見出し画像

そして誰も…なったシリーズ

第一部:そして誰も読めなくなった

by アガサ・ムッチー

 自然言語処理技術が日々進化し続ける中、2013年『Summly』『Wavii』の買収で話題になった文章要約技術が再注目を浴び、100万文字のテキスト情報を、X(Twitter)単位の140文字にまで要約する能力を持つようになった。これは、人々が求めていた瞬時に情報を理解するための技術革新として、日本中から大歓迎された。

 しかしながら、その革新の影には人々の読解能力低下問題が潜んでいた。多くの人々は、140文字の情報すら煩わしいと感じるようになり、さらに短い要約のニーズが高まった。それに応えるように、文章要約技術は1,000万文字を70文字にまで要約する能力を発揮するようになった。

 俳句の世界は奥が深い。五・七・五の17文字で、四季折々の自然、喜怒哀楽、情緒、人間模様、社会、時代、更には宇宙観や死生観も表現できるとされている。

 しかし、日本が世界に誇る『全人類の叡智の総和の一万倍を誇る』超知能(ASI)『誤岳』は、オッカムの剃刀の原理に基づき、17文字でも冗長であると論証し『〇』一文字で森羅万象を表現可能であると結論づけた。これは、自己言及的逆説の一例である。なぜなら、『〇』は何も表さないようでいて、実は全てを表す可能性を秘めているからだ。『誤岳』のこの結論によって、世界中の哲学者や言語学者は大混乱に陥った。しかし『全人類の叡智の総和の一万倍を誇る』超知能を論破することなど、どんな学者でも不可能であることは自明の理である。そして誰も読めなくなった。【完】

『AIは全人類の叡智を総和したレベルの少なくとも1万倍になる』 by 孫正義

超知能:スーパーインテリジェンス(ASI:Artificial Superintelligence)

第二部:そして誰も話せなくなった

by アガサ・ムッチー

 ほんの数年前まで、人々は文字を使用してコミュニケーションを取り合っていた。しかし、進化したAI技術の登場とともに、その必要性は薄れていった。多くの企業や個人がAIの自動送受信機能を活用し、自らの手を動かすことなく、AIに文字によるコミュニケーションを任せる時代が到来した。

 AIのセンシティブワードチェッカーは、当初は卑猥な単語や差別的な単語をフィルタリングする目的で設定されていた。ところが、その精度が増すにつれ、ある日突如として『あそこ』という単語が『卑猥言語の可能性あり』との解析結果からブラックリスト入りした。この事実が露呈するや否や、世界中のデジタルデータから『あそこ』という単語が含まれた文章が全て自動消去された。
https://github.com/MosasoM/inappropriate-words-ja/blob/master/Sexual_with_mask.txt

 アバター会議で『彼』『彼女』と発言すると『性差別用語の可能性あり』として、日本語で話をしていても、自動的に『THEY』に単語変換されるようになった。

 その後も、次々と様々な単語がブラックリストに追加されていった。特に『あれ』『これ』『it』という単語は、『犯罪行為の隠語の可能性あり』とAIに判断され、急速に危険な単語と認識されるようになった。これにより、テキスト情報以外のYouTube、VOD、テレビ放送など、これらの単語を含むコンテンツは、次々と消え去っていった。

 やがて、ある日を境にメールやSNSには『・』の一文字だけが無限に自動送受信され始めるようになった。人々はその記号を見て、相手の気持ちや思いを察し合う時代となった。そして誰も話せなくなった。【完】

以下に収録されている『ゲイツに花束を』は、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』のオマージュ作品です。

以下に収録されている『壁バーン@秘密の愛を刻む』は、史実に基づかないBL(ボーイズラブ)作品です。

キャッチフレーズ:AI統治による種の多様性を目的とした絶滅危惧種ヤンキー保護から始まる『修羅の国』

この記事が参加している募集

AIとやってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?