1016
2032
4064

上の約数を全て足し合わせると、次のようになります。
1+2+4+8+16+32+64+127+254+508+1016+2032+4064=8128

つづく…

武智倫太郎

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