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近未来麻雀小説(4)代打ちの金さん

これまでのあらすじ

 一度も中華麻将をしたことがないため『無敗の雀士』と呼ばれていたツンデレ猫型アンドロイドのスタンド♬Have a Cigarが積み込みアリの『萌え萎え新中華麻将』で、親の10倍役満を自模ってしまい、48,000✕10倍の480,000 PayPayポイントを獲得した。この新中華麻将荘は新装開店で、1ポイント1中華仮想通貨還元期間中だったので、子の三雀士のハコが一局一巡目で飛んでしまった。

新中華麻将裁き

新キャラ登場:遠山金太郎。解離性同一症で交代人格の『代打ちの金さん』は、裏新中華麻将界では有名な雀ゴロで、主人格が新華強北町奉行の遠山金太郎。解離性同一症とは多重人格のこと。攻殻機動隊ファンに解り易く説明すると一つの全身義体に複数のゴーストが宿っている状態。漫画やアニメや映画ではあるある的な設定である。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』や『アルジャーノンに花束を』原作者のダニエル・キースの『24人のビリー・ミリガン』も有名)
 
 ジョジョファンに解り易く説明すると遠山金太郎がディアブロで、代打ちの金さんがドッピオの関係である。

とうおるるるるるるるる、とうおるるるるるるるるん

『もしもし、はい 代打ちの金さんです。えっ、モリエホンの旦那? なにぃ? 親に10倍役満自模られっちまっただとぉう!』と、通話できるはずがない草履の受話器に話しかけながら、代打ちの金さんが雀荘の暖簾を潜って現れた。

 代打ちの金さんは、新華強北町奉行の遠山金太郎が自ら潜入捜査を行い、一儲けした裏雀士にタカリに来ることで、裏新中華麻将界の鼻摘み者だった。

 ところが、雀荘デビューしたばかりのマチルダは、代打ちの金さんは微博(中華版ツイッター)の噂でしか存在していない都市伝説だと思っていたので、ツンモードにディスパッチ(IT用語)して『はぁ、あんたバカじゃないの! ここをどこだと思ってるのよ。ふんっ!』とあしらった。

 タカリ慣れている代打ちの金さんは、マチルダに向かって『お嬢ちゃん。ちょっと見たところ未成年みたいだが、いったい幾つなんだい?』と尋ねた。

『あ、あんた本当にバカね! アンドロイドに歳を聞くなんて、あんたにはデリカシーってもんがないわけ! 製造されたばかりだから、満年齢なら零歳に決まってるじゃない!』

『数え年なら1歳か…。そんなに若けぇんじゃぁ知らねぇだろうが、さっきブルートゥース通信でモリエホンの旦那が、代打ち頼みたいって通信ってきたから来てみたんだが、代打ちの金さんの面子(メンツ)を拝んで、タダで帰れると思っているのかい?』

 モリエホンはそんなリクエストなどしていないし、そもそも22世紀にブルートゥース通信など使われていなかった。だが、前科者のモリエホンは、また、お白洲で裁かれると、今度はバッテリーが切れるまで、刑務所に叩き込まれてスクラップにされることが目に見えていたので、『えっ、え~。そう言えば、さっきブルートゥース通信で代打ち頼みやしたが、100メートル以上電波が飛ばねぇんで、金さんに代打ちに来てもらえなかったら、どうしようかと冷や冷やしとったでやんす』と、その場を取り繕った。

 マチルダは『じゃぁ、あたいは今日はこれで、あがらせてもらうにゃり。麻将やりたかったら、あたいの代わりに打っていけばい~ぃじゃない。ふん!』と帰ろうとした。すると、タカリ慣れている代打ちの金さんは、『お嬢ちゃん、そりゃぁねぇぜ。この雀荘じゃ勝ち逃げってのはぁ無しだぜぇ。なぁ、AI雀卓ロボちゃんよぉ』と凄んで見せた。

 AI雀卓ロボは『いいえ、このゲームは、アリアリアリアリアリアリアリ~。アリーヴェデルチ!(さよならだ)ルールですから、勝ち逃げアリです。まさか、アリーヴェデルチ!(さよならだ)が、ジョジョの奇妙な冒険のブチャラティの台詞のパクリとだと、イチャモンでもつけに来たんですか?』と迷惑そうに回答した。

 代打ちの金さんは『アリーヴェデルチ!(さよならだ)縛りなら、仕方がねぇな』と一瞬引き下がった素振りを見せてから、突然、豹変して、『やい、やい、やい、この代打ちの金さんの桜吹雪、見事散らせるもんなら散らしてみぃ!』と啖呵を切って、桜吹雪のスタンドを出現させた。

代打ちの金さんと桜吹雪のスタンド

 すると、いきなり待っていましたと言わんばかりに、周囲から十八体の功夫ロボットが、棒高跳びで雀荘に飛び込んできて、棒でマチルダたちの周囲を取り囲んだ。

少林寺十八羅漢・功夫ロボット

『お前ら少林寺十八羅漢? フルムービーがHDでYouTubeにあげっぱなしになってるって、中華著作権法は一体どうなってるにゃり? しかも、再生回数が870万回越えにゃりぃ!』

『お嬢ちゃん。そんなことも知らねぇのかい? 新華強北の万里の長城じゃぁ、优酷(中華版YouTube)の検閲はあっても、異国のYouTubeはExpress VPNを使わなけりゃ観れねぇんで、知ったこっちゃねぇのさ』

 少林寺十八羅漢ロボは『新華強北町奉行所だ! 神妙にせぃ!』と権力をチラつかせて雀士たちを取り押さえ、お白洲に連れて行って吟味筋(麻将裁判)に掛けた。

 お白洲には【至誠四槓子】と書かれた掛け軸が掛けてあり、『新華強北町奉行ぉ~、遠山金太郎様、ご出座~ぁりぃ!』の大声と、銅鑼のサウンドと共に遠山奉行が登場してきた。

 新華強北町奉行の遠山金太郎裁判長は、『これより新華強北裏新中華麻将賭博について吟味致す。一同の者、面子(メンツ)をあげい』というと、お縄になった三人の雀士は面子をあげたが、不当逮捕に怒っていたマチルダだけは、初めから面子を上げたままツンと横を向いて怒っていた。

『さて雀士ども、麻将賭博法違反であること既に吟味の結果、明白であるが、左様相違無いか』と、検察官不在なので、奉行による起訴状朗読と罪状認否が行われ、人定質問も黙秘権の告知も無いまま冒頭手続きが進行した。しかも、推定無罪ではなく、遠山金太郎裁判長の推定有罪バイアスが掛かった状態で裁きが進行するのであれば、21世紀初頭の日本の刑事裁判と同じではないか。

 モリエホンは『さて何のことやら』と惚け、胡椒くんは『滅相もございません…。何かの御間違いでございましょう』と惚け、ベイズの勝間は、『新中華麻将賭博など全く身に覚えがございませぬ。お奉行様、全くの濡れ衣でございまする』とシラを切って容疑を否認した。

 マチルダはお白洲に連れてこられていること自体にムカついていたので、『お奉行。異議を申したてるにゃり。十八羅漢はお縄に掛けるときに、中華憲法修正第5条ミランダ準則の『黙秘権』も、『弁護士の立会いを求める権利』も、『経済力が無ければ公選弁護人を付けてもらう権利』の告知もしなかったにゃり。しかも、このお白洲には、公選であれ私選であれ、弁護人もいないにゃり。さらには、検察官も、陪審員も、傍聴人もいないとは、どうゆう暗黒裁判にゃり?』と舞台設定に対して異議を申し立てた。

 遠山金太郎裁判長は痛いところを突かれて心証を害した。なぜなら、人治国家で法治国家の屁理屈を出されると、奉行が裁判官と、検察官を兼務しているうえに、少林寺十八羅漢が、捜査令状も取らずに雀荘に不法侵入したことも問題視されかねない。しかも、ここで遠山金太郎裁判長が、代打ちの金さんによる逮捕劇だったと真実を吐露してしまうと、お奉行自身の特別公務員職権濫用罪のブーメランが帰ってきてしまうので、お決まりの桜吹雪のスタンドを披露する技も使えない。なぜなら、このままお白州を続けてしまうと、奉行による不法逮捕による監禁罪で、奉行自身が奉行を裁くという訳の分からない裁判に発展しかねない。

 遠山金太郎は自分が何を考えているのか混乱してしまい、つい何時もの癖で『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁーっ。黙って聞いてりゃ寝ぼけた事をぬかしやがって! この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねぇぜ!』と、代打ちの金さんのスタンドの桜吹雪のスタンドを出してしまった。

主人格の遠山金太郎と桜吹雪のスタンド

 ところが、四人の雀士全員は口を揃えて『そんなものに、見覚えはございません』と証言し、他に証人もいなければ、証拠もないので、遠山金太郎裁判長は無罪判決を下すしかなかった。

 ここで話が終わってしまうと続編が書けなくなってしまうという作者の都合もあったので、遠山金太郎裁判長は、『このお白州は麻将裁判所である。法による裁きができないときは、お白州麻将勝負で見事に裁判長のハコを飛ばすことができたら、嫌疑の者を御赦免と致す』と、判決は第四回戦に上訴されることになった。

付録:ゲームの論理

 ゲーム論理や、囚人のジレンマ問題くらいは、誰かがnoteで説明してるはずなので、リンクだけ張っておけば済むかと思いましたが、まともな説明が見つけられなかったので、面倒ですが自分で説明してみます。

 ゲーム理論は、囚人のジレンマや、ナッシュ均衡などを理解するためのフレームワークを提供します。具体的には、ゲーム理論は複数のプレイヤー(あるいは意思決定者)が相互に影響し合いながら最適な戦略を選択する状況を扱います。

 囚人のジレンマは、ゲーム理論の一例であり、被疑者が自身の最善の利益を追求すると、全体としては非効率的な結果をもたらす状況を示します。これは被疑者個別の最適な戦略が、全体の最適な結果とは必ずしも一致しないことを示しています。

 この話においては、被告人(ロボットやアンドロイドでも刑事事件の場合は、被告ではなく被告人と呼ばれる)の四雀士が全員起訴容疑を全面否認する行為を、囚人のジレンマ問題の一種と考えることができます。被告人が全員無罪を主張し続ければ、全員が証拠不十分で無罪判決になる可能性があります。しかし、一被告人でも他の被告人を裏切って反省をしていることを奉行にアピールするような行動を取ると、自身は情状酌量の余地が認められ軽い罪で済む可能性がありますが、他の被告人は重い罪で処罰される可能性があります。

 このお白洲の設定では、証拠は何もなく、証人は奉行だけなので、被告人全員が無罪を主張し続けることが全体最適となります。しかし、個々の最適を追求すると裏切る方が、利益が大きいため、全員が否認し続けるかどうかは、被告人それぞれの戦略や相互信頼の条件によって左右されます。

 このような囚人のジレンマ的な状況は、『嘘食い』、『カイジ』、『ライアーゲーム』のような漫画の基本原則です。

 ナッシュ均衡は、ゲーム理論の一部であり、全ての被告人(嫌疑の者)が自分の戦略を変えることで利益を増やすことができない状態を指します。これは、囚人のジレンマのような状況でしばしば観察されます。つまり、各雀士が自分自身の最適反応をとると、その結果としてナッシュ均衡が達成され、誰もが戦略を変えるインセンティブがなくなるのです。ナッシュ均衡の意味が分かってから、映画ビューティフルマインドを観ると、どんな映画だかわかりやすいです。

 AI倫理問題では、AIがどのように意思決定を行い、どのような戦略を選択すべきか、その結果としてどのような影響が社会全体に及ぶかという問題に直面します。ゲーム理論や囚人のジレンマ、ナッシュ均衡などは、AIが最適な戦略を選択する際の問題解決のためのフレームワークを提供します。

 具体的には、AIが最適な戦略を選択するためにゲーム理論を使用し、その結果としてナッシュ均衡を達成するかもしれません。しかし、その結果が囚人のジレンマのように全体としては非効率的な結果をもたらす可能性があります。そのため、AIの設計者や利用者は、このような可能性を理解し、そのような結果を回避するようなAIの倫理規範を設定する必要があります。

 ちなみに、代打ちの金さんから強引にAI倫理問題にこじつけることを、詭弁を弄すと言います。

 これらの概念は、意思決定のプロセスとその結果に対する理解を深め、より良い戦略選択や倫理的なAIの開発と運用を可能にするための重要なツールとなります。

つづく…

武智倫太郎

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