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バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫:(ショートショート編)

これまでのあらすじ
 
 作家として目指すべき道は、ハードボイルド作品ではなく、純文学作品だと気付いた俺は、昨夜、純文学作家に転向していた。

 純文学作品をnoteで発表してから、一日が過ぎ去ろうとしているのに、まだ、芥川賞受賞の報せが来ないことに、俺は不安を感じていた。少くとも唯ぼんやりした不安である。何か俺の将来に対する唯ぼんやりした不安である。いかん、これでは俺が芥川龍之介の遺稿の『或旧友へ送る手記』を暗記していることがバレてしまう。

エピローグ

 この人工知能が発達した時代に芥川賞の選考に一日も掛かることなどあり得ないことだ。しかも、noteの♡マークは、たったの10個しかついていねぇ。

 自分の純文学の才能に失望した俺は、noteのサイバー空間を一人彷徨いながら、純文学に代わるジャンルを探していた。そもそも芥川賞は、自殺した作家に贈られる文学賞だ。

『まだ、生きている俺に芥川賞をもらう資格などありゃしねぇ…』そう気づいた俺は、note作家がショートショートというジャンルを書いていることに、ふと気が付いた。

『これだ! 俺が目指すべき世界は、純文学じゃなくて、ショートショートだ』

 しかし、ついに自分のテーマを見つけた俺は、ここでまたしても窮地に陥った。

 そもそもショートショートって何なのだ? 短い作品っぽいので、五・七・五・七・七で書くのか? いや。あれは、俳句だか和歌だか忘れたが、確か他のジャンルのはずだ。百四十文字以内で、『おはようみんな! 今日も元気にがんばろうね!』とか、『それってあなたの感想ですよね』と幼稚な論破芸をやったり、知識の欠如した前科者や、自称脳科学者がデタラメな人工知能の解説をするのは、ツイッター文学という最近絶滅しかけているスタイルで、ショートショートじゃねぇしな…

 俺がショートショート作品で使えるテーマは、バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫の三つのキーワードだけだ。これだけあれば、ショートショートを書くには十分なはずだ。だが、ショートショートが何だか解らない限り、俺はショートショートが書けないという迷路に再び迷い込んでしまった。

 すると、何時ものように、あの何処にでも行ける便利なドア型ガジェットから、俺の相棒の碧い未来のサイボーグ猫のミッキーが現れた。
 
『助かったぜ、ミッキー! 俺はいまショートショートを書こうと悩んでいたところだ。なにかショートショートが書ける未来のガジェットはねぇのか?』
 
 俺はさっきまで純文学作家だったことを忘れて、安煙草を吹かしながら、バーボンをショットグラスで飲み干してから、ミッキーに助けを求めた。

『もう、キミはいつも未来ガジェットに頼り過ぎだよ。そんなんじゃ、まともな大人になれないよ!』…また、何時ものミッキーの小言が始まった。
 
『まぁまぁ、俺はすでにまともな大人じゃないんだ』と、バーボンを飲みながら煙草を吹かし、ミッキーが何かショートショートが書ける未来のガジェットを取り出してくれることに期待しながら、ミッキーの例のポケットをじっと見つめていた。そう、これこそが俺の文学スタイルなのだ。
 
 すると、ミッキーは何かを思いついたような顔をして、謎の未来ガジェットをポケットから取り出した。それは未来のラズパイ蒸留版のGTPがインストールされたショートショート自動作成器だった。

 ミッキーは説明した。『このボタンを押すと、与えられたテーマを元に、ショートショートが自動で作成されるんだよ。』

 俺は即座にそのガジェットを手に取り、バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫というテーマを入力した。ガジェットが働き、すぐさまホログラムの立体文字が浮かび上がった。
 
『バーボンを飲み、煙草を吹き、未来のサイボーグ猫と談笑する男。彼は純文学賞を獲得することを夢見たが、まだ芥川賞の報せが来ずにいる。そこで彼は決意する。ショートショート作家になることを。しかし、彼はショートショートが何かさえ知らない。その時、彼の相棒のサイボーグ猫が現れ、彼にショートショート自動作成器を与える。彼はそのガジェットを使い、自分のテーマに基づくショートショートを作成する。結果、彼は一夜にして大人気ショートショート作家になる。』
 
 俺はホログラムを読んで大笑いした。『なんだ、これは! こんなのがショートショートなのか!? これなら書けるぜ!』
 
 ミッキーは俺の大笑いに喜びながら『なら、今すぐ書き始めようか!』と俺を唆した。
 
 そうだ、俺はショートショート作家だ。芥川賞なんて、もうどうでもいい。noteの♡マークが10個しかなくても構わない。ミッキーと一緒に、バーボンを飲みながら煙草を吹かし、ショートショートを書く。これこそが、俺の新しい文学スタイルだ。

 その日から、俺はショートショート作家としての新たな人生を歩み始めた。バーボンを飲み、煙草を吹かし、サイボーグ猫のミッキーとショートショートの世界を探検し続けた。

『ショートショートとは何か?』…その答えは皆それぞれ違うかもしれない。だが、俺にとってショートショートとは、バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫をテーマに、一つの物語を短い文章で表現することだった。それは、自分の思考を最小限の文字数で練り上げ、読者に深い印象を残す挑戦だ。
 
 しかし、未来のガジェットとはいえ、ショートショート自動作成器が生成する物語には限りがあった。だが、それは俺にとって一つの強みだった。ショートショート自動作成器が生成する物語を読み、そこから自分なりの解釈を見つけ、自分自身のショートショートを生み出した。

 やがて、noteの♡マークは10個から100個に、そして1,000個へと増えていった。俺のショートショートが人々に受け入れられている証だ。芥川賞なんてもうどうでもよくなっていた。俺はショートショート作家として、人々に感動を与え、考えさせる物語を書き続けることができれば、それで十分だった。

 ミッキーも俺の成長を見守りながら、いつものように小言を言った。『キミ、このままでは一生バーボンと煙草とサイボーグ猫しかテーマにできないよ!』
 
『そうだな、ミッキー。でも、それでいいんだ。それが俺のスタイルだからさ』…俺はバーボンを飲み干し、煙草を吹かしながら、新たなショートショートのアイデアを考え始めた。
 
 そう、俺はショートショート作家だ。バーボンと煙草と未来のサイボーグ猫、それが俺の世界だ。これからも俺は、この三つのテーマを元にしたショートショートを書き続けるだろう。だって、それが俺のスタイルだから。
 
つづく…

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