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AIとAI倫理の理解がビジネスチャンスとなる職業(弁理士編)

1.AIが弁理士に提供するビジネスチャンス

 AIの普及はAIの本質を理解している弁理士にとって、非常に多くのビジネスチャンスを創出します。AIを駆使できる弁理士は、業務を効率化し、より高い付加価値をもたらす作業に注力したり、新たな分野に進出し、新しいサービスを提供することも可能にします。

 AIがサポートできる具体的な業務には以下が含まれます。
 
(1) 特許調査
(2) 特許出願書類の作成
(3) 特許侵害訴訟の対応
(4) 特許戦略の策定
(5) 特許ライセンス契約の交渉

 
 このブログは一般読者向けに、かなり専門用語や概念を意訳して説明しているので、弁理士や弁護士にとっては、常識的なことも含まれていますが、専門家の方は一般論として、軽く読み流してください。
 
 弁理士の職務の一つに、クライアントが提出する特許出願が新規性を持っていることを、特許庁や出願者の潜在的なライバル企業や、投資家候補などに認めさせることがあります。
 
 新規発明でなければ、そもそも特許にはなりませんが、これは類似特許だけでなく、膨大な数の学術論文なども調査したうえで、出願した特許が、公開されている既知の技術ではないということを確認し、特許庁に認めさせる必要があります。しかし、このプロセスは非常に複雑で、全ての既知の技術情報を調査するという膨大なタスクが伴います。
 
 更に困難な事態として、特許が取得された後でも、『公然』の情報源から新たに見つかった情報が既に取得した特許と一致すると、特許は無効化される可能性があります。このような情報は、例えば博物館に残された古い科学技術文献から見つかることがあります。ここで言う『公然』とは、情報が公的にアクセス可能な状態を指し、これは広範であるため、全ての情報源を網羅して調査することは事実上不可能です。(このあたりまでは常識です)

 このような状況では、AIの力を活用することで弁理士がより効果的な業務を遂行することが可能になります。AIは膨大なデータを迅速に処理し、複雑なパターンを見つける能力があります。これにより、広範で分散している既存の技術情報を素早く探索し、発明の新規性を評価するための情報を提供することができます。

 AIは非構造化データを含む多種多様な情報源から情報を取り出すことができます。つまり、特許データベースだけでなく、科学技術文献、報告書、ウェブ上の情報など、広範な情報源から関連情報を探し出すことが可能です。

 したがって、AIの力を駆使できる弁理士は、より広範かつ詳細な技術情報の調査を行い、特許取得の確実性を向上させ、特許が無効化されるリスクを低減することができるでしょう。これらは、特許を取得した後でも、隠れていた技術情報による特許無効化のリスクを防ぐ上で重要な点となります。
 
 また、弁理士の業務として、ライバル企業の特許を無効化しようとする際にも、上記のAI活用技術を活用することが可能です。

 さらには、AIが特許調査を自動化することで、弁理士はより創造的な発明のアイデアを考えたり、特許戦略を策定することに注力できます。また、AIが弁理士がAI技術に関する特許を取得したり、AI技術を活用した新しいサービスを開発することも可能にします。
 
 このようにAIの急激な普及は、AIが活用できる弁理士にとって大きなビジネスチャンスをもたらし、より効率的かつ効果的な業務遂行、新たな分野への進出が可能となります。
 
2.AIに関連した特許取得の可能性について

 近年、膨大な数のAI関連ベンチャー企業が立ち上がっています。このことは、AIに関連した特許取得を得意としている弁理士にとっては、非常に有利な状況と言えます。

 弁理士や弁護士相手にこのような説明をするのは釈迦に説法ですが、数学や物理法則の発見は、特許法上取得できません。これは、これらが人間の創造性や知的労力の結果というよりは、自然界に存在する普遍的な法則であるためです。それらは『発明』の要件を満たすことができません。

 AIの開発では様々な数学テクニックを駆使していますが、数学以外の観点から、AIに関する特許取得は可能です。これらには、AIのアルゴリズム、ソフトウェア、ハードウェア、そしてAIの応用技術などが含まれます。

 AIに関連する特許を取得するためには、AIが独力で発明したものではなく、それら人間の創造性と知的労力を反映したものであること、そして特許法で規定されている『発明』の要件を満たしていることが重要です。AI自体の発明に関しては、現時点では国際的なコンセンサスは無く、こういった議論や、ガイドライン作りはAI倫理学の得意分野です。
 
3.AI関連特許の取得可能性と不可能性

 AIが単独で発明したものや、人間の助けを借りずにAIが作成したものは特許を取得することはできません。これは、特許法上、発明者は『自然人』であることが要求され、またAIによって生成された発明は、特許明細書に十分に記述することが困難であるからです。
 
 一方、AIが人間の助けを借りて作成したものや、AIが人間の創造性と知的労力を反映したものは特許を取得することが可能です。たとえば、人間の指示に従ってAIが作成したソフトウェアや、AIが人間の創造的なアイデアから派生した発明などが該当します。
 
 AI関連の特許は、今後も増えていくことが予想されますが、その際には、AIが単独で発明したものではなく、人間の創造性と知的労力を反映したものであることが重要となります。
 
4.プログラム、著作権、アルゴリズム特許の関係
 
 プログラムは、その表現の形として著作権によって保護されます。これにはプログラムのソースコードやオブジェクトコード、画面デザイン、ユーザーインターフェースなどが含まれます。

 一方、アルゴリズム特許はプログラムのアルゴリズムを保護します。アルゴリズムとは問題解決のための手順で、その特許は新規性、進歩性、そして産業上の利用可能性がある場合に取得できます。

 つまり、プログラムの表現は著作権によって、アルゴリズムは特許によって保護され、これらは同時に取得し保護することが可能です。プログラムの著作権とアルゴリズム特許の両方を取得することで、より強固な保護を確立することが可能となります。これにより、他社による不適切な利用を防ぎ、クライアントの知的財産権を守ることができます。

5.アルゴリズム特許の概念と、オープンソースを活用した特許出願に関する注意点

 アルゴリズム特許は、アルゴリズムそのものや、それを使用したシステム、装置、方法などを保護します。アルゴリズムは、その手順が新規であり、産業上有用で、かつ、進歩性がある場合に特許を取得することができます。

 しかし、オープンソースソフトウェアを使用した場合、特許出願には注意が必要です。オープンソースソフトウェアは一般に、そのソースコードが公開されており、自由に利用、改変、再配布することが可能ですが、その利用にはライセンスに従うことが求められます。特に、オープンソースソフトウェアの一部を改変して新たなソフトウェアを作成し、それを特許出願する場合、オリジナルのオープンソースソフトウェアのライセンスに違反しないか確認が必要です。

 また、オープンソースソフトウェア自体は誰でも利用することができるため、そのソフトウェアに含まれるアルゴリズムを用いて発明を行った場合、その発明が新規であると認められる可能性は低いでしょう。そのため、オープンソースソフトウェアを利用した発明については、新規性や進歩性を確保するための独自の改良や追加が必要となるでしょう。

 これらの理由から、オープンソースソフトウェアを利用した発明の特許出願には十分な注意が必要です。特許出願の際には、ライセンス遵守、新規性、進歩性、産業上の利用可能性など、様々な要素を慎重に考慮することが求められます。

6.機械学習のトレーニングデータとその調達
 
 機械学習では、モデルの訓練に大量のデータが必要となります。これは、モデルがパターンを学習し、将来の予測を行うために必要なプロセスです。しかし、適切なトレーニングデータを集めるのは難易度が高い作業であり、特許においてもその取り扱いは難しい問題となっています。

 特許出願を行う際には、その発明が新規であり、産業上有用であること、そして発明が当該技術分野における一般的な技術者に再現可能であることが求められます。しかし、特許出願のための機械学習モデルの説明だけでなく、そのモデルを訓練するためのデータセットについても説明することが期待されます。これは、特許を実施するためには、モデルだけでなく、それを訓練するためのデータも必要であるからです。

 さらに、データの取得自体には様々な問題が関わってきます。特に、プライバシー問題やデータの所有権など、データを取得、使用するにあたっては法的な制約が存在します。これらの制約を遵守しながら、適切なデータを調達することは容易ではありません。

 以上の理由から、AI技術を用いた発明の特許出願では、データの取り扱いについても十分な注意が必要です。データセットの説明、データの取得・使用に関する法的制約の遵守など、様々な視点からの慎重な対応が求められます。
 
7.未来への展望
 AI技術と特許法制度の間にはまだ多くの課題が存在しますが、これらの課題を解決するための努力が世界各地で行われています。一方で、AI技術の急速な発展に伴い、新たな問題や課題も次々と出てきます。これらの課題に対応するためには、法律家、技術者、政策立案者など、様々な専門家が共に働き、規制やガイドラインを進化させていく必要があります。

 今後もAI技術の発展は止まることなく、その進歩に伴い新たな発明や革新が続々と生まれてきます。それらの発明が社会に広く貢献し、産業発展を支えるためには、適切な特許制度が必要です。特許法は、発明者の努力を保護し、イノベーションを奨励する役割を果たしてきました。しかし、AIによる発明に対する適切な保護を確保するためには、特許法の現状の枠組みを超えて、新たな規範や指針が求められています。

 これからも、AIと特許法の間のギャップを埋めるための議論と改善が求められます。具体的には、AIが発明者と認定される条件、適切な情報開示、そしてデータの取り扱いに関する問題など、さまざまな問題に対する明確なガイドラインの策定が期待されています。

 AI技術と特許法の接点は、今後ますます重要な課題となることでしょう。そのためには、さまざまな専門知識を持つ人々の協力が不可欠です。私たち一人ひとりがこの問題に取り組むことで、より良い未来を作り出すことが可能となります。

6.AI倫理を熟知した弁理士の強み

 AIが様々な業界で急速に普及する中で、弁理士がAI倫理を理解し、適切に応用することは重要な利点となります。以下にその主なメリットを述べます。
 
(1) 高度なコンサルティングサービス
 弁理士がAI倫理を理解することで、企業がAIを開発・導入する際の倫理的な課題を予測し、適切な対策を提案することが可能となります。これにより、企業のリスク管理とブランド保護を助けることができます。また、AI技術を利用した新規ビジネスを検討している企業に対して、技術的な側面だけでなく、倫理的な側面からもアドバイスを提供でき、より総合的で高度なサービスを提供することができます。

(2) 新しいビジネスチャンスの開拓
 連日、AI倫理や国際的なAIガイドラインの制定に関する国際会議などが開催されていることからも明らかな通り、AIの倫理的な問題は今後ますます注目される分野となっています。したがって、AI倫理の知識を有する弁理士は、新たなビジネスチャンスを開拓することができます。これには、AI技術の倫理的な使用に関するガイドラインやポリシーの策定、AIを使用する企業のコンサルティング、AI倫理に関する教育・研修サービスなどが含まれます。

(3) 信頼と評価の向上
 AI倫理の知識を持つ弁理士は、クライアントからの信頼を得やすく、業界内での評価を高めることができます。特に、AI技術に携わる企業や組織からの需要は高まるでしょう。

(4) AIの進歩とその影響の理解
 AIが進化し、社会に与える影響が増すにつれて、それに関連する法律や規制も変化する可能性があります。AI倫理を理解することで、これらの変化に迅速に対応し、クライアントに最新の情報と助言を提供することができます。

 以上のように、AI倫理を学ぶことは弁理士にとって多くのメリットをもたらし、より高度なサービス提供につながります。

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