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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:(BL編:壁バーン@秘密の愛を刻む)

これまでのあらすじ

 サイバーパンク小説家になることに10秒で挫折した俺は、陳腐なハードボイルド作家になった。ハードボイルド作家は、一時間で飽きてしまいゾンビ小説作家となった。だが、ゾンビ作品は一時間どころか、10分で飽きてしまったので、純文学作家に転向した。だが、人間の編集者や審査員が全て、AIになっている現代社会で、一日待っても芥川賞を受賞できなかった俺は、純文学作家を辞めてショートショート作家になった。

 ろころが、ミッキーの『キミ、このままでは一生バーボンと煙草とサイボーグ猫しかテーマにできないよ!』という忠告に従わなかった俺がバカだった。

 ミッキーにもらった未来ガジェットのショートショート自動作成器を使っても、バーボンと 煙草と 未来のサイボーグ猫の三点だけで書けるショートショートは一作品しかなかったのだ。AI無知倫理学者として、AIの創作には限界があることは知っていたが、まさかAIの創作限界以前に、俺がショートショートを書くことに飽きてしまうことは想定外だった。

『もう、プロ作家としてやっていくためには、NOTEの創作大賞に募集するしかねぇ』と悟った俺は、文藝春秋コミック編集部が求めている作品が何なのかを、広大なネットの世界から調査した。そしてついに、彼らが求めているのは、芥川賞候補作品ではなく、BLコミックの原作であることを突き止めた。

 だが、『#本は読むものではなく書くものである』という信念を持っている俺は、サイバーパンクも、ハードボイルドも、純文学も、ショートショートも読んだことが無いのだ。BLと言われても何のことだか、わかりゃしねぇ。

 こんな時に俺がやることは、一つしかねぇ。そう困った時はミッキーに聞けば良いのだ。『なぁ、ミッキー、BLってなんだか、しょこたん風に説明してくれるかい?』

 俺はバーボンを飲んだことがないので、バーボンのつもりでコーヒーを飲みながら、安煙草の代わりに、未来のエレキタバコを吹かしてミッキーに尋ねた。
 
『しょこたん』と聞いてミッキーの目が輝いた。そう、ミッキーはどら焼きと『しょこたん』が大好きなのだ。
 
『BLってのは、まぁ、簡単に言えば、ボーイズ・ラブの略なんだけど、これは男性同士の恋愛を描いたジャンルなんだよね〜。つまり男の子が男の子を好きになっちゃう、そんなドキドキな世界が広がってるわけ!

 BLは元々は女性が描き、女性が読むための文化が起源なんだ。だから、現実の男性同士の恋愛とはちょっと違う感じで、女性の理想や願望、夢を描いた作品が多いんだよね。

 それから、BL作品は、独自のルールやテーマがあって、リーダーとしての能力、或いは権力のある男性キャラクター(通常はセメと呼ばれる)と、そうでない男性キャラクター(通常はウケと呼ばれる)との関係を描くことが多いの。

 だから、BLっていうのは、男性同士の恋愛を描くだけじゃなくて、性別や権力、人間関係、社会の枠組みを超えた愛を描く一つの文化なんだよ。

 これはもう、宇宙を駆け抜けるほどの愛の物語なわけ!ちょっと宇宙船に乗って、その世界を見てみる?星の海を駆け抜けるような、ドキドキとワクワクが待ってるよ!』

『何を言ってるかさっぱりわからねぇ』…俺は一瞬ミッキーが幻覚現象でも起こしているんじゃないかと疑った。

壁バーン:秘密の愛を刻む

プロローグ

 1940年代、第二次世界大戦真っ只中のイギリス。一通の公文がアラン・チューリングのもとへ届く。政府が絶対に解読できないとされるドイツの暗号装置『エニグマ』。その解読を命じられたアランは、その困難さを察し、深刻な表情を浮かべた。

 アランとそのチームは日夜、エニグマを解読するために働き、彼らの壮絶な頭脳戦は続いた。アランは自身の同性愛と向き合い、そのことが彼に深い悩みと内的な葛藤をもたらした。そして、彼は気づいた。彼が抱える葛藤とエニグマは、互いに影響を及ぼしていたのだ。

 同じ暗号解読チームの一員だったチェスの世界チャンピオンのヒュー・アレグザンダーは、エニグマ解読装置のボンバが機能しないことに苛立ちを覚え、アランをボンベに押し付けて、『壁バーン』をやってしまった。
 
『壁バーン』ってされたらドキッとしちゃったアランはヒューと恋に落ちた。

 ヒューとの関係が深まるにつれ、アランは自分の情感と仕事への献身の間でさらに葛藤する。そして、ついに彼の秘密が暴露される危機に直面する。しかし、ヒューはアランの秘密を受け入れ、彼を支えた。

『私は困難を打破する機械を設計することができる。だけど、この心の中にある暗号... 君との感情、それをどう解読すればいいのか、ヒュー?』
 
 アランの深い瞳はヒューを見つめ、その中にある葛藤と情熱を映し出した。二人はエニグマ解読マシンの前に立っていた。それは彼らの仕事であり、また、アランの心の中に秘められた感情のメタファーでもあった。
 
 彼らの間には否応なく生じた緊張感があり、それはただの友情を超えた何かだった。アランは研究に没頭し、自分の情感に背を向けようとしていた。だが、ヒューの存在が彼の心を揺さぶった。

 彼らの関係は、まるでエニグマの暗号のように複雑で奥深いものだった。解読不可能と思われるそれは、しかし彼ら二人にしか解けない秘密のコードだった。だが、その秘密は永遠に保てるわけではなかった。

 ある日、ヒューはアランの目の前で彼の秘密を静かに語った。『君が僕に隠していること、僕は知っている、アラン…。』その声は決して彼を責めるものではなく、むしろ理解と受け入れの意志を示していた。

 ヒューの言葉に、アランは驚きと恐怖で凍りついた。彼は恐怖に震え、眼前の現実から逃れるようにエニグマに目を向けた。しかし、機械は彼に何も救いを与えなかった。

『ヒュー、わたし...わたしは...』アランの言葉は震えていた。しかし、彼が何を言おうとしていたのか、ヒューはすでに理解していた。そして彼はアランの不安を和らげるため、ゆっくりと彼に近づき、優しく手を取った。

『それがどんなことであろうと、君は君だ。それを変えることはない。だから、怖がらないで。僕たちは一緒に乗り越える。』ヒューの言葉はアランの心に染み入った。

 彼らの間に生じた深い絆は、エニグマ解読の試練を乗り越える力となった。その瞬間、アランはヒューを見つめ、自分の感情を隠さずにいられる唯一の人を見つけたことに感謝した。そして、彼はヒューと向き合い、彼への愛を認める勇気を見つけた。

『ヒュー...。君がそばにいてくれること、それが僕の力になっている。ありがとう。』アランの声は強さと誠実さで満ちていた。ヒューはアランの瞳に映る自分自身を見つめ、そして彼の勇気に感銘を受けた。

 彼らの関係は深まり、それはエニグマを解読する努力と並行して進んでいった。ヒューはアランの明晰な頭脳を尊敬し、アランはヒューの理解力と支えに愛情を抱いていた。そして、ついにその日が来た。エニグマが解読され、戦争の終結につながる情報が得られたのだ。

 しかし、喜びも束の間、終戦後、アランの同性愛が公になり、彼は強制的なホルモン治療を受けることになった。ヒューとの別れを強いられたアランは、ヒューに感謝の言葉を告げた。

『どんな困難にも立ち向かえる勇気をくれたことに感謝する。』その別れの瞬間アランはヒューを見つめた。彼の顔には、絶望と愛情が混ざり合った複雑な表情が浮かんでいた。

 一人になったアランは孤独だったが、彼の解読したコードと秘密の恋が歴史を変えた誇りを胸に、彼は自分の未来を見つめていた。彼は自身の同性愛を受け入れ、社会に向かって開き直った。

『ヒュー、あなたとの時は短かったけれど、それはわたしの人生で最も価値ある経験だった。ありがとう...』最後にそうつぶやくアランの横顔は、静かな決意と悲しみで満ちていた。

 そして、彼は一人前に立ち上がり、エニグマのような彼自身の人生を再び解読し始めた。アランは彼自身が抱える困難と向き合い、ヒューとの関係を通じて学んだことを忘れなかった。彼の愛、彼の誇り、そして彼の挫折すべてが、彼自身のパズルの一部であり、それがアラン・チューリングを彼自身たらしめていた。

 彼の人生は困難に満ちていたが、その困難さが彼の才能をより一層引き立てていた。彼の恋と彼のコードは、世界を変える力を持つことを証明した。そして彼はそれを誇りに思っていた。

 アランは自分自身と向き合うこと、自分を受け入れることを学んだ。彼の愛情は、社会の否定と困難を越えて、彼自身の存在の証明となった。

 彼はその後の日々で、ヒューの愛と理解の記憶を胸に、新たな生活を送った。彼は解読したエニグマのコードを使って、彼自身の人生を形成することにした。

 彼の勇気と才能は、彼自身と世界を変える力を持っていた。そして、彼はそれを誇りに思っていた。

エピローグ

 アランは自分の開発した暗号解読装置のボンバが、『何時か人間と同じくらい賢くなるのではないか?』と哲学的な問い掛けをしていた。だが、これが何なのかを説明するのは難しいので、俺はミッキーに『チューリングテストって何だい?』と質問した。

 するとミッキーは、『チューリングテストってのはね、一言で言えば、人間か機械か判断するためのテストなんだよ。でも、これ、ただのテストじゃなくて、すごく面白い考え方があるんだ。

 このテストを考えたのはアラン・チューリングっていう天才数学者で、彼は人間の知性がどれだけ高くても、そのうち機械も人間と同じくらい賢くなるかもしれないって考えてたの。だから、彼はこのテストを作って、人間と機械の知性を比べる方法を提案したんだ。

 このテストのやり方は、実はすごくシンプル。ひとりの評価者が、他の二人と会話するんだけど、その二人のうち、一人は人間で、もう一人は機械なんだ。でも、その評価者は誰が人間で誰が機械か分からないようにされてるの。だから、評価者はその会話から誰が人間で誰が機械か判断しなくちゃならないんだ。

 もし機械が評価者をだまして、人間だと思わせることができたら、その機械はチューリングテストに合格するんだ。

 だから、チューリングテストっていうのは、人間と機械の知性を比べるための面白い実験なんだよ! でも、これって、人間の知性とは何か、機械の知性とは何かっていう大きな問いにつながっていくの。つまり、すご〜くディープな話なんだよね! じゃあ、これからも一緒にディープな話を楽しんでいこうね〜!』

『これではダメだ! ミッキーはいまだに自分のことを、しょこたんだと思い込んでいる。これではチューリングテストよりも高度なテストが必要だ』と悟った俺は、チューリングテストを改良してツンデレテストを作る決心をした。


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